童話に惑わされない愛
むかーし昔、ある所にサファイアという心優しい少女がいました。
サファイアには両親がいましたが母を先に亡くし、その後父が再婚し継母と義理の二人の姉がやって来ました。
それからしばらくして母の後を追うように父が亡くなってから、継母と義理の姉達はサファイアを苛めるようになり、彼女を召使いにしました。
彼女は朝から晩まで洗濯や掃除、雑巾がけに食事の準備などの仕事を押し付けられ、全部一人でやらされました。
そんな日々が続くなか、ある日お城に住んでいる王子が花嫁を選ぶ為、舞踏会を開くことを村の娘達に発表しました。
その舞踏会の招待状がサファイアの屋敷にも届き、義理の姉達はとても喜び、嬉しそうに準備に取り掛かりました。
サファイアもお城の舞踏会に行きたいのですが、継母達のように綺麗なドレスやアクセサリーなどを持っていません。
それを継母達はわかっておきながら、わざとサファイアに多く仕事を押し付けました。
しかも継母達に留守番を頼まれてしまい、舞踏会に行くことが出来ませんでした。
それでもサファイアは姉達の準備を手伝い、迎えられた馬車に乗った継母達を見送りました。
舞踏会が開かれている夜、サファイアは仕事が一段落終わったので屋敷の外で休憩をしていました。
「…あたしも本当は舞踏会行きたかったと」
「バシャー」
「マイー」
唯一の味方で友達のバシャーモのちゃもとマイナンに慰めてもらいながらポツリと小さく呟いた。
いくら心優しいサファイアでも、やはり日頃継母達にこき使われるのにはとても苦しかった。
そう思うと悲しくて、彼女の藍色の瞳から涙が零れ落ちそうになった時…
「オーホッホッ!お悩みのようね可愛いお嬢さん♪」
「……………はっ?」
いきなり目の前に綺麗な魔法使いが現れたではないか。
そりゃあいきなり目の前に人が、しかも魔法使いが現れたからサファイアの反応も無理はない。
突然のことに、サファイアとちゃもとマイナンは驚きを隠せなかった。
「舞踏会に行きたいのでしょうサファイアちゃん?」
「えっ、あ、はいっ!」
「ならまずは…畑にある大きなかぼちゃを採ってきてくれるかしら!」
「へっ…?」
「いいから早く!この魔法使いブルーちゃんがいいことしてあげるから♪」
「は、はぁ…;」
何で舞踏会に行くのにかぼちゃが必要なのかサファイアはわからなかったが、言われた通りに畑から大きなかぼちゃを採ってきた。
「よしっ!これで揃ったわね。じゃあいくわよー!」
「な、何を?」
「そーれっ!」
魔法使いが持っていた杖からきらきらと輝く光がかぼちゃを包み、なんと馬車に変わったではないか。
突然のことに、口が塞がらないサファイア。
「次はこの子達ね!」
今度はちゃもに向けた光が包み、これまた魔法で立派な付き添い人へと変わる。
さらにマイナンに魔法をかけると、ギャロップへと変わった。
次々と魔法によって変わり出す光景に、唖然とするサファイア。
「最後はあなたよ♪そーれっ!」
「わっ…!?」
そしてサファイアにもきらきらと輝く光が向けられ、みるみるうちに服装が変わっていった。
まずいつもの汚れていた服は綺麗な藍色のドレスへと変わり、ティアラやイヤリングなどのアクセサリーが彼女を飾り輝かせる。
そしてボロボロの靴が透明に光るガラスの靴へと変わっていた。
あまりの代わり映えに、戸惑いながらも思わず自分を見てしまう。
「さすがあたし!あっ、そうそうあたしの魔法は0時を過ぎると解けちゃうから、それまでには帰るようにね!それじゃあ楽しんでらっしゃーい♪」
「へっ!?あの、ちょっ!?」
そう言って少し変わった魔法使いは消えいなくなりました。
また唖然としましたが、付き添い人へと変わったちゃもにあとを任せて、ギャロップへと変わったマイナンにお城へ向かうように指示しました。
そしてお城に到着し、ちゃもとマイナンに励まされ勇気を振り絞りサファイアは中へと入りました。
「すごかぁ〜…」
そこはサファイアが今まで見たことのない光景でした。
きらきら輝く大きなシャンデリアとダンスホールに美味しそうな料理、綺麗なドレスを着飾っているたくさんの女性達は、サファイアにとって全てが新鮮でした。
「…ねぇ、ミツル君」
「何ですか王子?」
「残念ながらどの女性も僕は一生愛せない方ばかりだよ。beautifulな女性がここにいない。早く終わりたい」
「しかし王子、そろそろ花嫁様を見つけられたほうがよろしいかと…」
「強制的だなぁ」
はぁ、と深いため息をつきながら、舞踏会に参加している女性達を王座に座り眺める王子―ルビー。
自分と共に生涯を過ごす女性は、自分が惹かれ愛した人がいいのに、残念ながらここにはいない。
諦めて護衛を撒いて自分の部屋に戻ろうとした時、彼の瞳が一人の女性に視界を奪われた。
「見つけた…」
思わず勢いよく立ち上がり、素早く、だけど静かに自分が惹かれた女性へと近付いた。
「お嬢さん」
「えっ…」
「貴女ですよ。よかったら僕とお話ししませんか?」
「あ、あたしとですか?」
「はい」
そう言いルビーは片膝をつけ、サファイアの手の甲に優しくキスを落とした。
ちらりとサファイアに視線を向けると、彼女の顔はとても赤く染まっていた。
その初々しい反応に、ルビーの心が激しく踊る。
(very cuteだ)
このような反応をする女性は今まで何人も会ったが、初めてこのように感じた。
「では、行きましょう」
「は、はい」
ルビーがサファイアの手を取り、二人はテラスへと移動した。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「サファイアった…です」
「…?サファイアというのですか?」
「そ、そうですったい。あ…」
懸命に訛りが出ないように標準語で話していたサファイアだが、つい癖で出てしまった。
それも王子の目の前で。
サファイアはさらに顔が赤くなってしまった。
「す、すみません!つい癖で…」
サファイアは深く頭を下げた。
訛りで話すのは不愉快だと思ったから。
しばらく沈黙が続き、少ししか時間が経ってないのに、とても長く経った感じがした。
「…そんなことで謝ったのですか?」
「えっ…?」
ルビーの予想外の言葉に、驚きを隠せないサファイア。
ゆっくりと顔を上げると、サファイアをとても優しく見つめるルビーの顔があった。
その優しい瞳に、サファイアの胸がドキッと鳴る。
「そんなこと気にしなくていいですよ。サファイアらしくてとても素敵です」
「!…あ、ありがとうございます!」
フフッと笑うルビーがとても素敵な人だとサファイアは思った。
それからルビーが"敬語ではなく普通に話そう"と言い、二人は楽しい会話を続けた。
時間はあっという間に経ち、楽しい時間に終わりを告げるように、魔法が解ける0時を知らせる鐘が鳴り響いた。
サファイアはハッとし、ルビーにお別れを言う。
「すまんち。あたし、もう帰らんと」
「どうして…?」
「…ごめんなさいったい!」
「サファイア!!」
ルビーが後を追って来たので逃げるように急いで階段を降りる。
途中片方のガラスの靴を落としてしまったけれど、取りに行く時間がない。
サファイアは急いで馬車に乗り、本来の姿を見せることなく無事屋敷に着いた。
そして魔法が解け、綺麗なドレスは汚れた服に、馬車はかぼちゃ、付き添い人とギャロップはちゃもとマイナンへと戻った。
ただひとつ、片方のガラスの靴だけが残っていた。
名残惜しいが、夢の時間はもう終わり。
継母達が帰る前に、仕事を終わらせようとサファイアは屋敷の中へ入った。
*+*+*+
翌日、王子が拾ったガラスの靴にぴったり合う足を持つ女性を捜しているという噂が流れた。
もちろんサファイアの屋敷にも流れており、継母達は絶対に履いてやろうと早く王子が来ないかと楽しみにしていた。
そしてサファイアの屋敷に王子と護衛がやって来て、小柄な護衛がガラスの靴を差し出した。
継母達が履いてもなかなか入らず、このガラスの靴にぴったり合う女性はまた見つからなかった。
不穏な空気が流れるなか、その様子を拝見していたサファイアと王子が目が合った。
何も言わずに見つめ合う二人。そして王子がサファイアを手招きした。
「貴女も履いて頂けますか?」
「いや、この子は召使いでして…」
「少し黙ってくれませんか?」
と、王子は黒い笑みで継母に言い、継母達は思わず冷や汗が流れた。
王子がガラスの靴を差し出し、サファイアがゆっくりと王子の傍に近付きガラスの靴を履くと、ぴったりと合ったではないか。
その場の者達は皆驚き、サファイアを見つめた。
サファイアは恥ずかしいようで、顔が赤く染まっていた。
「やっぱり君だったんだね、サファイア。beautifulな藍色の瞳だからそうだと思ったんだ。…僕はサファイアのことが好きです。僕と結婚して下さい」
「…はい///」
「ありがとう。よし、じゃあさっそく…」
「…ん!?」
サファイアを抱き寄せ、考える隙も与えずルビーは皆の前でキスを落とした。
突然のことに、サファイアは混乱して抵抗も出来ず、ルビーのキスを受けた。
そこに…
「イチャつくなー!!」
小柄の護衛・エメラルドの叫び声が屋敷内に響き渡った。
後日、ルビーとサファイアは盛大な結婚式をし、二人は国中一のラブラブぶりを見せ、護衛のエメラルドの叫び声が毎回響くなか、幸せに暮らしましたとさ。
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