欲しいのは君からの気持ちだけ(倉間/桜様へ)






バレンタイン当日。

学校内はふんわり甘い香りで満たされて、普段よりおしゃれな女の子達が廊下を言ったり来たり。

浮ついている空気だけれども今日ばかりは何も言えない。何せ私だって浮ついているのだから。

教室の扉を開けて自分の籍に鞄を置く。教科書がくしゃりとラッピングに触れた。





「はよー、苗字」

「おはよ、倉間……倉間!?」

「?何だよ」





取り出した教科書を思いっきり鞄の中にリバースする。ターゲット登場が早すぎだ!

流石にこんなに人の多い場所じゃ渡せない。

不思議そうな顔の倉間から目を逸らして髪の毛をいじる。追求されないように話題振らないと





「あー、なんでもない!それよりさ倉間、チョコ貰った?」

「おう、見ろよこれ!」

「え!?」

「ンだよ失礼だなー…俺だって貰うっての」





ほら、と倉間が得意げに取り出して見せたのは可愛らしいラッピングの袋が二つ。

―――も、貰ってる!?

いやサッカー部の部員だし考えられない事じゃない。でも倉間が、というのが以外だった

だって「彼女欲しい」とか私にぼやくぐらいだったのに…!






「なんつう顔してんだよ、そんなに以外か?ま、両方義理だけど」

「へ?」

「ほら山菜と、あと一年のマネージャーの空野」

「茜ちゃんと後輩マネージャーちゃんか…」

「女子ってすげえよな、全員に配るとか」





なんだ、義理だったんだ。安心したからか会話は普段のようにとんとん弾む。

これなら私も深く考えずに倉間に渡す事が出来そうだ。

安心してカバンの中の袋に手を伸ばす。




――――指先がリボンに触れた、その時だった。






「倉間、お前に客が来てるぞー!」

「客?今行く!」





教室の入口から倉間を呼ぶ声。渡すタイミングを失った私の手はカバンの中。

どうしても気になって、ゆっくりと教室の入口を振り返った。



―――可愛らしい女の子が、ピンク色のリボンでラッピングされた小箱を倉間に差し出していた。



瞬間ぞくりと背中に走る言い表せない不安。――直後、それは的中する。





「く、倉間先輩…!ずっと好きでした!私とお付き合いしてくださいっ!」

「――――な、」

「返事はいつでもいいので、その、……待ってます!」





言うなり背を向けて、走り去ってしまう女の子。直後教室中から湧き上がる歓声。

男子の集団にもみくちゃにされているのだろう。倉間の姿は男子たちに埋もれて見えない

―――ぎゅ、と拳を握り締めた。どうしよう、どうすればいいの?






**






「まさか俺が本命チョコ貰える日が来るなんてなー」

「いやー、朝からびっくりだったよ。可愛かったよね、あの子。やるじゃん倉間」

「………おう」





帰り道。

普段は楽しくて仕方がない二人きりの時間も、今日は本当に気まずくて。

無駄にライバルを褒めちぎっちゃったりなんかして、自己嫌悪に陥ってしまう。

カバンの中には渡せないままのチョコレートが―――まだ、残ってる

背中だけしか見えないけれど、倉間はなんだか不機嫌みたいだった。






「……ねえ、付き合うの?」

「さあな」





決死の想いの問いさえも、さらりと軽く流されてしまう。

このまま倉間はあの一年生の子と付き合ってしまうんだろうか?

それは嫌だ。……でも、恋人でもなんでもない、友達の私に「付き合うな」なんて言えない。

カバンの紐を握り締めた。強く、キツく。






「オマエは?」

「……へ?」

「誰にもやらねーの?チョコ」

「…………」





くる、と振り返った倉間は不機嫌そうなんかじゃなくて、まったく普段と同じ顔。

目を合わせられなくて俯いた。渡せるはずないじゃない、勝てるなんて思えないじゃない





「渡そうと思ってたけど、やめた」

「何で?」

「………言わない」

「そーかよ」





ああ、どうして私は素直じゃないんだろう。

でも今ここで「目の前で告白されてたから」なんて言える勇気も持ってなくて。

目線を上げた。いつも倉間と分かれる赤い郵便ポストの前。





「じゃーな、また明日」

「―――っ、また明日」





普段通りに軽く手を振って――――――別れるはずだったのに。





「おい何普通に手ェ振ってんの!?さっさと寄越せよバカ!」

「へ!?な、何を!?」

「チョコだよチョコ!―――ああもう、何言わせてんだよ!」





がしりと腕を掴まれて、何で嫉妬してくんないの、なんて囁かれて。





「―――――俺は、お前からチョコ貰えたらそれだけでいい」





好きだって、いつになったら気がついてくれんの?――そんなの言わなきゃわかんないでしょう






Happy*Valentine!

(な、何で私がチョコ用意してるって知――)
(今朝義理貰った時に山菜に聞いた)

(食わせてよ、名前のチョコ――口移しで)




(2013/02/23)







桜様より頂きました、バレンタイン企画リクエストです(*´ω`*)
なんかもう意味不明文章と化した……甘って何甘って……
最後の方で甘を取り返したと思います。倉間は恥ずかしい事連呼して麻痺してればいい
そして家に帰って自分の発言思い出して恥ずかしくなればいいよ

リクエストありがとうございました!


(※本人様意外お持ち帰り禁止です)