君達にはまだまだ早すぎる(パズドラ十万打番外?/紫苑様)
――発端はエキドナちゃんの、純粋な興味。
「結局のところさァ、アンタら二人でどっちが強いわけ?」
ロキさんとルシファーさんが我が家最大の課題である攻撃力について話し合っている時に、だ。エキドナちゃんが興味本位で投げ込んだ爆弾は当然のように爆発し、私が呆然としている間に二人の間には火が付いてしまってもうそれは止めようもなくなってしまっていたのだ。焦った私がエキドナちゃんを引きとめようとした時には既に、二人は勝負の体制に入ってしまっていたんです。
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……と、言うわけで初めまして。私、アルラウネと申します。現在進行形で巻き込まれ、お二人の強さを審判することになってしまった哀れな精霊と今なら自称出来る気がします。本当にもう、どうしてエキドナちゃんはこういったトラブルばかり引き起こすんでしょう…溜め息を吐くとセイレーンさんがぽんぽん、と肩を叩いてくれた。「悟りましょうアルラウネ、…今はとにかく、二人を実力対決に持ち込ませないようにしないと」「セイレーンさん…!」まるで女神のようです、流石は回復メンバーの良心。「私もお手伝いしますよ。――実力行使で対決なんてされたらここ、壊れちゃうでしょうし」エンジェルさんの苦い顔に事態は深刻な事を悟る。
既存の通り、ロキさんもルシファーさんもこのパーティの主力だ。二人とも神様の名前を抱くとても強い存在であり、そんな二人が我らがマスターに惚れ込んでいるのは最早(誰も口には出さないけれど)周知の事実となっている。度々マスターを巡って火花を散らすのはもう日常茶飯事となってしまっているから、ああ、どっちがマスターの心を掴むんでしょうねえと優しく身守ることは出来れどマスター不在時にまさか二人の闘争心をエキドナちゃんが煽るなんて思って無かったんですもん!
「ほーう?私は既に名前からの『愛のおかげ』で進化済みなんですが」
「フン、愛とはよく吠える。私の方が明らかに強い」
「レベルでは私の方が上ですし、名前と過ごした時間もルシファーより圧倒的に多いですよ?」
「愛に時間は関係無いだろう。そもそも、ロキは私が来るまで何も出来ていなかった」
「……ルシファーも何も出来ていないでしょう」
「どうだか。今に主は私のものになる」
「させませんよ?名前は私のものです」
「マスターは誰のものでもないって突っ込んじゃダメなのかなあ…」
「アルラウネ、命捨てる気?」
独占欲丸出しな二人の会話を聞き、思わずそんな事を呟くとセイレーンさんに窘められる。だって、出来る事なら私だってマスターを独占したいという気持ちがあるのに本当、……恋の力って怖いなあ。同時に凄い、とも思うけれど。「いやあ、男の嫉妬は醜いな!」飯が美味いぜ、とにやにやしているエキドナちゃんはもう見ない事にしよう。
今にも実力行使に移りそうな二人をさて、どうやって止めましょう。正直あの様子を見ているとしばらくはマスターがどっちのものか対決でなんとか―――「こうなったら私の実力、思い知らせてあげますよ!」ろ、ロキさん!?「上等だ、消し炭にしてくれる…!」る、ルシファーさーん!?いつも笑顔のロキさんはどこへ、クールなルシファーさんはどこ!?ってあああ!ロキさんダークエンハンス発動して本気、や、待って待って待って!?ルシファーさん明けの明星の構えに入ってる!?「どうしよう、私達まで消し炭にななななななな、なっ!」「…い、良い人生だったわ」「セイレーンさん諦めないで!」目から光を失ってしまったセイレーンさんが倒れるのをなんとか受け止め阻止する。ロキさんの怒涛の攻撃をひたすらに耐え、一撃必殺に掛けるルシファーさん。
闇色の炎が交差する中で、ルシファーさんがにやりと笑って必殺の構えに入ったのが分かった。ああ、私塵になるんですね…思えばエキドナちゃんに振り回される人生もマスターに出会ってからは良いかな、なんて思い始めてたくさんお友達も出来て……「アルラウネさん、回想はフラグです!」「エンジェルさん…」エンジェルさんは闇に弱いはずなのに、どうしてそんなに強いんですか?明けの明星はだって、
「大丈夫ですよ、ほら!」
「…へ?」
指差した先に目を向ける。――エキドナちゃんが走っていた。「お前らちょっと、おふざけが過ぎるぜーっとォ!」猛る炎と鋭い視線。エキドナちゃんの威嚇が二人にばっちりキまったらしかった。「おい今だぜマスター!」……マスター?振り返ると、ブラキオスさんを横に従えたマスターが息を切らしていた。「間に合ったみたいで良かったわ…」「リリスさん!」呼びに言ってくれていたのか。「私が図書館に行っているあいだのお留守番も出来ないのかなあ、あの二人…」ブラキオス、と困ったように笑うマスターが傍らの相棒を振り仰いだ。「二人を"力づくで"止めてくれる?」
こちらも困ったような顔をしたブラキオスさんが、少しだけ溜め息を吐いたように見えた。そのまま大きく息を吸い込んだブラキオスさんは、容赦無くガイアブレスを二人に向かって打った。レベルならばロキさんを軽く凌駕するブラキオスさんのガイアブレスは見事命中。優しい木々の香りがふわりと香る。
「やっぱり、ロキさんにもルシファーさんにも早いです」
「ん、何が?」
「マスターはやっぱり、ブラキオスさんの隣にいて、みんなの中心で居てください」
「…よく分かんないけど、アルラウネ、ありがとう…?」
にこりと微笑むとマスターの(少し不思議そうな)嬉しそうな笑顔が帰ってくる。ガイアブレスをまともに受け、地に伏せている狡知神と大天使なんてもう知りません。マスターはみんなのマスターで、お二人にはまだまだ早いです。ねえ、ブラキオスさん?
君達にはまだまだ早すぎる
(2013/10/29)
十万打より紫苑様のリクエストで、ロキVS天ルシでした!
星乃の中ではパズドラ連載の番外扱いになってしまったので、本編で全然目立たない回復姫を若干中心に持ってきました。完全に裏話というか、自分の中でアルラウネちゃんとエキドナさんが幼馴染で、アルラウネちゃんがエキドナさんに(属性相性的な意味でも)逆らえないみたいな関係〜みたいなのをいつか書きたいなと思っていたのを遠慮無しに突っ込ませて頂きました。反省もしています。後悔も少しばかり。
暖かいお言葉と、いつも応援のお言葉をありがとうございます。ご参加に感謝を!
(※本人様以外のお持ち帰りはご遠慮下さい)