猫はきちんとしつけておきましょう(漆原/里子様へ)


気まぐれな悪魔は星の数ほど居れど、名前の気まぐれさは苦手だ。好きな時に食べ、眠り、性欲を発散する。それは今も昔も変わらない。

基本的に欲望に忠実な名前は常に、寄り添う存在を取っ替え引っ変えしている。判断基準は好みかどうか、ただそれだけだ。好みとあれば即座に篭絡し、逆になんの興味も沸かない場合は視界にすら入れない。男だけならまだしも時折同性愛に走ろうとするのには本当に頭が痛くなるけれど、悪魔だからしょうのない事だと思う。悪魔は基本的に種を維持しようとするため、交わりたがるのだ。結果、混血が出来上がったりも少なくない。(そんな事大して興味も沸かない)現状を言えば人間との間に子を成すようなヘマは絶対に名前はやらかさないだろうし、じゃあ何をしているのかと言えば多方催眠をかけて魔力を吸い取りついでに体を重ねると予測出来る。それぐらいのレベル。

僕と名前の間柄を人の言葉を借りて表現するなら、"恋人"と言ったところだろう。じゃあ何故名前が他の男と寝ていても気にならないのかって?別に、心配になった事なんかない。慣れっこというか…要するに信頼を置いているわけだ。名前の心はいつでも僕の傍らにある事が分かりきっているし、それを名前も知っている。心を手に入れているのだからくだらない嫉妬なんてしない。労力の無駄だし、そんな事よりゲームがしt、


「アルシエルーっ、抱いてー」
「……お前は本当に見境が無いな」
「んん、だってチホもエミもおっぱい触ったら怒るんだもん」
「当たり前だろうこの馬鹿。第一にお前は漆原が…」
「ルシフェル?最近マンネリ?っていうの?」


「ふっざけないでよ名前!?」


思わず押入れから飛び出すと驚いたような顔をした名前が「あれルシフェル起きてたんだ」と少し残念そうに呟いた。…いや何で残念そうなの?そこら辺の人間相手に色仕掛けして催眠かけて魔力吸い取るぐらいなら許せるけど流石に芦屋は許容範囲外だよ!?第一にマンネリってなんだよマンネリって!「えーっと……こ、言葉のあや、ってやつ?」「あからさまに気まずそうな顔すんな!」指摘するとふい、と顔を逸らした名前がこれまた分かりやすく口笛を吹き始める。なにこれなんの耐久試されてるの?


「漆原、とりあえず落ち着け」
「芦屋はいいよね人事だもんね!」
「そうだな」
「…アルシエルってやっぱりクールで素敵…」
「名前!?何芦屋に心揺らがされてんの!」
「少なくとも煩いだけのニートなルシフェルよりは素敵だわ」


私でさえ働いてるのに、とこういう時だけ真顔で返してくる名前を睨む。「ああもう!芦屋出ていって!」「何故だ。ここは魔王様と私の部屋だぞ」夕飯の仕込みをしなければならないのに、なんて言い出す芦屋に苛立ちが募る。そんな場合じゃないっての!「じゃあどういう場合なんだ、お前がきちんと名前の手綱を握っていないのが悪いんだろうが」「う、それは、僕は名前の意思を尊重して……というか、自由が大好きな名前だから、あんまり束縛したくないと言うか」「ルシフェル、そんな事考えてたの?」気まずくなって名前から目を逸らす。ああもう、顔が熱いのは名前にも芦屋にも見せたくない。でもこれだけはきっぱりと言いたいから顔を上げた。


「でも芦屋はだめ」
「……どうして?」
「………どうしてだっていいだろ」
「んー、アルシエルは良い男だから自分が負けそうになっちゃうって?」
「そ、そんな事無い!」


にやにやと笑う名前は完全におもちゃを手に入れた子供の顔。ああ変なスイッチ刺激したな、と思いつつも否定に真実味が無かったのは少なからずそれを認めているからだ。本当、どうしてこうなったのか。ちゃんと名前を縛っておけば良かったのかもしれない。猫はきちんと家の中でだけ、ってさ。

ああもう!と叫んで立ち上がった。「名前、」「なにー?」これだけ僕がお前の奔放主義を許しているのに、愛する悪魔はまったくそれに有り難みも何も感じていないのがよーく分かった。ああもう、正直に言うなら僕以外に触れないで欲しいです。佐々木千穂も狙ってるみたいだけど却下。雑魚な男共もいつ名前の心を掴んで離さなくなるのか分かったもんじゃない。それとも、もう名前は男を取っ替え引っ変えする事に心を奪われているのかな?ったく、そんなの許せるはず無いじゃん。

放任主義はもう終わり。がんじがらめに縛らないと安心出来ないから、とりあえず名前の手を弾いた。呆れ顔の芦屋を横目に部屋を出て、真隣の名前の部屋に入っていく。「な、なにルシフェル」「自由にさせとくのを終わらせんの」マンネリだなんて言えないようにしてあげるから、とりあえずこっち来て。



猫はきちんとしつけておきましょう

(お、おいアルシエル!隣から破廉恥な声が…!)
(気にするなベル、悟れ)
(悟れ!?)

(2013/10/27)

十万打より里子様に捧げさせて頂きます。リクエストありがとうございました!

夢主がビッt…いえこれはぎりぎりセーフ…?なのでしょうか…?とりあえず漆原は放任主義→いやそれは愛ゆえの信頼→結果放置、と浮かんだ結果がこれです。ちなみにこの話ですとベルが魔王城の隣の隣に住んでいるという事になっています。わかりにくいかなあと思ったので補足です。
長々とお待たせしてしまいまして、本当に申し訳ありませんでした;頂いたお言葉どれも本当に嬉しかったです。ありがとうございます!

(※本人様以外のお持ち帰りはご遠慮くださいませ)