僕の所有印(倉間/桜様へ)






「女子かよ」

「……いや、その、恥ずかしいだろ普通に!」





ホワイトデー当日。

名前にバレンタインのお返しを渡そうと、準備してきたプレゼントを持ってそわそわとしていると浜野にからかわれた。

そんなのしょうがないだろ!ガラじゃないし、このプレゼントだって散々迷って……相手が名前だからこそ。

この一ヶ月、友達の延長線上のような付き合いをしてきた俺と名前。ここで俺の名前への気持ちをはっきりさせたい――なんて。





「それにしても苗字さん、遅いですねー。もうホームルーム始まっちゃいますよ」

「もしかして休みなんじゃね?昨日体調悪いーとか言ってたっしょ」

「へ?」

「倉間君、気がついて無かったんですか?苗字さん珍しくマスクしてたのに」

「………そ、そうだったっけ?」





え、何で気がついてねーんだよ俺。いくら昨日はその、……今日の事に気を取られてたからって……

自分の注意が足りなかったとはいえ、浜野と速水が俺より名前をよく知っているみたいに感じて少し不機嫌になってしまう。

あいつ大丈夫なんだろうか?ただの風邪ならいいけど、と不安を感じ始めたところでばたばたと廊下から騒々しい音が響くのが聞こえた。

廊下を走るな!と厳しい事で有名な生活指導の声が飛ぶ。――ホームルーム開始の二分前、





「間――――――に合ったァ!遅刻じゃない!?あ、おはよう倉間に浜野に速水くん!」

「二分前……あ、一分前です。おはようございます、苗字さん」

「どしたん?昨日調子悪そうだったから心配してたんだぜ?倉間が」

「俺かよ!や、べ、べつに心配してなかったわけじゃねえけど……」





唐突なフリに素っ頓狂な声を上げるも、完全に否定が出来ないのは惚れた弱みだろうか。

半ば睨むようにして名前の顔を見やる。微かに赤い頬が目に入った。……照れてる?





「倉間、心配してくれてたんだ?」

「……そりゃまあ」

「大丈夫!ただの寝坊だから」

「寝坊かよ!……ったく、心配して損したぜ」





でも何事も無くて良かった、と小声で付け足したのが聞こえたのだろう。

みるみるうちに緩む名前の口元を見ると自分の顔も熱くなってくるのが分かった。

朝から熱いねえ、と浜野の親父めいた軽口が飛ぶ。うっせえ、と返すも語尾は頼りない。

ああもうここじゃ駄目だ。浜野と速水以外にも人目がある。こんな自分の顔と名前の顔を他のヤツに見せたくない。





「行くぞ」

「え!?ちょ、ホームルーム始ま、」

「いいから来いって」





まだ鞄も降ろしていない名前の手を引いて教室を飛び出した。廊下の向こうから担任が歩いてくるのが見える。見つかっても撒いてしまえばいいか。

戸惑う名前を連れて階段を駆け上がる。目指すは屋上、一時間目の授業は放棄。





「渡したいものがあるんだ」





―――屋上に出ると、まだ真上に昇りきっていない太陽が俺達を照らしていた。





Happy White Day !

(倉間、いきなり、何っ……)
(今日で俺達、付き合って一ヶ月だろ)
(あ、)
(忘れてたのかよ!……後ホワイトデーな)

(――ネックレス?)
(俺のモンっていう、印……みたいな……)
(……………)
(……嫌だった、か?)

(……顔上げらんない)
(恥ずかしくて、でも嬉しすぎて死んじゃいそうだ)
(とりあえず引かれたか、なんて危惧してる倉間に)

(―――キスしたいと、顔を上げた)


(2013/03/21)


盛大な遅刻過ぎる……桜様、バレンタインへの参加本当にありがとうございました!
ホワイトデーがこんなに遅くなっちゃって申し訳御座いません;
駄文ですが、捧げさせて頂きます。


(※本人様のみお持ち帰り可能です)