心地良い程の欠落感(皆帆/霞様へ)
(※近親相姦的な表現があります)
僕の姉は、僕のことを多分、普通以上に愛している。
「…姉さん?」
「和くん!ねえ、お姉ちゃん和くんがここに居る意味は分かってるけど、メールが返ってくるの少ないし最近電話もあんまり出てくれないから我慢出来無くなっちゃったの!だからねえねえ和くん、和くんキスして?ねっ?」
宿舎の自室で本を読んでいた僕のところに飛び込んできた人影。その人物を認識した瞬間にはもう、彼女は既に僕の首元に絡みついていた。まるで恋人にするかのようなキスを迫られて咄嗟に避ける。普段なら黙って受け入れるそれを拒んだのは、おそらく姉さんを案内してきたのだろう空野さんの存在が視界に映ったからだ。
「じゃあ皆帆くんのお姉さん、私はここで」
「和くんー!和くんー!久しぶりの和くん…!」
「ご、ごめんね空野さん。ありが、」
「和くん、私がいるんだから他の女の子なんて見ちゃめっ、だよ?」
「そうだったね、…姉さん」
空野さんに目だけでひっしに謝りつつ、ベッドに押し倒してすりすりとまるでマーキングを行う動物のように僕の首元に頭を擦り付けてくる姉。その頭を撫でてやると、きゃああ和くん!と嬉しそうな声を上げてぎゅうぎゅうと抱きしめてくる姉。
――僕の姉は、僕のことを"必要以上に"愛している。
それを理解した…というよりも理解させられたのは既にもう何年も前。成人式を終えたばかりの姉は、僕とはあまり似ていない。当然性格や嗜好が違うのはやはり異性だし年齢が離れているからなのだろうけど、僕は姉の事を多分、完璧には理解出来ていない。
姉は綺麗だ。純日本風、とでも言うべきか。とても見目麗しい美人である。母と父への愛は多分、普通と至って変わらないのに僕への愛だけが異常な事を除けば多分、パーフェクトなのだろう。さらさらと流れる染めていない髪はまるで絹糸。僕の目の前で弧を描いている唇は艶やかで妖しい。ぱっちりとした瞳と完璧な造形。まるで芸術品のようだ。
「……連絡をおそろかにしてしまって、ごめんね」
「良いよ、許してあげるわ。和君だもの!」
その代わりにしばらくこうしていさせて、と抱きしめる力を強くした姉に乾いた笑いが漏れる。(空野さんはいつの間にか扉を閉めて去ってしまっていた。)淋しがりで僕がいないと駄目になってしまうと自ら僕に何度も言い聞かせる姉を、どこか破損してしまっている姉を、僕がいないと成り立たないようになってしまっている姉を、…どうしてこうも甘やかすことに慣れてしまったのか。「名前姉さん」「和くん」「名前」「かず、くん…」頭を再び撫でて髪を指先で絡め取った。眠そうに目を細めていく姉はとても愛おしい。ああ、その艶やかな唇に触れてやりたい、なんて。
――そんな風に考えている僕もやはり、どこかおかしいところがあるのだろう。
**
「…なんだ、あれ。おかしいだろ」
「井吹君?どうしたんだい、いきなり」
「昨日、お前の姉ちゃんとやらが来てただろ」
ああ、そのこと?と笑顔になる皆帆に少し寒気を覚えたのは何故だろう。「見てたんだ?」「違えよ。外から見えたんだよ」不機嫌をなるべく隠したつもりだったのだが、――皆帆には通用しなかったらしい。
「ああ、井吹君は姉さんに惚れてしまったんだね」
「なっ!?」
「気持ちは分からなくも無いよ。贔屓目を抜きにしても姉さんは綺麗だからね」
「……っ、それじゃあ、姉弟で"ああいう"のは」
「普通じゃないの?スキンシップだけど」
「近すぎるだろ!」
「そうかな?意識し過ぎなんじゃないかと僕は思うけど」
のらりくらりとなんとなく、自分と姉の関係性をぼかそうとしている皆帆に苛立った。「ああそうだよ、…一目惚れってやつだ」頬の熱を自覚しながら言い切ってやる。「やっぱり!寧ろそれ以外に理由はないよね。…僕の知らないところで姉さんが井吹君と繋がっていたら、なんて考えたのは杞憂だったかな」どこか嬉しそうに半分は小声で呟かれた言葉の後半を聞き取ってしまった瞬間、少しだけぞくりと嫌な予感が背中を走る。
「いいかい、井吹君。でも君のその恋は叶うことはないよ」
「どういう推理でその結論に至ったっていうんだ」
「推理もなにも、分からなかったかい?僕がいるのに、姉さんが恋人を作るはずがない」
そしてそれは僕も同じなんだよ!と笑顔でいつものように指を立てて言放った皆帆はやはりどこかおかしくて、でもその笑顔は昨日の夕方、皆帆の部屋で皆帆に擦り寄っていたあの美しい女とそっくりの笑顔で。何故だか思わず引き込まれるように見入っていた。おかしな信頼で繋がっている姉弟を、俺の手で壊すことが出来るのだろうか。
心地良い程の欠落感
(きっと君なんかには壊せない)
(だからいつまでもこのままで)
(2014/01/10)
...DOGOD69様
企画より霞様に捧げさせて頂きます。
お題に添えたかどうかが非常に不安なのですが…病んでいらっしゃる皆帆姉と皆帆で近親相姦、そして姉の方に想いを寄せる井吹…とても楽しかったです!
多分井吹君は頑張ればお姉さんの心を射止められるんでしょうが、皆帆が許さないと想います。お姉さんと井吹君が良い感じの雰囲気になったら皆帆君がおかしくなるんじゃないかなーと。逆に井吹君が頑張れなかったらこれはお姉さんの方が私の和くんに何するの、となっておかしくなるんだと思っていたり。
和くん呼び、書いてて楽しかったですー!あだ名で読んでいるのもいいなあと新しい世界に目覚められた気がします!いつも本当にありがとうございます。頂けたお言葉のひとつひとつに勇気づけられます。あとあの、絵って、あの、ほんとですか、あの、私死んでしまうと思うんですがそれは大丈夫なんですかいいいいいいいんですか…!?
嬉しさと気恥ずかしさで震えながら締めくくらせて頂きます。リクエストありがとうございました!
(本人様のみお持ち帰りが可能です)