"あなた"という世界
・夢主お借りしております
・近親相姦的な表現がございます


「姉さん」
「あれ、ククール?寝たんじゃなかったの?」
「眠れなかった」
「一人で出歩くなんて危ないわ」


微笑んだ姉の横顔に、心臓が跳ねるのにももう慣れた。…血の繋がった姉だと思っていた頃は、心臓が跳ねるたびに罪悪感を噛み殺していたんだったか。暗闇でひとつ、揺れる炎を瞳に映した姉さんの傍らには弓矢。その背後には毛布に包まれて、心地良さそうに寄り添うエイト達がいる。見張りの交代はあと何時間だったか、考え込んだ俺に姉さんが笑う。


「ククール、眠れないんならこっちに来る?」
「…ああ」


頷いて、細心の注意を払いながら進む。一歩踏み出すたびに近づく姉の嬉しそうな顔に、緩みそうな口元を必死で抑える。「久しぶりだね、二人なの」「そうだっけか」「そうだよ」潜められた声は囁くようだ。耳から入り込んで脳を揺らす。血が繋がっていると信じていた姉。血が繋がっていなかった姉。本当はあいつの姉だった、俺の名前姉さん。


「ククール」
「なんだよ、姉さん」
「私ね、みんなと楽しそうにするククールが好きよ」
「…唐突だな」
「好きだもの。ククールはいつだって大好きよ」


腕を絡ませ、俺に体重を預けて姉さんは笑う。「好きよ、ククール」「…知ってる」「ククールは?」「……」一瞬言葉を見失ったのは、誰かに聞かれていることを恐れたからか。それでも目をぱちりと瞬かせて、不安そうに俺を見上げた姉の表情を目にしてしまえば、禁忌だろうがなんだろうが、言葉を紡ぐことに不安は覚えないのだ。


「ああ。…愛してるよ、姉さん」
「ふふ、知ってるわ」


嬉しそうに、心底から嬉しそうに笑った姉が俺の腕に頬を摺り寄せた。「姉さん」「ん、」声に顔を上げた姉さんの耳元に唇を寄せた。小さく息が弾む音。ああ、可愛い可愛い俺の姉さん。二人きりの時ぐらい、俺だけのものになってくれないかな。


「そんなに寂しそうにしなくても、私はククールだけのものよ?」
「…どの口がそれを言うんだよ」
「でも、本当のことなのに」
「信じられない、な」


絡められた指を引き寄せて、手を離す。少しだけ目を見開いた姉さんのその手首を掴んで、手のひらにそっとキスをしてみる。「…ククール」「なんだよ」「愛してる」「…知ってるさ」もう一度、絡めた指先の体温は生ぬるい。これぐらいが調度良いのだと思う。
姉さんの家族であるつもりだった。でも姉さんの家族は俺じゃなくて、あいつだ。「ねえククール」「…なんだよ、姉さん」首を傾げて、くすくすと笑う姉は俺の服のボタンを空いた指先で弄んでいる。楽しそうなのに寂しそうで、困ったように目を細めて。


「私がマルチェロを愛しているから、信じられないのね」
「………」
「でもククール、私はククールを愛してるのよ」
「あいつも、愛してるんだろ」
「私はマルチェロを愛しているわ。でも、ククールを愛しているの」
「も、じゃないのか」
「だって、まったく別物の愛なのよ?」


どこがどう違うのか、聞いても姉さんは答えないんだろう。「…マルチェロ、何をしてるかしら」どこか遠くを見るような目をした姉さんは、愛していると言った男が目の前にいるくせに他の男のことを考えたようだった。ふつふつと、腹の底から湧き上がってくる黒いものを見ないようにして、俺は再び姉さんの首に顔を埋める。


「ククール、眠くなった?」
「……ああ」
「おやすみ、ククール。良い夢を見てね」


私の夢を、と囁いた声に目を閉じる。…これでも姉弟揃って聖職者だなんて、皮肉だよなあ神様。



"あなた"という世界




(2015/05/03)


企画より霞様に捧げさせて頂きます。いつもありがとう霞ちゃん!
お姉さんをまた書かせてくださってありがとうございますお姉さん好きです…
お姉さんが病んでるというよりククさんがすごい依存してる感じが、ウッ見ないふり…でもお姉さんが一番依存してるんだろうなあ…趣味でそっとマルチェロさんと挟みましたありがとうございます
すごく偽物感のあるお姉さんとククールで非常に申し訳なさがありますでもお姉さんほんと好きですお姉さん下僕にしてください!お姉さん!お姉さん…結婚してとか気軽に言えないお姉さん…蔑んだ目で見られたいお姉さん…!

書くのすごく楽しくてびっくりでした。霞ちゃんに出会う前は姉弟の近親相姦が地雷だった私、今や美味しくもぐもぐできています。本当にいつもいつもありがとう!だいすきです!尊敬しています…!ぜひ少しでも楽しんでいただけたら幸いです!