欠けて無くなってしまっ た(ロデオ/永樹様へ)
※病んでる


『ひっ、あ……ばけ、もの』
『違う!俺は化物じゃない!』
『やだ、やだやだやだ来ないで…!いや、いやだ!』


**


「………っ」


跳ね起きた瞬間、体中がひやりと空気に触れて冷たく感じた。そうか、汗が空気に触れてそれで冷たいのかなんて、頭の片隅は酷く冷静。だというのに、心臓は口から飛び出しそうなほどにばくばくと鳴り響いていて思わず吐き気を催した。口元を抑えて体を震わせる。夢だ、これは夢。夢なんだと必死で自分に言い聞かせてぐしゃりと自らの髪を掴む。


「名前……」


俺の事を化物だと罵った彼女と、ついこのあいだまでは愛の言葉を囁きあっていた事実がこの部屋には残っている。好きだと言っていたジュースのボトル、焼き菓子の袋はもう形を成していないゴミ箱に。俺が買ってやった髪飾りは部屋の隅で装飾のいくつかを破損させて転がっていて、テーマパークで撮った写真を飾っていた写真立ては粉々。無残に残った破壊の痕跡は、全部自分が刻んだものだ。


「助けてやったんだぞ、俺」


――見知らぬ男に怒号を浴びせられる愛しい人を助けるために、その男に殴りかかった。

そうしたら、俺の意思がまるで現実のものになったとでも言わんばかりに力が膨れ上がったのだ。感じた事の無い衝動が湧き上がってきて、殴り飛ばした後に男はぴくりとも動かなくなった。その光景に呆然とする名前に大丈夫かと声をかけると、答えは返ってこなかった。名前、どうした、迷惑していたんだろ?褒めてくれるはずだ、頼りがいのある男だと思って貰えるはずだ。そう信じて疑わなかった俺は名前の返事が返ってこないのに苛立っていたのだ。おい名前、と彼女の肩に触れた。びくん、と目に見えて跳ね上がった体。勿論、俺のものではない。


『おとう、さん……?』


目を見開いた。ひたひた、と頬を伝ってとめどなく溢れ出した透明なそれは、見たことのない名前の涙だと気がつくまでに数秒を要した。いつも俺の前では照れくさそうな、はにかんだ笑顔しか見せた事の無かった名前が、泣いている。『名前!?どうして泣いてるんだよ!』『おとうさ、おとう、さん』壊れた人形みたいに、一つの言葉を繰り返している名前の頬を思わず叩いていた。ぎぎぎ、と鈍い音が聞こえるような動きで名前がこちらを振り向き、俺を虚ろな目で見据えた。


『要らねえだろ、そんなの』
『そんなの……?』


そんなのって何、と名前が掠れた声で問いかけてきたから目の前の動かない肉塊を指差してやった。『父親なんてさ、』くだらない、と吐き捨ててやると名前の目に微かに炎が灯った。『どうして!?どうして、そんな事言うの!?』酷く感情的になった名前がなんだか哀れに思えてしまう。『くだらないだろ、簡単に自分の子供を裏切れる』物心ついた時からお前は変だと遠ざけられていた。名前には俺みたいな気持ちを味わって欲しくないから、お前を悲しませる要因を"排除"しただけだ。そうだろ?それ以外に何がある。むしろ、俺に感謝しても良いぐらいなんじゃないか?正直、名前の父親だとは想定外だったけれど、結果的には万事解決だ。


――だって名前、お前は父親を"嫌い"だと常に俺に零していたんだ。


『嫌いな存在が消え去ったんだから嬉しいだろ?』
『嬉しくない!嬉しくないよ!お父さんを返してよロデオ!』
『その必要はどこにある?こいつはそもそも俺と名前の関係を良く思っていなかったと言っていたじゃないか。これで俺達を隔てるものは無くなったんだ』


そう、これで名前と俺との間に口出しをする人間がいなくなったというわけだ。喜びが溢れて思わず目の前にあった布を纏う塊を一度ぐちゃりと踏み潰してみた。思った以上に力が入って肉が抉れた。なんだこれ、結構面白いな!もう一度、もう一度と足を振り下ろしてみるとあっけなく崩れ去っていく塊。それを名前はただただ黙って見つめていた。俺はあまり覚えていないけど、笑っていたような気がする。声に出していた。心底楽しいと感じていた。そしてそれが原型をとどめないまでに崩れ去った時、俺は名前を振り返った。そして思わず嬉しくて飛び上がりそうになった。――名前が、泣いていない!


『……わ、かってる』


やっと理解したんだな、名前には俺だけが居れば良いと。良かった!と子供のようなはしゃぎ声が自分の口から飛び出して、そのまま俺は名前に手を差し出した。生々しい血で濡れるその手を、名前は取ってくれるはずだった。なのに、


『あなたは、ロデオじゃない……そうで、しょう』
『何を言い出してんだよ、俺はロデオだ』
『違う、ロデオはそんなことしない、ロデオは、ロデオは!』
『俺はこんなことをしない?』
『だって、私、おとうさん、ロデオ、違、』


うわごとのように違う違うと繰り返す名前は壊れたおもちゃ。俺を俺と認識出来ないなんて、お前は本物の名前なのかと一瞬呆れてしまった。しかし触れた感触は(何度も確かめていたのだから間違いようがない)確かに名前で、なのに彼女は壊れてしまった。でも俺は別に構わない。もう誰にも触れさせないようにして、俺をもう一度名前の中に入れてやるのだ。そうすればきっと名前は俺が何よりも大事だと暗闇で囁いた事を思い出すだろう。


「名前………」


連れてきた当初はまだ動いた。俺を化物だと何度も罵り、俺は何度もそれを誤解だと説得し続けた。だというのに最近は、まったくと言って良いほどに動かないのだ。いくら以前の好物を差し出そうと、思入れのある髪飾りを出そうと、まったく反応を示さなくなった。何も口にしない、一ミリも動かない。だから点滴を腕に刺してやった、生きてはいる。確かに彼女は俺だけの名前になった。なのに何故だろう、時折以前のような、笑い合っていただけで幸せだった時間が欲しくて欲しくてたまらなくなる。壊してしまったのは自分だと、心のどこかで知っているのに。



欠けて無くなってしまっ た



(2013/08/24)
...DOGOD69様

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こっそり永樹様に捧げさせて頂きます。いつもありがとうございます!

初めてのロデオ君だったので、偽物感が物凄い事になっていますが目を瞑って頂けたら幸いです。そして精一杯の病んでる感じです。セカンドステージチルドレンとしての力が目覚めた場面を想像もとい妄想した結果。荒くれなイメージが強いので基本的な物理攻撃力も強いんじゃないかなと。夢主さんは監禁され植物状態です。この後SARUが現れて、ロデオ君をセカンドステージチルドレンとして勧誘するのを妄想しました。夢主を元に戻してあげられるよとか、そんな言葉で釣ったとか…釣ったとか…!そこまで書こうと試みるだけ試みたんですが、沈没したので微妙なところでの皮切りです。

自己満足成分しか無いので、ご不要でしたらもう見て見ぬふりで…!