千日紅と共に待つ
「キラはさー、なーんでこんなにチビなんだろーな」
「歳の差を考えてくださいラゼルさん…」
ふにふにふに。ふにふにふにふに。
明らかに一級品であるベッドの上で、ラゼルはキラを後ろから抱き締め、結い上げた髪に顔を埋めていた。「あー、小さいなー…癒される…」「それは、…良かったです」ラゼルの好きにさせようと、最初から抵抗する気を持ち合わせないキラは自分を抱き締めるラゼルの腕を優しく、そっと叩く。やがてラゼルの顔が自分の後ろから少し離れた気配の後、ゆっくりと首元に降りてきたのがわかった。
「…久しぶり、キラ」
「っ、…遅いですよ」
耳元で囁くように告げられた久しぶり、には流石の盟友兼解放者も動揺を隠しきれなかったらしい。当たり前のようにそれに気が付いたラゼルは微かに笑い、照れた、と悪戯っぽい声がキラの耳元で小さく跳ねる。気恥ずかしさに思わずうつむいたキラの視界に広がるのは、自分とラゼルを包み込まんとする滑らかな肌触りの真っ白なシーツ。アンルシアの部屋にあるものとはまた違う高級感のあるそれは、王族の部屋にのみ存在するもの。
「随分、広い部屋に住むようになったんですね」
「俺一人じゃ広すぎるんだよ」
部屋を見もせずそんなことを言って、ぐりぐりと自分の肩に顔を押し付けるラゼルは動物みたいだとキラは思う。ラゼルの代わりに見渡した、ラゼルの新しい部屋は美しく、広く、魔法力に満ち溢れ、常に誰かの手によりその状態を維持されている。――彼が、王となった事実でこの部屋は出来上がっていた。ラゼルはもう、ただの士官学校の一生徒ではない。この世界を治める王の立場になったのだと、キラは改めて知ることになる。
――広い床に残された魔法陣の痕跡は、彼の細やかな抵抗の証だ。
「…それで寂しくなって、私を召喚したと」
「だってさ、キラにどうしても会いたかったんだよ」
どうやったら会えるのか分かんねーし、俺がキラのとこに行くとか無理だし、キラがこっちに来るために俺に出来ることもわかんねーし、でも会いたくてしょうがなかったから呼び出した。悪かったとは思ってるけど、…やっぱ、悪かった?
悪くないですよ。私も、…その、嬉しいですし。
「…キラ、好きだ」
「っ、」
息を呑んだその声が聞こえたのか、自分の体を抱き締めるその腕の力が強まった。キラはどう答えたらいいのか分からず、恥ずかしさで固まったままだ。「…っ、ら、ラゼルさんあの、」「久しぶりのキラすげー嬉しい…このままここに閉じ込めたい」「や、あの、それは困るというか」「……嫌われるのやだし、しないけどさ」ぽつり、ぽつり、ラゼルの紡ぐ言葉がひたすらに自分を求めるものだから、キラは熱の集まった顔をどうしようも出来ないまま、どうにか彼の頭を撫でられないかと手首を返す。
「なあキラ、このままここにいてくれよ」
「……今はずっとここにいます、って言えないですけれど」
「じゃあさ、言えるようになったら、俺のとこに来て」
「…ラゼルさんのところに、帰ってきてもいいんですか」
「俺を選んでくれたら、キラのこと一生手放さないからさ」
とにかく今はこうさせて、と縋るラゼルの髪にようやくキラの指先が届く。「…ほんとさ、王様とか、ガラじゃなくて」「…はい」「でもさ、…俺のやるべきこととか、やりたいこととか、やんなきゃなって思ったこととか、いっぱいあって」「…はい」「今はすげー苦しいことが多いし、この先も多分苦しい事が多いけど。その時隣にキラがいてくれたらって思うんだよ。…なあキラ、俺を選んでくれって言ったらさ、頷いてくれる?頷いてくれるならキラが俺の隣に来てくれるまで、ずっと待つ気でいるんだけど」
20160804