きゅんてするの、なんでかな?


「…ええっと、何この量」
「あ、ナミ!」
「申し訳ないナミさん、ナミさんの分はきちんとおれが…」


菜箸を片手に自然な動きで隣にやってくるサンジ君を避けて、いつもの間抜け顔でにこにこ笑う名前の前に仁王立ちをしてやる。「名前、この量は?」「ルフィの分!」…威圧を混ぜた質問は、気の抜けたへらりとした笑顔に躱されてしまったようだった。サニー号の広々としたダイニングキッチン、共用で使う大きなテーブルの上から溢れ出しそうな料理の数々。そのほぼ全てが肉料理で、ほかほかと湯気を上げていた。確かに私は今、美味しそうな匂いに釣られてここまで来てしまったけど、肉ばっかりってどうなの…


「念のために聞くけど、このお肉はどこから?」
「ルフィとウソップが大きな海王類を二匹も釣り上げたの!ルフィったらすごく嬉しそうで、」
「……ああ、うん……私に被害がないなら良いわ」


それでそれで、とお玉を振り回しながら(私が目を逸したのにも気がつかないで)名前はマシンガンのように言葉を続ける。「サンジじゃなくて、私!私に、美味い料理作ってくれって…!サンジには劣るけど、お前も最近肉焼くの上手くなってるって!この間の肉は美味しかったって!それで」「あー分かった!分かったから!」一番近くにあった大きめの、串に刺されたソースの滴る肉を名前の口に突っ込んでやる。目を見開いた名前は抗議の目線を私に向けながらもぐもぐと口を動かし始めた。本当、ルフィのことになると名前はうるさくなるんだから。「名前ちゃんの望みとありゃ、美味い肉料理のレシピなんざいくらでも…」「サンジ君は名前を甘やかさないの」「ナミさん、レディーは甘やかすぐらいが丁度良…おれはいつでもナミさんを甘やかせま、」「はいはい!」再び寄ってきたサンジ君の口に、名前と同じく肉を突っ込んでやる。


「名前も、あんまりルフィを甘やかさない!」
「んんむ?」
「なんで、って決まってるじゃない。確かにあんたが釣った海王類でサンジ君と料理してくれてるおかげで食費は浮いてるしあんたの腕も日に日に上がってるけど、流石に毎日肉はちょっとね?ほら、食事にもバランスってあるし」
「安心してくれナミさん、バランスは全部おれが完璧に…」


いつの間に飲み込んだというのだろう。余計なことを言い出したサンジ君の口に再び肉を突っ込んで、私は名前と向き合った。この子は本当、ルフィルフィって…ルフィもルフィだ。名前がこの船に乗ってから、この子に肉料理を作らせてばかり。いや名前の夢が肉料理を極めることであるのと、自分の料理を世界で一番美味しく食べてくれる人を見つけることっていうのは聞いたけど…聞いたんだけど!


「私まで巻き込まれてちょっと、ほんっのちょっとだけど!お腹周りが気になるなんて…!」


ごく小さかったけれどひとつ、浮かび上がった若さの象徴は今朝、ロビンに指摘されて気がついたのだ。ナミにしては珍しいわねと言われ、思わずの叫び声でチョッパーを驚かせてしまった朝のことは記憶に新しい。「ほんと、美味しいからついつい食べちゃうのよね…この間のチリソースのはなかなかだったし、サンジ君の料理とはまた違った良さがあるというか」肉肉しいけど、いざ口に運べば飽きない工夫が成されている。次に口に運んだら、どんな味が広がるんだろうと想像を掻き立ててくれるのだ。
確かにまだまだ料理人としては未熟なんだけどなあ、とサンジ君が目を細めた。「ナミさん、恋はハリケーンなんだよ!」「はいはい」恋かどうかは知らないけど、本人たちがいいんなら別に良いんじゃないだろうか。拳を握り締めてハリケーン、と呟くサンジ君と美味しそうな誘惑から目を背けてダイニングを出ようとする。


「なんだ!?すげえいいニオイがする!」
「あ、ルフィ!待ってたんだよ!」
「うおおおおおおーっ!すっげー!これ全部食っていいのか!?」
「もちろん!ルフィのために作ったんだから!」


――飛び込んできたルフィに、目を輝かせた名前が口に余るであろう肉の塊を即座に飲み込んだのを見た。両手を広げて作り上げた料理を示す名前に、両手を上げて喜ぶルフィ。肉料理にきらきら目を輝かせるルフィはいつも通りで、そんなルフィを嬉しそうに笑いながら見守る名前もいつも通りだ。


「ねえサンジ君」
「なんだい、ナミさん」
「…やっぱりちょっと、お互いに甘やかし過ぎじゃないかしら」
「ナミさん、レディーは」
「はいはい、甘やかし過ぎるぐらいのが良いのよね」


いただきまーす!とルフィの大きな声が響いた次の瞬間、テーブルの上の料理が消えていく。…本当、案外あの二人は上手くやって行けそうだから困るのだ。今からお互いに甘やかしが過ぎていたら、いつかお互いに飽きるんじゃないかなんて…「うまい!」「へへ、そう?へへへ…」……――無さそうだから、いいか。いいや。もう気にするだけ時間の無駄だわ。


「サンジ君、私もお昼ごはん食べる」
「それが良いと思うぜ、ナミさん」
「そうよね、知ってたわ…」


きゅんてするの、なんでかな?



:確かに恋だった

(2015/04/13)

企画より夏川様へ!捧げさせて頂きます…!
私はこれでやっとウソップをお持ち帰り出来ます;;;ウッ……ウッ
勝手に自分で縛りを設けてそれに生殺しをこんなに長く味わうなんて…ウウウウッ……
なかなか企画をやらないのでその、企画で書いて頂いたウソップを、飾るには私も企画で夏川ちゃんにね、参加してもらってね、お返しをしてからへっへっへとお持ち帰りさせてもらう予定だったなんて……企画めったにやらない人間なんてやめるんだ…嘘です!(
前置きが長い!のでシンプルにご挨拶させてください参加してくださってありがとうございます大好きです!

タイトルは夢主がルフィが食べる姿を見ている時の心のうち、みたいな感じでお借りしました。テーマはいっぱい食べるきみが好き!幸せだったりハッピーだったり、自分が感じる瞬間は美味しいものを食べる時と寝るときと猫が一緒にいるときで、ルフィなので食べ物メインの話にしました。ナミさん視点…ナミさん…ナミさんこんなんじゃないごめんなさい好きですナミさん ナミさん
一応サンジ君より下の立場、厨房担当下っ端、見習い、肉料理担当みたいな感じのこっそり海賊で考えてたネタの供養です…!書いててお腹すっごい減ったのは内緒!