ヘアピンとぬいぐるみ(ナギサ組/榴様へ)
あのバレンタインの日からオーバの様子がずっとおかしい。そわそわとして落ち着いておらず、それはリーグでも同じらしい。
リーグでも落ち着きが無く窓の外ばかり気にしており、ゴヨウさんに雷を落とされたとリョウ君に聞いた。ゴヨウさんも愚痴りに来た。
ナギサに来る頻度が以前より減った。ここ最近はほとんど来ない。会いたいのに
そして常にずっときょろきょろとして、デンジがいないと私と話にくいみたいなそぶりを見せる。正直凄く寂しいのだ。
「ねえデンジ、オーバが変な理由分かる?」
「……さあ?」
どうやら本気で分からないらしいデンジと共に首を捻る。もしかして私があげたクッキーに変なものが入っていたのだろうか?
いや、違う……と思う。レシピ通りに頑張ったあのクッキーは最高傑作と言っていい。じゃあ何故?二人には差が無いようにしたはずなのに。
デンジだけクッキー足りない代わりにチョコ、というのがまずかったのだろうか。いや、オーバはそんな小さい事を気にするヤツじゃないし……
「オーバ、心配だなあ……調子も悪いみたいだし」
「そんなに気にすんなよ名前、それより今日何の日か知ってるか?」
「今日?三月十四日……あ、ホワイトデーじゃない!」
「ほら、こないだの美味いクッキーのお返し。いつもありがとな」
「わ、デンジありがとう!」
可愛らしくラッピングされた袋をデンジから受け取る。上手くはぐらかされた感がするけどまあいいや。
ワクワクしながらリボンを解くと―――きらきらと輝く小さな石がいくつもちりばめられたヘアピンが入っていた。
窓から差し込む日の光に反射してきらきらと輝くヘアピン。……綺麗
「貸せよ、着けてやるから」
「うん!」
髪がデンジに触れられるのが分かった。ヘアピンを渡すと器用にそれを指で挟んで、優しく髪を編み込んでいくデンジ。
どこでそんなテクを覚えたんだろうこの男は。私より女子力があるなんて……くう
それにしても気持ち良い。髪を触られるのはむしろ好きなので目を閉じた。
――すっ、と髪にピンが差し込まれる感覚。ゆっくりと目をあける。
「よし、これでいい」
「ありがと!」
「……なんで目瞑ってたんだよ」
「気持ち良いんだもん。風とか、髪いじられるのとか」
「おー、そうかそうか」
今度は面白半分に髪を梳きはじめたデンジの手が気持ち良くて再び目を閉じる。たまにはこういうのもいいな。
オーバも一緒だとどうしてもバカ騒ぎになって―――……オーバに、会いたいな……
本当に大丈夫かな、と再びデンジに問いかけようと思って目を開いた。瞬間、飛び込んで来たのはデンジの顔。
「……チッ、無防備な名前にキスしてやろーと思ったってのに」
「舌打ちしないでよ、私はそんなに安くありませーん」
「ま、いいか。なあ名前、今日はオーバもいねえし……」
どさり、とソファーの上に押し倒される。え、ちょ、これピンチなんじゃありません?
ホワイトデーだからか普段よりデンジが盛ってる気がする。
普段ならばここでオーバに助けを求めるのだが本日はお休み。ちょ、やば、デンジの顔が近――――……
「おーっと!俺の居ない間に名前に手ェ出すんじゃないデンジ!」
「オーバ!」
「な、なんでここに居るんだよ!」
ばあん、と大きな音を立てて部屋の扉を蹴り破ったのはオーバだ。デンジの力が緩んだ隙にオーバの元に駆け寄る。ちょっと危なかった
久しぶりにオーバに会えたのと、普段通りのオーバだったので嬉しくて思わず抱きついた。うお、なんて変な声出さないでよ傷つくから
「オーバ!」
「な、何だ?」
「……ここ最近来ないし、調子も悪いみたいだから心配してたんだよ?」
「………名前」
悪かったな、と頭に大きなオーバの手が乗ってぽんぽんと数回バウンドする。ああ、やっぱりオーバは落ち着くなあ。
再び抱きつこうとすると首根っこを掴まれて引っ張られた。犯人はデンジ。シャツの襟が伸びるからやめてくれ
「名前、こないだはありがとうな。ほいお返し」
「わぷっ!?」
いきなり巨大なものを顔に押し付けられて変な声が出た。ふわふわしたそれを抱きとめてゆっくりと離すと大好きなシルエットが目に入る。
「欲しいっつってたろ?パチリスのぬいぐるみ」
「……!オーバ、覚えててくれたの!?」
「悪かったな、ここ最近は迷惑かけてたみたいで」
でもまだお前には負ける気がしねえから、とオーバがデンジに放った言葉の意味を私は上手く理解出来なかった。
Happy White Day !
(買う時恥ずかしくなかったの?)
(……名前の為だからな。美味かったぜ、クッキー)
(お前らいつ二人でデートしてたんだよ)
(え、デンジも一緒に行ったじゃんデパート)
(2013/03/18)
榴様へ捧げさせて頂きます、いつもありがとうございます!
バレンタインはデンジ贔屓気味だったのでホワイトデーはオーバ贔屓気味…
あれ、いや若干デンジの方が贔屓気味?
大幅に遅れて申し訳ありませんでしたorz