君に幸せを見せてあげる(5主/さぼてん様へ)


「旅人様は、どうしてそんなに沢山の魔物と共に旅をされているのですか?」


街の外まで付き添って貰った、肉屋の少女を振り返った。「怖いかい?」「…いえ。どの子も旅人様によく懐いていらっしゃるみたいで、まったく怖くない」首を振ってそう言った少女に思わずほっとしていた。みんなを見て腰を抜かされ、あとから白い目で見られることが常だったのもあり、同時に驚いた。少女はみんなの為に僕が購入した肉塊をカットしている最中で、腕を止めて僕を不思議そうに見つめている。


「……魔物は恐ろしいものと聞きました。うちの家畜もやられました。なのに、凶暴で残酷で、…魔王の手先のはずの魔物が旅人様の前ではとても幸せそうな顔をしている」
「そうかな。僕はもう慣れてしまったけど」
「とても不思議です。そして、普通の人からそれは異端の目で見られるように思います」
「分かるかい?」
「…やはり、そうなのでしょうか?」
「まあ、愉快とは言えない扱いをされることは多いけど。でも僕は別に気にならない」


隣に座り込んでいたゲレゲレの喉を撫でると、心底幸せそうな顔になるから僕も釣られて笑顔になった。同時に胸が締め付けられるのは、ついこの間、魔物討伐を依頼してきた村のこと。討伐対象のキラーパンサーは、僕の大切な友達だった。それを白い目で見られたのは多分、今までで一番きつい扱いだった。けれどもそれを耐えられるのは、再会出来た喜びが大きかったからだ。


「彼らはみんな、僕の家族なんだ」
「……家族、ですか」
「そう、家族。見た目や種族の違いなんて気にならないよ、大切な仲間だ」


肉を美味しそうに頬張るみんなを見ると口元が緩んだ。自分のために切ってもらった肉はじゅうじゅうと旨そうな音を耳に届かせていた。串に差したそれにそっと手を伸ばし、ゲレゲレに差し出すと嬉しそうに食いついてくる。


「そんなに魔物と旅をしているのは不思議かい?」
「…ええ。それから、家族と言い切ることが出来るのも」
「君に家族は?」
「私を捨てました。幸せになるんだと言って、怪しい宗教団体のある山へ行ってそれきりです」
「………」


伏せた目からは涙なんて流れていない。きっと、もう十分に泣いたのだろう。幼い頃の自分が父を目の前で失った悲しみに暮れていたように、彼女も十分に泣いたのだ。「ずっと一人だったんです。だから、私は家族なんて知らない。…家畜は最近、みんな領主様に奪われてしまったから」旅人様が私の最後のお客様なんです、と少女は笑う。


「君、名前は?」
「…………名前」
「そうか。じゃあ名前、僕と一緒に行こう」


――目をまん丸に開いた少女に微笑んだ。「最後のお客さんだなんて寂しいことを言わないで」ここで死んでしまうなんて、それはとても悲しいことだ。見ず知らずの旅人にそんなことを打ち明けるぐらいに追い詰められている少女を野放しになんて出来ない。


「ほら、今日から君は僕らの家族だ」


悲しみはもう必要ない。ここで捨てるぐらいなら、その命を僕に預けてみないかな。そっと彼女の背中を押すと、新たな仲間にみんなが嬉しそうに沸き立った。いいんですか、と問う少女に笑ってみせる。だって家族が増えるのはいつだって嬉しいものだろう?



君に幸せを見せてあげる



(2014/02/09)

企画よりさぼてん様に捧げさせて頂きます。

ほのぼの…してる…とは言い難い…かもしれない…
久しぶりの5主でした。さぼてん様宅の5主さんは私のところの5主と名前が違うので、敢えて固定しないのを目標に書いたらこんな風になりました。みんなでわいわいご飯食べるのっていいよなーって思った結果です。

時間軸としてはカボチ村後、青年時代前半。結婚前です。キラーパンサーの名前はどれにしようかな、で決めたゲレゲレです。チロルと非常に迷いましたがたまにはいいかなあ、と…夢主はゲマ達にたぶらかされた親のせいで天涯孤独でした。それを5主が救ってあげる感じです。青年時代前半はほんとに夢書きやすい魔法の時間に感じる不思議!

日付にささやかなサプライズを混ぜてみました。いつもお世話になっています。サイトを再発足させるきっかけをくれたのも彼女、いつだって心の支えになってくれているのも彼女です。彼女がいなかったら今の私は無いんじゃないかと思います。いつもありがとう!

(本人様のみお持ち帰りが可能です)