予測の範疇にも無かった言葉(漆原/伽子様)
※真奥視点


「名前ー、そこのジュース取ってー」
「甘えないで自分で動きなさい」
「そんな冷たいこと言わなくて良いじゃーん……っと、あぶな」
「だってルシフェル、いつも私に取りに行かせて…っとと、そこ隠し扉あるけどスルーする?」
「別にいつもじゃないけど……えっほんと?どこ?」
「いつもだよー……っと、ここに隠しスイッチがあるから、ほら」
「うわほんとだ!コインここにあったのかよ!ちっくしょー…」


小さく唸りながら畳に顔を突っ伏すルシフェルを横目にずずっ、と茶を啜った。隣では呆れたような恵美が腕にアラス・ラムスを抱え、鈴乃やちーちゃんと楽しそうに会話を弾ませていた。今日は俺のシフトが休みの日で、恵美も休みで、アラス・ラムスがうちに来る日だった。だからちーちゃんや鈴乃も当然うちに来ることになり、そしてそんな日に限って予告も無しに、部下の一人が遊びに来てしまったのだ。そうしてお子様二名が始めてしまったのは携帯ゲーム機の通信プレイ。

この世界に来て居座っている、俺の忠実な部下にして魔王軍では数少ない女悪魔の名前。当然俺達と同じく魔力が尽きていて人間の姿。人間の姿での年齢としてはルシフェルと同じ未成年で登録している名前は、ちーちゃんと同じぐらいの見た目だがそれでも芦屋より少し年上なのである。つまりロリバb…「魔王様、何か?」じっと見つめていたからか(それとも俺の失礼な思考を察知したからか)名前がこちらを向いた。笑顔がどことなく怖かったのは何故だろう。「な、なんでもない!」即座に謝罪して目を逸らすと名前ー、とルシフェルが名前を呼ぶ。あ、名前の目線が逸れた。助かった。


「この敵キャラって倒せないのー?」
「あ、そいつはね、特殊アイテムじゃないと。そこ通って、その先にある…ほらそれ」
「うええ、結構ギリギリじゃん」
「取らなかったの?さっきのブロックの上に置いてた透明になれるやつ」
「えええ!?制限時間内でここまで!?」


……正直、ゲームの話はまったく分からないのだが、身をぴったり寄せ合って二人で一つの画面を覗き込む様を見て、いつも思う事がある。なあ恵美?「……そうね、前々から思っていたけれど、あの二人は本当に兄弟じゃないの?」「生憎だが血の繋がりは全く無い。そもそも名前と私はかなり古い付き合いだしな」そういえば幼馴染のようなものだということを、以前芦屋から聞いたっけか。向こうでもこちらでも芦屋が名前と漆原の世話を焼いているせいでこの二人が俺達より年上とは到底思えないし、むしろ我が家のお荷物なお子様二名という体なのだけど、それでも年上は年上である。俺達の知らない知識を所有するのだ。や、まあ立場的には俺が上なんだけど。王だし。


「ままー、ぱぱ楽しそうー」
「そうね、あの顔は愉悦に浸ってる顔だわ。真似しちゃ駄目よアラス・ラムス」
「そうだな、あのだらしない顔を真似するようでは立派な大人になれんぞ?」
「でもあの満足げな顔の真奥さんも素敵…」
「千穂殿、それは最早手遅れな病気だな。気が知れん」


おい鈴乃聞こえてんぞ、と振り返らずに告げるとわざとらしい咳払いが聞こえた。ったく、良いじゃねえか王ぶったって。実質俺王様だしな!「そういえば真奥さん、」「ん?」ちーちゃんの声が俺に問いかけてきたから今度こそ振り返ると、横目で名前とルシフェルをちらちらと伺うちーちゃんの姿。


「名前さんと漆原さんって、兄弟じゃないならどういう関係なんですか?」


――ちーちゃんからすればふとした疑問なのだろう。しかし俺の脳裏には雷が落ちたかのような感覚が走った。恐る恐る横を見やると芦屋が呆然とした顔をしている。「……………芦屋」「………魔王様」男二人で顔を突合せ、そして二人して名前と漆原を振り返る。「あ、ルシフェルそこ!あぶ、あぶな…うわ神業!?」「へへ、僕にはまだまだ及ばないみたいだね」「む、私だって負けないもんね」まるで子供のようにきゃっきゃと無邪気にゲームではしゃぐ二人の姿を捉え、俺と芦屋は静かに頷く。兄弟でもない。部下と上司でもない。大元帥同士というわけでもない。


「「……友達?」」
「悪魔に友達なんて認識があるのかしら」
「「う゛っ」」


恵美の鋭い突っ込みに芦屋と二人して言葉を詰まらせた。「…や、だって知らねえもん」「そうですね、向こうでも……気がつけば二人は常に一緒ですし」まるで親友同士のように、常に面白い事を見つけようとルシフェルを名前が引っ張っていたり、ルシフェルが名前を引っ張っていたり。堕天使が魔王軍に馴染むきっかけを作ったのが名前だ。無邪気な子供のような名前と、なんだかんだ幼い見た目で年齢に見合わず子供なところが多かったルシフェルと名前の馬が合っていたからつるんでいるだけ、だと思っていたのだが、確かに悪魔に友人だなんて感覚があるはずもない。

じゃあ、目の前の二人はどういった関係なのだろう。「気になるなら聞けばいいじゃない」恵美お前そんな簡単に言うんじゃねえ。王としてかなり近しい位置にいた部下の関係性を知らなかった事に地味にショック受けてんだよ俺は。それは芦屋も同じだったようで、知りたいという感情が目に見えて表情に現れている。そして集中する期待の目線は俺を介して名前とルシフェルへ。……くそ、聞けば良いんだろ聞けば!


「おい名前、漆原!」
「なんですか魔王様」
「なあに真奥、今良いとこなんだけど」


まったく同じ動作でゲーム機から顔を上げ、俺の方へ首だけ向ける畳に寝転がった二人。その距離はゼロなんかじゃなくて、しかし遠く離れてもいない。やっぱり俺、こいつらの関係が友達意外に思い浮かばねえんだけどなあ…「なあ、お前らってどういう関係なの?」実に今更過ぎる問いかけに一瞬呆ける名前と漆原。

二人は一瞬呆けたあと、顔を見合わせた。「ルシフェル、言ってなかったの?自分で報告するから〜とか言ってたのに」「……忘れてた」「恥ずかしかったのね」「…や、忘れてた…だけ、だし」「正直になりなさい」「………そうだよ!恥ずかしかったんだよ!」――小声ながらに静かな六条一間にはばっちり響く秘密の会話。明らかの雲行きの怪しさにまさか、と恵美が小さく唸った。寝転がっていた名前が立ち上がり、漆原の腕を掴んで立たせる。「魔王様、ご報告が遅れて申し訳ありませんでした」


「私、ルシフェルと実は結婚前提で付き合ってるんです」
「……恥ずかしいから言わなかっただけ、だし」



―――直後響いた絶叫の大きさは、完全に近所迷惑だったとここには報告しておこう。



予測の範疇にも無かった言葉

(恋人じゃなくて親友みたいなのは)
(それだけお互い一緒に居る時間が長くて緊張しないからなんですね)
(…私も、真奥さんとそんな風に……)

(千穂殿、何故頬を染めて夢見心地なのだ?)
(ベル、気にしちゃ負けよ)

(2013/09/21)


十万打より、伽子様に捧げさせて頂きます。御参加ありがとうございました!

長く付き合っている=熟年夫婦?と思ったのですが、気がつかれないということは恋愛フラグが見えない=緊張しない=友人もしくは親友に見えている、お互いが子供っぽくて恋愛に結び付けられない、というのを想像してこんな感じになりました。
いつも足を運んでくださっているとのことで、本当にありがとうございます。お言葉とても有り難くて、とくに悪魔主はたくさん書いてみたいと思っていたので、リクエストとても嬉しかったですー!

お気に召して頂ければ幸いです。本当にありがとうございました。

(※本人様以外のお持ち帰りはご遠慮くださいませ)