きみのほかには誰も知らない
「お前はさ、俺に似てるよな」
「…どうしたんですか、いきなり」


唐突なテリーのその言葉に、キラは静かに目を細めた。キラの目に映るテリーは冗談を言っている様子ではなく、言葉の意味は容姿的なものではないだろうということは分かる。テリーと自分が、似ている?…テリーとの共通点を探すべく、キラは手元の短剣に視線を落とした。よく研がれた刃の煌めきに、彼女は思考を巡らせた。

キラにとってテリーは迷宮でだけ会うことの出来る不思議な人、という立ち位置だ。青色の衣服を身に纏い、共に行動するモンスターと共に迷宮の主の間へと続く道の途中に現れる。言葉を交わすようになり、お互いのことを話すようになり――…迷宮がその姿を消してしまうまで、共に過ごすようになり。交わした言葉の数は相手を友人と呼ぶには十分なのかもしれないが、似ていると思わせるには不十分だとキラは思う。

――お互いが"強さ"に抱く理想に関しては、似ているだろうか。


「お前も"影"、なんだろ」
「……ああ、そういう」
「気を悪くしたか?」
「いえ、別に。盟友の立ち位置ぐらい、理解しています」
「まあ、いくら努力したところで俺達は…勇者って生き物に敵わない」
「…そんなことは、」
「天から与えられたものが違う。でも、それに抗おうとしてるとこが、似てる」
「………嬉しくありません」
「俺は嬉しいけどな。こんな風に、自分に似たやつに出会ったのは初めてだ」


ドランゴとジュエルが扉の前で戯れるのを眺めながら、テリーは静かに剣を抜いた。布を手に取り、慣れた手つきでテリーは愛用の剣を磨いていく。「武器の好みだけは、似てないらしいが」「短剣は片手剣に勝ります」「さあ、どうだろうな」いつか手合わせしてみたいもんだ、とテリーが零した呟きにキラははて、と小首を傾げる。


「手合わせしてみたいなら、すればいいじゃないですか」
「無理だ」
「何故です?私、負けるつもりはありません」
「勝つ、負けるの問題じゃない。こっちの事情だ」
「じゃあ、どうして?」
「……ここに居ると実力が出せない、ってのはあるかもしれないな」
「じゃあ、一緒にここから出ましょう。そして、私と戦ってください」
「嫌だね」
「…子供だからですか?女だから?」
「そうじゃない」


テリーの剣を磨く腕が止まり、その瞼が静かに紫水晶を隠す。短剣を手に取り、立ち上がったキラは急かすようにテリーの顔を覗き込んだ。完璧な配置のパーツに、女でも羨むような長い睫毛。閉じた切れ長の瞳は、獲物を逃さないのだろう。――私には、似ても似つかないと思うのだけど。考えるキラの目の前で、見つめる先の瞳が、ゆらりと起き上がった。強い光を放つ一対の紫水晶が、キラのエメラルドの瞳を射抜く。


「…この迷宮は、時間が経てば消えるだろ」
「ええ、そういう場所ですから」
「その中で俺達が共有出来る時間は少ない。扉を潜れば、それは別れだしな」
「……それが?」
「手合わせも悪くない。が、今は武器で語り合う気分じゃないってことだ」


どくん、と心臓の奥が揺れた。――テリーは、私と共有出来る時間を、大切にしている?


「…回りくどいです」
「………相当、譲歩したぞ」
「もっとストレートに、……ぜひ、お願いします」


語尾が小さくなってゆくキラの言葉に、はあ、とテリーが深い息を吐き出した。剣を置き、布を置いたテリーが揺れるキラの瞳を捉えるように腕を伸ばす。伸ばした腕は彼女の短剣を握る手首を掴み、その手首に巻かれた包帯の結び目に触れた。


「…まあ、つまりだ。確かに少ない時間を武器に割くのも悪くない。でも会うたび別の場所に怪我つくってるヤツには多少なりとも休む時間が必要だと思うしな。…これでもまだ回りくどい、って言い出しそうだな」
「言います、何度でも…」
「あんたは俺の貴重な話し相手だ。ここには、魔物しかいない」
「……だから?」
「手っ取り早く戦って本性を暴こうとするのは、ガキだろ?」


口端を上げ、にやりと笑ったテリーが微かに揺れる、迷宮と同化して彼女の目の前で光の粒子に包まれていく。「…ま、俺はそこそこ、気に入ったものは大事にする性質なんだ」言葉が彼女の耳元で溶け、銀色はエメラルドに映り込んだ。額に触れたなにかが、全てを狂わせ変えていく。
普段の自分も戦う自分も、大事にしたいのだと言われたと…受け取って、良いのだろうかと考えたときにはキラの周囲はいつもの景色が広がっていて、迷宮の気配は残っていない。手の中に残された魔法のカギを、空中で回して――次に、テリーに会えるのはいつになるのか。


「…ずるいです」


カギを握り締め、キラは地面にへたり込んで膝を抱えた。赤くなった頬と、熱を持った額が自分を盟友から、ただの女の子へ戻す気がした。次に逢うとき、一体どんな顔をして会えばいいのか。前髪を指先でいじる彼女のその顔は、最強と呼ばれる剣士以外の誰も知らない。


20160513

デルーションの煌さまに捧げさせていただきます…!超不意打ちでトビセナを頂き狂喜乱舞した果てのお返しが拙いテリーでほんとすみませんテリー×幼女最高です(身長差を拝みながら)(体格差を拝みながら)
流れてくるドレアとかお写真とか、いいね!ってハート飛ばしたいなあと思いつつ押そうと思う時間が時間でいつかキラちゃんと遊んでみたい…ってざわざわするだけにとどまっております…なんかもうトビアス様しか言っていない私のツイートを拾ってトビセナ恵んでくださるなんて女神か!?と本当に拝み倒しております…ありがとうございます…キラちゃん書くのすごい楽しいですまた書かせてください…ぜひ…語彙がしんでるな!?
結婚したトビセナありがとうございましたもう私墓からそっとキラちゃんの幸せを祈るマンになります…キラちゃん幸せになって…次はぜひふぉすきらちゃんかきたさ…