赤と緑のチョコ事情(さぼてん様へ)
※グリーン視点
バレンタイン当日のトキワジム。仕事用の自分の部屋の扉を開けて、予想以上の光景に絶句する。
机の上にも床にもベッドの上にもカラフルな箱、箱、箱、箱の山。
よく見れば袋もいくつか置いてある。ついでに手紙の山、山、山……とまあ。
「モテる男はつらいなー……ってガチで辛いな!どうすりゃいいんだよこれ」
去年以上の量に頭を抱える。そりゃあ来るだろうとは思っていた。だがこれは予想以上
部屋はチョコレートやらケーキやらの甘ったるい香りで満たされており、気分は浮上どころか沈没だ。
なにも貰えないよりマシ?これだけの量を目の前にしてみろ、貰えない方がマシだ。
「第一知らないヤツばっかだし、………名前から貰えりゃそれでいいのに」
思わず幼馴染で想い人の名前をぽろりとこぼしてしまう。
知らないヤツからなんていらない、好きなヤツから貰えるか貰えないか。
それがバレンタインだろ―――と言ってみても部屋中の大量のチョコが消えるわけではない。
自分一人で消費なんて到底無理な話なので今年も配り歩く事に決め、箱の一つを手に取る。
明らかに高級と分かるチョコレート。これは保存が効くな、なんて現実的な事を考えているとコンコン、と部屋のドアがノックされた。
直後なにも返事をせずともがちゃりと扉の開く音。これだけで誰だか分かったので振り返らずに声をかける。
「声ぐらいかけろよ、レッド」
「………今更?」
「……そりゃそうか」
毎年大変だね、と薄く笑って俺の横に座り込んで選別を始めるレッドに苦笑する。
まあ毎年の事である。好きなものを好きなだけ持って山に戻っていくレッドにここばかりは感謝をし尽くせない。
大食いなこいつは毎年のチョコ消費の中央を担っているのだ。
「ねえ、名前からは?」
「来てねえ」
「へえ、グリーンのとこにも来てないんだ?」
「……それがどうした?」
「昨日久しぶりに家に帰ったらさ、名前がキッチンに立ってるのが見えたわけ」
「晩飯作ってたんじゃねえのか?」
「テーブルの上にラッピングやらチョコやら果物やらが散乱してた。作ってたのは多分ケーキ」
「…………ほう」
「俺のとこには来てない。グリーンのとこにも来てない。じゃあ誰に?」
「…………………」
珍しく言葉を発するのをためらう。
名前がケーキどころかお菓子作りなんて、滅多に無いことなだけに本気臭が漂う。
思わずレッドの目を見ると明らかに嘘でも冗談でもなく本気の目だった。
しかも顔には多少焦りが伺える。俺の顔も似たようなものだろう。
「――――ヤバイ、んじゃない?」
「――――かなり、な」
顔を見合わせてお互いに核心を突いて、その言葉の重みを確かめる。
―――名前に好きな男が出来た!?
普段から俺は最大限にアプローチしてるし、レッドだって負けてない。
つまり色恋に関してもライバルなだけに危機を共有してしまう。
そう、『これはヤバイ』と。
「正直俺さ、お前と名前なら……まあ、名前が選ぶんなら納得するけどよ」
「………俺も。名前が選ぶんならだけど。でもこれはちょっと、ね」
お互いの長い苦労を知っているからこそ、相手を認める覚悟は出来ている。
しかしそれ以外は断じて許せない。
どこぞの野郎に名前はやらないしやれない、と!
「ああ。―――今回は手を組もうぜ、異論は無いはずだ」
「勿論全力阻止。……例えどんな手を使ってでも、ね」
どちらともなく手を出しがっちりと握り合う。今だけは味方のこいつが頼もしい。
目標はただ一つ。名前のバレンタイン妨害だ。
さてどうするか―――問いかけようとしたその瞬間だった。
「やっほー!グリーン今いるー?レッドも来てるって聞いたんだけどー!」
「――名前……っ!?」
「――どうしてここに……!?」
こんこん、と響いたノックの後に聞こえてきたのは紛れも無く名前の声。一瞬で緊張が部屋の中を支配する
小声で俺と同時に呟いたのはレッドも同じで、動揺しているのは変わらないらしい。
なら腹を決めてしまおう。そしてここで説得する―――とアイコンタクトで送ってみる
通じてくれたのかどうかは分からないが頷くレッド。よし、いいな?
「おう居るぞー、入って来いよ」
「何だ居るんじゃん、返事遅い!それじゃおじゃましま――――うわ、なにこれ!?」
扉を開けて入ってきた瞬間絶句する名前。そりゃそうだろう、俺だってそうなった
「見てのとおりグリーンに殺到したチョコとラブレター」
「………去年より多くない?流石グリーン!よっ色男!」
「褒めてねえだろそれ」
「褒めてるって!」
失礼だなー、とけらけら笑う名前。よく見ると普段より……女らしい、だと!?
更には後ろ手に大きな紙袋を下げている事も判明。
レッドも気がついたようで厳しい目線を交換し合う。さて、どう引き止めるか?
……なんて、共同戦線が張れたのはそこまでだった。
「あれ?レッドは誰からも貰わなかったの?」
「……うるさいな」
「山に篭ってるんじゃしょーがないか!じゃあレッド、私のチョコ貰ってくれる?」
「「え!?」」
「えっ、何で二人共驚くの?私がチョコ作ったらおかしい……?」
おかしくはないけれど!つーかむしろ今のお前の格好の方に驚いてるけど俺は!
でも何でレッド!?俺は!?おい頬染めんな気色悪ィ!無性にいらつくんだけど!
「……俺でいいの?」
「もちろん!へへ、頑張って作ったんだからちゃんと食べてよね?」
「すっげー嬉しい」
紙袋から取り出された可愛らしい袋をレッドに手渡して微笑む名前。
それに釣られて珍しくへらーっとしたにやけ顔で笑うレッド。
……おいなんだこのピンクな空間。ここ俺の部屋ですよね?
「おま、おま……!おい名前!俺にはねえの!?」
「グリーンの分も作ってきたけどそれだけあれば私のなんて要らないでしょ?」
「要るに決まってんだろ馬鹿!」
「これだけ大量にもらってるのに更に!?グリーン強欲すぎる!」
「ちげええええええ!」
「俺が貰ったんだから諦めなよグリーン」
「うるせえ!」
レッドにチョップを入れて黙らせる。しょうがないな、と渋々紙袋から袋を取り出す名前。
よっしゃ、と心の中でだけガッツポーズをする俺、「何で!?」という表情のレッド。
「はいはいグリーンにもどうぞ!頑張ったんだからあげたりせずにちゃんと食べてよ?」
「当たり前だろバカ」
「何でバカバカ言うかなー…?じゃあ私、これ渡しにちょっとジョウト行ってくるから」
「「はぁ!?」」
「……ちょっと今日二人とも失礼過ぎる気がするんだけど」
「え、何!?俺のが本命じゃないの!?」
「おま、俺の方が本命じゃねえの!?」
「どっちも友チョコだよ!?」
「「何ィィィィィィ!?」」
レッドと二人して叫んだからか、ピカチュウと名前が思わず耳を塞ぐ。
耳鳴りがするのだろう。耳を抑えながら名前が俺達を睨みつけた
「こっちが私の本命!もう呼び出してるし行ってくるね?」
「は!?ちょ、待」
「カイリュー!『そらをとぶ』!」
「行かせない…!ピカチュウ、10万ボルトだ」
「……ピカピー……」
「おいピカチュウふらついてんだけどォ!?」
「しっかりし―――うわもうどっか行ったんだけど名前」
窓から飛び出していった名前を追うこともせずに立ち止まる。
行き先もジョウトということしか分からず戸惑って、思わずレッドと顔を見合わせた。
脳内でリピートされるのは名前の『本命』という単語。
「俺らの、友チョコ…?」
「らしい、ね?」
「心当たりは」
「あるわけないでしょ」
「「………………」」
―――無言が支配する部屋の中。
バレンタイン当日のお昼時、昼食を取ろうと二人に声をかけに来たサヨが見たのは
チョコの山に顔から突っ込むレッドとグリーンの姿だったという
Happy*Valentine…?
(遅くなってごめん!はいこれ!)
(うわぁ!名前先輩もやるときはやるんですね!)
(失礼過ぎるよコトネちゃん…)
(美味しそう…!)
(ミカンちゃんのクッキーも美味しそう!)
(こうやって女の子だけで集まって食べるってのもいいよね!)
(2013/02/16)
バレンタインに間に合わなかった上にこれギャグなの?ギャグなの?
さぼてん様より頂いたリクエスト、消化です(`・ω・´)
もうこれがギャグだと言い張ります。ええ言い張りますとも
不憫なレッドさんとグリーンが好きです←
きっとこの先も名前ちゃんは二人の気持ちに気づかず突っ走る(イメージ)
ケーキは美味しかったようです(´ω`*)
女の子だけでバレンタインパーティ…!ミカンちゃんこっそり登場させてみたり
ミカンちゃん凄く好きです
リクエストありがとうございました!
(※本人様意外お持ち帰り禁止です)