溢れ出す大好きの矛先は君(白竜/きた様へ)
「………離れろ」
「なんで?」
「……とにかく、離れろ名前」
やだ、と即答すると白竜が不機嫌そうな顔になる。しかし渋々でも離す気は無い。せっかく久しぶりに二人きりになれたのに、距離を保つなんてそんなの勿体無いじゃない!――そんなわけで、私は白竜の腰に手を回して背中にぐりぐりと顔を押し付け白竜成分を補給しているのだが、どうやら白竜はそれが気に食わないらしい。
「お前は犬か」
「んー、白竜の犬ならいいよー」
「気味が悪いからやめろ」
「うわあ……」
久しぶりの恋人にそれは無いんじゃなかろうか。気味が悪いという言葉が本気で嫌そうな白竜の口から発せられたものだから心にぐさりと突き刺さる。思わず真顔に戻って白竜の腰から手を離し、距離を取ると不可解そうな顔をされた。なんて酷い。
「あのねえ!」
「…な、なんだ?何故怒っているんだ」
思わず声を荒げると、まるで分からないという顔をする白竜。鈍感なのか天然なのか……とにかく、私達は彼氏と彼女という関係性のはずだ。だというのに白竜は私に黙ってレジスタンスジャパンだかなんだか、とにかく日本代表チームに対抗するチームとやらのキャプテンに就任していた。最近連絡が取れないと思ったらこれだ。そんなチームがあるなら私も入れて欲しかったし(マネージャーでも選手でも、だ。選考で選ばれなかったのは私も同じなのだから)……じゃない!なんの連絡一つ無かったというのがそもそも気に食わないのである。信頼されてないだとか、どうして打ち明けてくれなかったのだとか、色々な事を考えてしまう。
黙りを決め込んだ白竜のせいで私は余計な心配をするはめになった。また私に黙ってシュウ君に会いにゴッドエデンに行ってしまったのかと考えてゴッドエデンに足を運んだり、彼の実家に足を運んだり、アンリミテッドシャイニングのメンバーに連絡をしてみたり……それなのに白竜に連絡がつかなくて焦って、何があったのかと思えばさっき、ひょっこりと顔を出して『久しぶりだな、名前』だ。開口一番に怒らなかった私は褒められるべきじゃないでしょうか。
とりあえず部屋に通すと心配していた分も相まって抱きついてしまった。最初こそ黙って抱きつかれていた白竜は、しばらくすると経緯を話し始めた。連絡がつかなかったのは携帯電話の充電が切れたまま気がついていなかったかららしい。すまなかった、と私に謝罪の言葉を告げたあとに数秒置いて、離れろと。離れろと!目の前にいるのは紛れも無くとぼけた表情の白竜であり、少しばかり苛立ってしまってもしょうがないと思う。私の事なんてどうでも良いと?そうですかそうですか!……白竜に限ってそんな事は無いと知っているけれど、どうしても苛立ちと悲しみを抑えられない。思わず立ち上がると白竜が私を見上げてくる。きょとんとした顔に溜め息を吐きそうになった。
「…………」
「名前…?」
――無事で良かった、と素直に言えたら良かったのだろうか。勿論寂しさで出来た穴を埋めたいという意味でも抱きついたけれど、白竜は寂しくなかったのかな。そう考えると少し悲しくなる。白竜は私とサッカー、どっちが大事なのなんて馬鹿な問いかけをするつもりは無いけどさ、ほんの少し、……ほんの少しだけでいいから。
「私がどんな気持ちだったのか、考えて欲しかったかな」
はっ、と白竜が目を見開いた。その表情に少しだけ心が痛むけれども言葉を取り消すことはしない。ひねくれた言い方しか出来なくてごめんね、白竜。ゆるゆると目を伏せた白竜の背中に回り込んで腰を下ろした。背中を密着させると仄かに暖かい体温が伝わる。「…白竜、一瞬だけ考えてくれたならもうそれ以上考えなくていいよ」責めるような事を言いたくて一緒に居るんじゃないのだから、俯かないで欲しいのだ。
「……聞いていた」
「ん?」
「剣城から聞いていた。…お前が、俺のために駆け回ってくれていたという事を」
一瞬だけ呆ける。そうしてああ、と思い至った。白竜の親友である剣城君なら何か知っているかもしれないと、私はイナズマジャパンの宿舎に押しかけたのだ。結局剣城君から情報を得られはしなかったけれど、白竜はそれをレジスタンスジャパンとの試合の後に剣城君から聞いたのだろう。少し恥ずかしいけれども、そのおかげで白竜が剣城君とのサッカーだけじゃなく私の方を思い出してくれたのは良かった(複雑でもあるけれど)。
「名前」
呼びかけられた瞬間、ぐらりと体か傾いた。触れていた温度が急に無くなって転がるのかと思いきや。ふわりと背中から体ごと包まれる。先程よりも触れる暖かさの範囲が大きくて、思わず見上げると白銀の髪がふわりと揺れた。
――抱きしめられている
認識した瞬間、これから言われる言葉を理解してしまった。考えなくて良いと言ったけれど、考えろと白竜は捉えてしまったらしい。こう見えて以外に真面目だからなあ、と考えたらとても彼が愛しく感じた。抱きすくめられているけれども動けないほどの強さじゃないのが白竜らしいと思いつつ、閃いたアイディアを実行に移すべくくるりと体を半回転させる。…白竜が、口を開いたその瞬間を狙うのだ。
「本当に、悪―――」
ちゅう、なんてリップ音を響かせた。触れた唇に言葉がかき消されて、思わずにやりと笑ってしまう。言わせないし、もう考えさせないんだからね。うじうじとする白竜なんて違和感しか無いのだから、堂々としていて欲しい。…もう少し私の事を考えてくれても良いと思うけれど、サッカーに一直線な白竜だから好きになったのだ。
唇を離すと驚きに染まった白竜の顔があった。愛おしさが再び溢れて、自然と綻ぶ顔と口元。そのまま紡ぐのは再会の瞬間、一番に言いたかった言葉。
「――おかえり、白竜。お疲れ様」
溢れ出す大好きの矛先は君
(誠意は埋め合わせで見せて貰うから大丈夫!)
(キ…おい待て!そ、それは俺の財布が危ないのではないのか!?)
(2013/09/12)
十万打企画より、きた様に捧げさせて頂きます。相互でリンクをさせて頂きまして、お世話になっております。
甘い話とのお題だったんですが…甘い要素が…最後のキスしか…ない…。レジスタンスジャパンに加入した白竜君はきっと、彼女とかいても絶対忘れ去ってサッカーの事で頭の中埋め尽くしてるんだろうなと思った結果がこれです。夢主が攻めっぽいのは私の趣味です甘くない感じを演出してる最大の原因ですね!このあと白竜君はなんだかんだ、財布の中身をじわじわ搾られるんだと思います。女の子を待たせたんだからしょうがないと思います。
ご参加本当にありがとうございました!書き直しなど、いつでもお申し付けください;
(※本人様以外のお持ち帰りはご遠慮くださいませ)