そこに咲いたクレオメ(DQ/ソロ/ゆすら様へ)


どこかに連れて行ってくれと駄々をこねると、普段は難しい顔をしてやんわりと話を逸らすソロが今日に限って珍しく「分かった」とOKをくれたのだ。思わず自分の頬を引っ張り痛みを確認するとソロに睨まれた。だ、だって普段は「疲れてるから寝たい」と言ってたまの休日でも私をどこかに連れ出してくれる事は珍しかったのだ。だから思わず飛び跳ねた。ぴょんぴょん飛び跳ねたらおじいちゃんの足を踏んづけちゃって怒られた。

ここからは少し遠いのだけど、ソロはルーラでエンドールの城下町に連れて行ってくれると珍しく口元を緩めながら提案してくれたのだ。…行くと即答した私の迫力に若干引いていたみたいだったが。その日の夜はわくわくして眠れなくて、睡魔が襲ってきたのは普段眠りにつく三時間ぐらい後だったと思う。


**


「うわーっ!凄い凄い!人がいっぱい!」
「はしゃぎ過ぎて転ぶなよ」
「分かってるって!わ、ねえねえソロ!あれ何?あれ何?」
「あそこはお前にはまだ早い。あと少し落ち着け名前」


まったく、と小さく呟いたソロが私をぴかぴか光る電光看板のある宿屋から遠ざける。まだ早い、と言われたがあれはなんなのだろう?しかしお酒の香りと真っ赤な顔の男の人がちらほらと入っていくからなんとなく健全でない事は理解。…と、ぼんやり考えを巡らせていたらソロが「都会にびびったのか?」とからかうように頭一つ分上から話しかけてきたので「びびってなんかないよ!」むしろ初めて見るものばかりで視界が埋め尽くされてすごく楽しい。そう告げるとソロの口元は優しく緩んだ。そして「それなら良かった」ぽんぽん、なんて頭を撫でられる。思わず頬を膨らませた。……ソロはいつだって、私の事を妹か何かのように扱うのだ。私はソロに意識して欲しくて、今日も頑張って服を選んで来たというのに。


「……ソロのばーか」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何も!――ねえねえ、どこから行けばいいかな!?」
「そうだな……ああ」


連れていきたいところがあるんだ、と目元を細めるソロに目を奪われた。普段はあまり表情を崩さないソロのそんな顔に釘付けになってしまった自分。そして、ちっぽけな苛立ちはどこかに消え去ってしまったらしかった。


**


「いらっしゃいませー…ってあら、ソロさん!」
「お久しぶりです、ネネさん」


からんころん、と心地良い音を鳴らすベルの付いたドアを開けると、とても綺麗な女の人がカウンターからソロに声をかけた。一瞬ソロはこの綺麗な女の人に会いに来たのかとぎくりとするが、そんな心配は杞憂だったらしい。「あなたー!ソロさんよー!」ネネさんの張り上げても綺麗な声が階段に向かって飛ぶと、ぱたぱたと階段を駆け下りてくる音がした。ぴょこっ、と顔を覗かせたのは小さな男の子。男の子は「ソロのにーちゃんだ!」と笑顔になるなりソロに駆け寄った。


「ソロのにーちゃん、いらっしゃい!」
「おーポポロ、お前ちょっとでっかくなったか?」
「へへー!毎日ぎゅーにゅー飲んでるもん!」


ぶんぶん、とソロの腕を掴み振り回すポポロ君。その幼いながらの積極的さを少し羨ましく思っていると、再び階段から足音が聞こえてきたのでそちらを振り返る。現れたのはたっぷりとしたお腹と温厚そうな顔が目立つ中年の男性だった。あなた、と嬉しそうな顔をしたネネさんのセリフに衝撃を覚える。だ、旦那さん!?


「おお!ソロさん、お久しぶりです」
「久しぶり、トルネコ」


トルネコと呼ばれた男性は嬉しそうに顔をほころばせた。ポポロ君がソロから離れてトルネコさんへ駆け寄っていく。ネネさんもそれに寄り添い、そこにはとても綺麗な家庭のかたちがあった。

なんとなく、ソロがここに私を連れてきた事を嬉しく感じた。


**


このお店は銀行をやっているらしい。しかし店の一角にはネネさんの手作りなのだろうか、可愛らしい雑貨がちらほらと並んでいる。一番驚いたのは見た事も無い武器が恐ろしい値段で飾られていたことだ。先程自己紹介をしてもらった時に聞いたのだが、トルネコさんは武器屋らしい。そしてソロがあんなにも嬉しそうにしていた理由を聞いて私も嬉しくなった。トルネコさんは世界を救うためにソロやアリーナ姫達と一緒に度をした仲間だからだという。

ソロがここに来たのは少しばかり預けているお金を引き出したいからというのもあったらしい。たまには魚を食べるのもいいなと思ってエンドールに来たかったんだとか。でも理由はどうであれネネさんに引き出すお金を頼むために書類にさらさらと羽根ペンを走らせるソロが私をここに連れてきてくれた事実は変わらないから気落ちするなんて事はなかった。待っているあいだ、可愛らしい小物を見るのもとても楽しい。正直外の露天に出ている小物屋で売っているアクセサリーより、こっちで売られているものの方が私の興味をそそった。ゆっくり棚を眺めていると可愛らしいお花の髪飾りが目に止まる。思わずじっと見つめていると、くいくい、と服の裾を引っ張られた。視線を落とすときらきらと目を輝かせて私を見上げるのはポポロ君と目が合う。


「気になる?」
「……うん、ちょっとだけ」


再び目線を髪飾りに戻した。優しい色合いの花弁がいくつも重なる様を絶妙に表現した髪飾りはとても可憐で、でもその分手間がかなりかかっているのだろう。それなりのお値段が書かれたポップを見て少しうっと息を詰まらせた。それでも諦めきれず自分のお財布を確認し、あまりの寂しさに思わず溜め息を吐く。100ゴールドしかないんじゃやっぱり都会で買い物なんて無理なんだろうか。


「欲しいのか?」
「うん。でもお金足りな―――っソロ!?いやこれは違くて、」
「おいポポロ、その花のやつ取ってくれ」
「いいよー!」


いつ手続きを終わらせたのか、背後から覗き込んでたソロに思わず驚いて財布を取り落としかける。なんだか髪飾りを見ていた事をソロに見られたのがなんとなく恥ずかしく感じてしまって、思わずソロから一歩離れた。その間にポポロ君は棚から取り上げた髪飾りをソロに手渡していた。さも当然とでも言うようにソロがこちらを振り向く。


「おい名前、こっち」
「………う、うん…?」


来い来い、と手招きされてゆっくりとソロに近寄った。髪飾りを片手にソロは少し考え込んだ後、ゆっくりと私の髪にそれを着けた。………そして、


「似合う」
「……え」
「買ってやるよ、それ。ネネさん、この髪飾りいくらだ?」


―――優しく微笑みながら、そんな事を口にするのだ。そんなソロに思わず目を奪われていて、気がつけば私がソロを引き止める間も無く、ソロはネネさんに髪飾りの代金300ゴールドを支払っていた。


**


「楽しかったか?」


山道を登ろうと提案したのはソロだった。慣れた道を歩きながら「もちろん!」緩む口元を隠そうとは思わない。そっと頭に手を伸ばすと、買ってもらった髪飾りに手が触れた。やわらかなその髪飾りに触れると『似合う』と言ってくれた昼間のソロを思い出す。


「今日はありがとね、ソロ」
「気にすんな」


俺も楽しかった、と呟いたソロの声に思わず彼の顔を見上げた。夕焼けに照らされる山道で、ソロの顔が少しだけ赤かったのはきっと気のせいじゃないはずだ。照れくさそうに目を逸らすソロなんて初めてでどうして良いか分からなくなった私は、きっと――その瞬間、とても欲張りになってしまったんだと思う。伸ばした指はソロの手のひらをそっと、優しく握った。


―――その手は、優しく握り返された。



そこに咲いたクレオメ

(言葉を必要とせずとも、繋がった心)

(2013/05/19)


五万打企画より、ゆすら様リクエストのソロでほのぼの でした!
これが星乃の限界のほのぼのじゃないかと思います。
家族を組み込めばきっとほのぼのするだろうと思ったんですが
激しく間違えてる気がしてなりません。そして無駄に長い…

夢主には山奥の村の生き残りで山小屋のおじいちゃんと世界を救った後のソロとで一緒に住んでいるという設定をつけてみました。活かそうと思って書いた文章は最終的にボツになりましたが。あとポポロ君とかネネさんについては妄想が激しいです。ポポロ君がソロのにーちゃんとか呼んでたら良いなっていうのは完全に星乃自身の妄想でしかないのでもうしょうもない。そしてルルちゃんを出したシーンもあまりに長かったのでカットしました。
ちなみに書いてる途中はむちゃくちゃ楽しかったです。

ゆすら様に捧げます。素敵なリクエスト、企画参加本当にありがとうございました!