それがきっと青春というやつです(井吹と白竜取り合い/翁浦様へ)
※キャラ大崩壊


本当に勘弁して欲しい。聞こえるように吐いた溜め息はやっぱり二人の騒がしい声にかき消された。こんな事になるなんてまさか、……思わないじゃない。せめてもう少し様子を伺えば良かったと後悔してももう遅い。


「白竜、お前は関係無いだろ!剣城なら向こうに居るぞ」
「フン……名前と俺は運命で結ばれているんだ。俺がここに居ることを名前はお見通しだったのだろう?」
「運命だァ?お前が居たのは偶然だっての!」
「私が二人に遭遇したことが偶然だったら運命って本当…嫌味だって……」


ぽつりと呟いたけれども騒ぎながら取っ組み合う二人の耳には入らない。ああもう、投げ飛ばして地面に叩きつけようかと思う勢いで手元の箱を持ち上げた。――手作りのシフォンケーキである。大成功と言ってもいいレベルで細かいスポンジを焼き上げる事に成功した私はこれを差し入れしようとイナズマジャパンの宿舎にやってきたのです。

そうしたらまあ偶然、グラウンドを横切ろうとしたら白竜と井吹のコンビに捕まってしまったのです。なんという不運。いや不運というべきか、タイミングが悪かったと言うべきか。(井吹が白竜と練習をするなんてとても珍しい光景だと、数十秒ほど見つめていた私が悪い…とは思わない。)二人は何故だか知らないが、私にやけに執着しているのである。最初こそドキドキしたりもしたが今は慣れた。適応って怖い。二人とも顔は整っているのに迫られてももうドキドキしないんだもの。

そんなわけで私に執着している二人が揃って、私の持っている箱に目を付けた訳で。最初こそ誤魔化そうとした私だが、偶然近くを通りかかった真名部君と皆帆君によって箱の中身がケーキだと暴かれてしまったのである。『リボンでラッピングしてあるということは、…好きな人にでも持っていくのかい?』なんて至極楽しそうに言い放った皆帆君は空気が読めないんじゃないだろうか。…もしかして確信犯?私が困ってる状況を面白がって言ったのか!?タチ悪いよ皆帆君!友達だったんじゃないのか私達!


「おい名前!今、別の男の事考えただろう!」
「……あーうんうん、考えたかもしれない」
「っ、誰だ?お前は俺だけを見ていれば良、」
「ストップ白竜考えてないから変な方向に走りそうになるのやめて!?」


流石というべきか、こういう時だけやたらと鋭い白竜が詰め寄ってきたので無理矢理笑顔を作って返した。白竜はこれだから扱いに困るんだ…!いつか(冗談抜きで)ヤンデレ化しそうで怖いのである。私より可愛い女の子なんていくらでもいるのに何故私にこうも執着するんですか白竜さん!「愚問だな、俺にとっては名前が一番魅力的に見えるからだ」「えっ今心読んだの?私声出てないよ?」「…愛だ」わあ頬染められたー…って事は、


「ふざけるな白竜!名前は俺のだ!」


ぐいっ、と肩を抱き寄せられた。私あなたのものでもないよ井吹、とは何度も繰り返したが聞いて貰えた試しがないのでもう流す事にしよう。後ろから井吹に抱きすくめられているが私の頭のなかはいかにシフォンケーキを守るかということだけです。手に持っている箱を井吹に潰されないようにそっと、傍にあったベンチに置く。ああこれで一安心……でもなさそうですねー。おーい井吹、白竜がすっごい顔してるよー


「いつお前のものになったんだ井吹」
「いつ?お前が名前と知り合うずっと前からだ」
「ふざけるな。名前は俺と運命で結ばれているんだ!」


ぎゅう、と前から白竜に抱きつかれる。私を挟んで私の頭の上でぎゃあぎゃあと言い争いをする井吹と白竜に、こうまでされて何故ときめかないのかむしろ自分に疑問を抱く私。しかし白竜も井吹も恥ずかしい事ばっかり言うな…!思春期にはつらいですとクサいセリフに頬を赤らめていると、視界の隅に予想外のものが映る。途端にどくん、と高鳴る心臓。


「……剣城くん?」


――密着している井吹にも白竜にも聞こえたのだろう、私の心臓の音と声は。二人の腕の間から見つめる先には呆れた顔の剣城君がいて、私の心臓はどくどくどくと大きな音を響かせていた。「また苗字を困らせてたな、お前らは」大丈夫だったか、と掛けられる声にぎくしゃくとした動きで頷いた。「う、うん、だいじょう、ぶ」「いつも本当に悪い」「そんな、剣城君が謝ることじゃないよ」

ああ、どうしてだろう。女の子が憧れるようなシチュエーションで、とっても綺麗な男の子二人に取り合われてもどきどきしないのに、剣城君が来たらこんなに、面白いぐらいに、爆発しそうなぐらいに心臓が高鳴るのだ。思わず二人を振りほどいて、ベンチに置いたケーキの箱を取った。そう、誰の事を想いながら焼いたか、なんて決まっている。


「…苗字、それは?」
「すごく綺麗に焼けたの。松風君達と一緒に食べてくれないかなって。…甘いの大丈夫?」
「ああ、嫌いじゃない」
「良かった…!」


受け取って貰えたのが嬉しくて、思わず笑顔が溢れていた。「えっとね、剣城君」「何だ?」どきどきする心臓を抑えて、一度深呼吸。「良かったらその、感想…とか」「ああ、メールででも送る」「本当!?」やった、メール送ってくれる!剣城君が携帯電話を取り出したので私も取り出した。剣城君のメールアドレスを登録すると、じんわり涙が溢れそうになる。ああ、恋って素晴らしい!



それがきっと青春というやつです


(2013/10/14)

十万打より、翁浦様に捧げさせて頂きます。
井吹と白竜の取り合い剣城落ちということで、見事調子に乗りました。白竜が半分ヤンデレ化しかけててこれは誰だ…となりつつですが、楽しく書かせて頂きました!
あとお誘いも本当に嬉しかったです。初めてそういったことを言って頂けたので…管理人冥利に尽きます。機会がありましたら、是非(私なんかで宜しければ)また誘ってくださるととても嬉しいです。ご参加ありがとうございました!

(※本人様以外のお持ち帰りはご遠慮くださいませ)