俺もただの男だって気づいてたんでしょう?(シンタロー/水菜様へ)
※シンタロー視点
「や、だから、無理無理無理無理無理!絶対無理!」
「ンなビビってどーすんだよ……実際にあるワケじゃねえのに」
「分かってるけど怖いんだってば!普通にマ●オしようよマリ●!」
もう夜だというのにぎゃあぎゃあと騒ぐ名前はもう無視する事にした。あああああ!と叫ぶ名前の声を予想していた右手は名前のいる右側の耳を咄嗟に抑え、左手は迷う事無くゲームのディスクを機体へ挿入。コントローラーを手に取るとやだやだやだ!と喚く名前。ああもう、さっさと覚悟決めろって。
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「……っ、」
「しししししんたろおおおおおおお!?危ない、危ないって、あ、うわああ!」
血みどろのゾンビに襲い来る歪な風貌をした化物。巨大な口だけのものや触手を無数に生やしたもの、無数の目が体中にびっしりと張り付いている異形。そんなものは予想の範疇内だし別段意識せず楽々と倒していけるのだ。――普段の俺なら。
耳に掛かる吐息、押し付けられる柔らかいもの、怯えて潤んだ瞳に普段より高い声。
コントローラーを持つ手が震え、敵を倒すコマンドを打ち込むのに一瞬だけ組み合わせを忘れて戸惑う。普段は絶対に有り得ないミスを連発していて、キャラクターの生存がギリギリの状態を保ったままになっているのはどう考えても隣のこいつの影響なのだ。腕に縋るように抱きついて体をぴったりと密着させて、……普段は絶対にしないだろうに、うっすら涙まで浮かべて。ホラーが苦手だと言っていたのは冗談だろうと思っていたけれど、本当に苦手だったらしい。
敵が俺の操る主人公キャラクターに襲いかかってくるたびに、名前が怯えた声を上げるのだ。それがたまらなく可愛らしいのと同時に変な興奮を覚えている俺は変態なのだろうか。(エネがいたら間違い無く変態呼ばわりされていただろうが)いや、しょうがない、そうしょうがないんだ!想い人のこんな姿を見せつけられて興奮しない男がどこにいる?怯えて、俺に縋って、恐怖で息を荒げて。正直自分を抑えて無意識でボタンを押すのが精一杯だ。頭のほぼ全てを名前が占めたこの状態じゃあ、このゲームの最高難易度なんて乗り切れるはずがない。頭を切り替えなければ。色々な意味で。
「……おい、名前」
ちょっと離れろ、と言うつもりでゲームの画面を止めて横を振り向く。――そして言葉に詰まってしまった。「しん、たろぉ……」振り向くんじゃなかった。横目で確認出来るだけで誘ってんのかと言いたくなる状態の名前をしっかり確認してしまった俺は思わず名前に手を伸ばしそうになって、……いや流石にそれはヤバイ!襲うなんて流石にシャレにならない。何よりそんな事をしたら殺されるだろう。主にメカクシ団員全員から攻撃を受けるのは確定である。(第一にメカクシ団のアジトの一室であるここだって、誰が聞き耳を立てているのか分からない)なので必死に理性を押し込め、名前を優しく振りほどいた。シンタロー…?と、微かな声で俺の名前を呼ぶその姿ですら、色っぽいと感じるのは重症だろうか。
「無理っぽいし、もう部屋戻れ」
「やだ!無理!怖い!」
「…自分の部屋にぐらい戻れるだろうが」
「今日キドもモモちゃんも出かけてるし、っ!セトもカノもいないし!」
「マリーは?」
「部屋でその、…内職で、だから」
それで珍しく俺のところに来てゲームをやろう、なんて言い出したのか。カノあたりがこいつには男は狼なんだよと教えている姿を昨日見たばかりだというのに、名前には警戒心が無いのだろうか?「男は狼なんだろ?」「……エネちゃんが『ご主人にそんな度胸無いんで大丈夫です!』って自信満々に言ってたから」問いかけてみると、案の定な返事が返ってきて溜め息を吐いた。(勿論エネに対してだ)確かに度胸は無いけれども…!
「シンタロー?ゲームやめるの?」
「……ほら部屋まで送ってやるから立てって」
「や、やだ!」
「何でだよ」
このままだと無い覚悟が出来上がるぞ。立ち上がりながらそんな意味で名前に問いかけたわけだが、どうしたのか俺の腕を再び掴んでふるふると首を振る名前。
「こ、わいからさ、シンタロー……」
「なんだよ」
「………一緒に寝て?」
――如月伸太郎、18歳。とりあえず今夜は狼決定です。
俺もただの男だって気づいてたんでしょう?
(2013/09/06)
...確かに恋だった
十万打企画より、水菜様へ捧げさせて頂きます。
いつも本当にありがとうございます!たくさんのコメントを何度も頂けて、応援して頂けて、私は幸せ者だなあと思いながらホラゲで自由に書かせて頂きました。イケニートがイケニートじゃないですがヒロインちゃんの末路はもうご想像にお任せします。きっと童貞卒業…は、シンタローじゃ無理かもですが(笑)
リクエスト本当にありがとうございました!いつもありがとうございます。
(※本人様以外のお持ち帰りはご遠慮くださいませ)