ラブコールにご用心(ロー/夏川様へ)
――無理難題を突きつけたつもりだったのだが、どうやらそれは失敗に終わったらしい。
俺は故郷に幼い知り合いを残していた。そいつの名前は名前という。海賊になって出ていくと決めるまで、そいつは常に俺の後ろをくっついて回る厄介な幼子だった。それでいてそいつは俺の事が、多分他の誰よりも好きだったのだ。
だからだろう、何度も何度も問われたものだ。自分の事を好いているか、俺の好みのタイプはどうだとか、大人になって綺麗になったら貰ってくれるか……エトセトラエトセトラ。耳にタコが出来そうだったもんで、俺はそれを半ば無視する形で名前の存在ごと知らないふりで通した。女は別にいらない。必要な時に隣にあればいい。
直接言葉にすると、名前は酷く悲痛そうな表情をすることを俺は知っていた。まあ、…流石に子供を泣かせるのはどうかと思ったから、自然とあいつが俺を諦めるようにしようと思ったのだ。好みのタイプで年上と答えた。洒落た女が良いと、可愛らしい女がいいと。幼子に求めるには結構な高度の問題だっただろう。事実、名前は唸っていた。俺に追いつくために必死で努力をしていた様は…まあ、微笑ましいと思ったりもしたかもしれない。
それから俺は海へ出た。名前には何も言わなかったが、それはきっと正解だろう。あいつの事を考えると、まあ、罪悪感を感じる時もあった。海に出て、一時期は後ろをくっついて回る厄介な幼子を多少恋しくなったりもした。が、それも本当に一時期的なものだったのだ。今日この日まで、めったに名前の事を思い出す機会なんて無かった。それがどうだろう。
「トラファルガー・ロー!やっと会えた!」
デッキの中央で悪魔の実の力を自在に操り、クルー達を翻弄するそのあどけなさの残る顔立ちは俺の好みのそのままだった。いや、一瞬でタイプになっていた。
深夜の海で、浮かび上がるために動かしたハートの海賊船を奇襲したのは、最近噂のルーキーだった。懸賞金はまだ少ないが、その美しさからファンも多いという。単体で手配書を片手にトラファルガー・ローを探している、と。
「どう、美しくなったでしょう?」
「……あァ」
「海賊になったんだよ、私も」
「そうらしいな」
俺を見るなり目を輝かせて笑顔になるのも、口調も、まったく変わらない。唯一変わったと言えば男を惑わすような体になっちまったというところだろうか。あァ、女とは末恐ろしい。――まさかこんな風に変わるなんて思わねェだろ。で?名前、お前の望みはなんだ?おいおい、そう呆けた顔すんじゃねェよ。
一瞬何を言われたのか分からなかったのだろう顔は、一瞬にして笑顔になった。「キスして欲しい!」「…あ?」「それから、抱きしめて欲しい」「……」「最後にね、ハートの海賊団に入れて欲しいの!私はここに来るまでに、――ローのために頑張ったんだもん」得意気に頬を人差し指で掻くその姿を見るのは、幼い頃に名前を撫でてやった時以来かもしれない。
努力を汲んで欲しいと力説する名前の腕を引き寄せてやると、素っ頓狂な声が漏れた。おいおい、手馴れてんのかと思えば…体は成長しておれど、そちらはまだまだ子供らしい。しょうがねェなあ、と思わず呟いていた。とりあえず、唇を塞いでやることにする。
ラブコールにご用心
(2014/01/31)
ハッピーバースデー!遅刻してない遅刻してない…すいません遅刻しましたしかも意味ワカンナイ…でも今までもこれからも大好きです。おめでとう!