間接キスと手作りクッキー(霧野/サキ様へ)
※霧野視点
本当なら毎年、この時期は敢えて全てスルーしていたし、返すとしてもどこかで買っていたりしたものだが。
「名前だって頑張ったんだよな。………よし!」
ならば俺だって、その誠意に応えたい。腕を捲って目だけで材料とレシピを確認。
ボウルと小麦粉を手に取った。作るのは勿論――――……
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「名前」
「……うぁい?あ、きり―――蘭丸!」
「眠そうだな」
突っ伏していた机から顔を上げて、名前が少し恥ずかしそうに俺の名前を呼んで笑顔を作る。
もう付き合い初めて一ヶ月も経つというのに、相変わらず彼女は名前呼びに慣れないらしい。
そういうわけで時折こうやって呼び詰まるのだが、可愛らしいので毎回心臓は跳ねる。頼むからほんと、俺以外にそんな顔するなよな?
「蘭丸?どしたの?ボーっとしてるけど」
「……い、いや!なんでも!」
いつの間にかぼーっとしていたらしい。ひらひら、の目の前で名前の手が泳ぐ。
慌てて持っていた鞄を持ち直した。……人目のないうちに渡してしまいたい。
きょろきょろと周囲を伺う。うん、目線は特に感じないな。それじゃあ渡そう、と名前を振り返る。――は!?近い!?
「?調子悪いんだったら無理しない方が良いよ?」
「や、大丈夫……って大丈夫!大丈夫だから!」
「でも顔赤いよ?」
それはお前が近いからだ!なんて言う余裕すらない。心臓はばくばくと波打っている。
本人は至って真面目な顔で、俺の顔を覗き込んでいて……どうやら俺が本当に調子が悪いと思ったのだろうか。
至近距離に思わず目を見開いた俺に気がつかず、ぴとりと額に宛てられた、ひんやりと心地良い体温の手は名前のもの。
「蘭丸、おでこ熱いよ?熱あるって」
「―――………」
「お、おーい?蘭丸ー?ちょ、ほんと大丈夫?」
―――誘っているのだろうかこいつは。朝から可愛くて、顔を近づけて、触れて。
教室で恥ずかしげもなくという事は、名前にとってこれは普通のスキンシップの延長線上なのだろう。
しかし今の俺達の関係は友人ではない。恋人だ。友達じゃないんだからこういうのもアリだろ?
鞄からお目当ての物――昨晩自作したクッキーを取り出し、不思議そうな名前の目の前で一口かじる。
「名前、口開けて」
「へ?どうしたのいきな―――りむっ!?」
――自分の歯型がついたクッキーを名前の口に押し込んでやる。
間接キス。口元を緩めた俺を見て、意図を理解しみるみる真っ赤になるこいつがとても愛おしい。
それでもほが、とかむが、なんてクッキーを落とさないように奮闘する名前の耳元はがら空きだ。
――――だから囁いてやろう、優しく、君だけに。
Happy White Day !
(そのクッキー、俺の手作りだから)
(2013/03/13)
バレンタイン企画のお返し夢という事で、サキ様に捧げさせて頂きます。
ほのぼのっぽく仕上げるために間接キスにしてみたんですが……
何かがおかしい気しかしないorz