お菓子なんかよりもっと甘い(ロデオ/永樹様へ)
ローデーオ、甘いものが足りないー
冷蔵庫の中には甘ったるいケーキにチョコレートにクッキーにキャンディー。全て自ら購入してきたもの。それなのにロデオは厳しい顔をしてぺらぺらな一枚の紙を差し出してくる。ええと、これはこの間の…健康診断の結果、かあ…!
「お前なあ、血糖値がガキのくせにひっでえことになってんだぞ」
「だってすぐ死ぬって思ってたから好き勝手に食べてもいいかなーって?」
「普通の体になったんだ、普通に自分の体の心配しろ」
「でも糖分欲しい…糖分…」
病気だな、の一声が胸に刺さる。同時にロデオの手からそのぺらぺらの紙が床へ放たれた。ぴらぴらと舞うその紙は目の前にぱさりと落ちてくる。当然、糖尿病の危険を警告する文章は赤文字で。そういえばあのおじいちゃん先生、苦笑いしながら言ってたなあ。なんだっけ、暴飲暴食はやめなさい、普通の体になったんだから…?
「ロデオ、あのおじいちゃんと一緒のこと言ってる」
「は?」
マスクのせいで口元は見えないけれど、目が丸い。どうやら無意識だったらしい。「あーあーつまんない!」ロデオったらすっかり"大人"ぶっちゃってる!フェーダにいた時もそうだけど、やけに私に対して過保護じゃない?…普通の体になってしまった今、この体とあと何十年か共に過ごすのだからロデオの言うことは正しいのだけど。――正しいと分かっているのだけど。
「いーじゃん、私まだ子供なんだよ?好きなもの食べて好きなことしてたい」
それでも今まで過ごしてきた時間の中で、染み付いてしまったものは簡単に拭えないのだ。子供のまま、子供らしく振舞っていたい。好きなものだけ食べて生きていたい。それはセカンドステージ・チルドレンだった時には許されていた。なのに負けちゃって、ワクチンを打たれてからは許されなくなるなんて!
それは麻薬のように依存性が高いものだったらしい。私にとって甘いケーキは何にも代え難いと思い知らされた。ああ!なめらかな生クリームが恋しい。とろけていくチョコレートが恋しい。幸せな気分にさせてくれるマシュマロが欲しい!「あのなあ、もう俺達は"特別"じゃないだろ」二人共普通の子供だ、と言い切ったロデオにイライラが募る。いつの間に"普通"に馴染んじゃったの!思うように振る舞えなくなって、むずがゆい思いをしているのは一緒だと思っていたのに。
冷蔵庫をちらりと見やる。上段にはスイーツがぎっしりと詰まっていることは詰めた私が良く知っている。下段には昨日仕込んでおいたタネが、程好く冷えた爽やかなアイスクリームにシャーベットとなっているのだろう。ああ、欲しいんだってば!「……っ、一つぐらい!」「駄目だ、一つが二つ、二つが三つになることはよーく知ってる」くるくる、とロデオの指先でリングに通したカードキーが回る。
ああ、甘いものが欲しくて欲しくてたまらない!
じーっとロデオの回すカードキーを見つめていると、呆れたような溜め息が聞こえた。「……そんなに欲しいか?」「欲しい」数秒の間すら挟まずに応えると、先程よりももっと深い溜め息が聞こえた。目線は完全に私を見下している。そんなロデオを睨み返してやると三度目の溜め息。なんだなんだ、私は屈しないぞ!甘いものを口に入れるまでは!
「あのなあ名前、俺は本気で心配してるんだ」
「……それは分かってる、けど」
「けど、じゃない。お前がこんなことで病気になったら?看病するのは俺か?」
「い、嫌なら看病とかいらない。早死にしてやる」
「早死にさせたくないからこうしてるんだろ」
このバカ、と半分以上は怒りを含んだ声と共に降ってきた拳に思わず呻き声を上げ――と、同時に私の声に上書きされるようにロデオが呟いた言葉を私はしっかりと拾ってしまった。「…ロデオ、今なんて言った?」「なにも言ってねえよ」「う、うそだ!今しっかり聞いた!」好きだから、って言ったの聞こえた!
背中を向けてしまったロデオの正面に回り込もうと飛び上がる。「やめろ!」見るな!と顔を腕で隠すロデオのマスクを外す方法を本気で考える。甘いものへの欲求はどうやらすっかり消えてしまったらしい。
お菓子なんかよりもっと甘い
(2014/01/19)
企画より永樹様に捧げさせて頂きます。安定の偽物臭…
かわいらしいもの、とお題を頂いて可愛いもの、可愛いもの…とぼんやり考えついたのがお菓子でした。で、セカンドステージ・チルドレンの短い寿命を好きなもので埋め尽くそうとする糖尿病の夢主を考えついた末が心配性というか過保護なロデオ君でした。ひたすら可愛い雰囲気を目指してみたんですが、お気に召して頂けたら幸いです!
いつも本当にお世話になっております。本当に参加して頂けて嬉しかったですー!ありがとうございました!ロデオ君といいセカチルっ子はあまり表に出ない部分の子達も増えていったらいいなあと思います…!
(本人様のみお持ち帰りが可能です)