風の神様と獣人





 アロガーレンは風の神である。
 今は昔、太陽神シャリアータが己の輝きが暑さをもたらすのだと気付き、それを冷やすために勢いよく吹いた息から生まれた神だった。
 その姿は、親である太陽神の色彩を淡くした毛並みの大きな獣の姿である。狼によく似た姿のそれは、しかし、狼を一呑みにできるほど大きい。
 ただし、アロガーレンの主食は太陽神の光なので、実際に狼ないし動植物を補食することはない。

 さて、そんなアロガーレンの仕事は、あらゆる場所に風を齎すことである。世界中を駆け巡り、アロガーレンは風を運ぶ。ただ一心に。休むことなく。
 アロガーレンは立ち止まらない。
 ただひたすらに、草原を、荒野を、山脈を、大海を、大空さえも駆け抜けた。風を纏い、ひたすらに。
 しかし、その風は如何やら全てが全て、歓迎されるものでは無いらしい。
 風は災禍も運び入れるからだ。

 突風によって、草原の草木はぐちゃぐちゃに引き裂かれ、荒野では頑強な石が巻き上げられ、山脈では大木が押し倒され、大海では大波に荒れ、大空では嵐を巻き起こした。

 それぞれを司る神に苦言を呈されることは少なくない。とは言え、その苦言も風が恵みを齎すことも理解している故に、さほど強いものでは無かった。
 だから、アロガーレンは聞き流した。
 そして、聞き流したアロガーレンを、呆れこそすれ、窘める者はいなかった。

 だが、それもどうやら大地の神が造り出した生き物が数を増やし、文明を築き始めたことで話は変わって来たらしい。



「アロガーレン、私の息子」

 輝く太陽を背に、その日もアロガーレンは休むことなく風と共に駆けていた。
 びゅうびゅうと風を纏い走るアロガーレンの背後から声をかけてきたのは、輝かしき太陽の神であった。
 母であり父である神の声に、アロガーレンは力強く血を蹴っていた足を緩やかに止めた。トントントン、と数歩たたらを踏むように前進した後、アロガーレンは背後を振り返った。
 そこには、豪奢なマントを羽織った太陽神が立っていた。

「シャリアータ」

 アロガーレンの大きな口が、低い声で彼の神を呼ぶ。シャリアータはアロガーレンへと近づくと、己の色を少し淡くした毛並みを一撫でした。ぶわり、風が彼女のマントを靡かせるが、当の本人は全く気にしていないようだ。

「今日も相変わらず、真面目に仕事をこなしているようだな、息子よ」

 ぐぅ、とアロガーレンは喉奥で小さく唸った。大きな尾をばさばさと数度地面に叩きつけ、胡乱げな目をするアロガーレンにシャリアータは目を眇めた。

「不服そうだな。如何した」
「何用で参られたのか」
「ふん?用も無しに来たとは思わんのか」
「思わぬ」
「おまえもルドワーレも世辞や愛想というものが無いな。嘆かわしい」

 やれやれと肩を竦めるシャリアータだが、果たしてどれほど嘆かわしく思っているのか分からない。そもそも嘆かわしいと思ってもいないかもしれない。

「母よ。父よ。いったい俺に何の用なのだ?」
「おまえに神になることを命じに来たのだ」

 今度はシャリアータは無用な戯言を口にはしなかったが、代わりにアロガーレンにとっては意味の掴めない言葉を口にした。
 アロガーレンはぴくり、と両耳を僅かに揺らし、首を傾げた。

「………俺は既に神だが」

 少し前に半神半人が神の末席に加えられたと伝え聞いたが、それは珍事で、実際神とは生まれた瞬間から神なのだ。
 シャリアータの息から生まれた瞬間には神として在ったアロガーレンに、シャリアータの命令は矛盾しているように思えた。

「ああ、おまえは神だ。風を操り、風を纏い、風と共に世界を駆け巡る私の息子。既に神だ、ああ、確かにそうだ。だが、私はこう命じることしかできない。神になれ、と」

 アロガーレンはシャリアータの言葉がますます分からなくなった。そんなアロガーレンの鬣を握ると、シャリアータは軽い身のこなしで息子の背に飛び乗った。

「言うより見た方が早いのだろうな。さあ、アロガーレン。行こう」

 あちらだ、と煌びやかな腕輪を嵌めた手が指し示す方向へ、アロガーレンは渋々走り出した。もちろん、風と共に。



「ああ、此処だ」

 シャリアータの制止の言葉に、アロガーレンは軽やかにその地へ着地した。途端に、血と焦げ付いた臭いが鼻を掠める。
 辺りを見回せば、そこはどうやら小さな村のようだった。あちこちに倒れているのは、大地の神が造り出した生き物とよく似ている。
 しかし、すぐそばに倒れていた生き物を見て、アロガーレンは、あの生き物とは異なる点を発見した。

「長い年月もあれば、多少奇特な趣向が流行ることもあろうよ」

 アロガーレンの鬣を弄りながら、シャリアータは明日の天気を予想するかのように話を続けた。

「人と魔物と獣。その本能から通常は同種で子を生すが、まあ、異種同士でも確率は低くとも子が作れぬことはない。なにせ、元はいっしょだ。母なる大地の身体から生まれた生き物なのだから。魔物を犯し、魔物に犯され、獣に犯され、獣を犯し。そうして長い年月をかければ、そうした種族も生まれるだろう」

 獣の耳を持つ、人と呼ばれる生き物とよく似た姿のそれが、あちこちで死んでいた。
 アロガーレンは風を纏いながら、村を闊歩する。シャリアータが一度、アロガーレンの頭を軽く叩いた。

「最近、人贔屓の神が増えた。私も人は嫌いではないが、この世界は人だけのものでは無いのだ」
「贔屓していない俺に言うより、他の神に言えば良い」
「贔屓していないおまえだからこそ、此処へ連れてきた」

 そう言って、シャリアータはからりと笑う。

「言っただろう、神になれと」
「貴方は何が言いたいのだ?」
「信仰なぞ腹の足しにはならんが、気分は良いものだ。頼られるのも存外悪くない」

 シャリアータの言葉の意味が終始分からず、アロガーレンは眉間にしわを寄せた。歯がむき出しになりそうなのを堪えるのは、背に乗る神が己を生み出した親であるからに他ならない。
 もし他の神であれば、噛み付いてやるものを。
 そう不機嫌になっていたアロガーレンだったが、先程から村の奥で微かに動いていた複数の何かが大きく動いたのを感じて、そちらへと顔を向けた。
 アロガーレンの関心がそちらへ向いたことを瞬時に悟ったシャリアータは、「行ってみると良い」と飄々と告げた。
 その言葉は提案だったが、命令でもあった。行かねばならぬのだろう。
 アロガーレンは己の周囲に渦巻く風を少し押さえて村の奥へと歩き出した。

 そこで見たのは、血濡れて事切れた獣の耳を持つ人の死体の真ん中で、人に犯され嬲られる小さな生き物だった。

「神になれ、アロガーレン」

 僅かな憐憫の情を乗せた声が発した言葉の意味は分からなかったが、しかし、シャリアータが何をしろと言っているのかは分かった。

 風を纏った大きな獣は、ゆったりと歩を進めた。その巨体にも関わらず、足音も立てず、筋肉の軋む微量な音さえも立てず。
 ただ、太陽神所縁の淡い色合いの毛を風に靡かせ、爛々と光る緑の瞳を細めて、風の神はそれらの背後に立つと、大口を開けた。

 目が合う。アロガーレンと似ている耳を下げ、汚れた尾を丸め、ただ痛みと屈辱に悲鳴を上げていた子どもは、どこか虚ろだった新緑の目を大きく見開いていた。

「……か、み、さま?」

 掠れた声に応えることなく、アロガーレンは生まれて初めて、生き物を食らった。
 たった一飲みで、三人の人を、食らった。



「かみさま、かみさま」

 あれから、小さな子どもは去ろうとするアロガーレンの後ろを懸命についてきた。
 放って駆けだしても良かったが、いつの間にか背からいなくなっていたシャリアータに何を言われるか分からないので、アロガーレンはそれもできずにいた。

 右耳が僅かに欠けた狼の耳と尻尾を持つ子どもは、踏みつぶされそうなほど大きな獣のアロガーレンを恐れず熱心に見上げていた。
 先程の虚ろな目は何処へやら、輝く緑の目は、アロガーレンが、はて本当に自分と同じ緑色なのかと疑うほど鮮やかだった。

「かみさまは、かみさま、なのですか?」
「そうだ」

 当たり前のことを聞かれ、当然だとアロガーレンは頷いた。
 アロガーレンは風の神である。それはアロガーレンが生まれた瞬間から定められたことだった。

 そんな当たり前のことを聞いてきた子供は、アロガーレンが肯定したことでその目を増々輝かせた。
 どこか陶然とした面持ちで、子どもは「やっぱり」と歓声を上げた。

「おれたちにも、いたんだ……!ひと、だけじゃなくて、じゅうじんの、おれたちにも、かみさまが……!かみさまだ、おれの、おれたちの」

 ぶつぶつと呟く子どもをしばらく見ていたアロガーレンだったが、周囲の血臭と焦げ臭さと生臭さがいよいよ不快になり、我慢できなくなった。

「子ども」
「はい!」
「この辺りに湖はあるか」

 話しかけられ、あわあわとしながらも、子どもはある道の先を指差した。
 アロガーレンは子どもを噛まぬように銜えると、その道を走り出した。びゅう、と風がアロガーレンの周囲を取り囲んだ。
 瞬きの間に湖を見つけると、アロガーレンは湖に話しかけた。子どもの汚れを落としても良いか、と尋ねると、笑いを含んだ甘やかな声が良いと答えた。
 その代り暫く私の身体の上を通る時は優しい風にしてね、と言われて、アロガーレンは頷いた。

 その会話が聞こえていない子どもは、アロガーレンの口先で大人しくしているだけだ。アロガーレンは子どもを湖に落とした。
 途端に、湖の水がゆらりと揺らめき、子どもを包む。驚いている子どもの汚れを洗い流した水は、せり上がり、子どもの身体を地面へと押しやった。
 アロガーレンは纏っていた風でそうっと子どもの身体を包み込んだ。

 湖が話しかけてくる。
 貴方が立ち止まるなんて珍しいこともあるわね。貴方ったらいつも真面目に風を運んでいるのに。
 そう言われて、アロガーレンは己の仕事を思い出した。
 そうだ、己の仕事は風を運ぶこと。立ち止まっていてはいけないのだ。シャリアータに連れて来られたが、今はもういない。このまま立ち去ったとして、意味の分からぬ命令をしたシャリアータに文句を言われる筋合いは無いのだ。

 そう思ったアロガーレンは、仕事に戻ろうと思った。

 ぱちくりと目を瞬かせる子どもに顔を近づけて、アロガーレンは問いかけた。

「子ども、おまえは何処へ行きたい。連れて行ってやろう」

 とはいえ、シャリアータと喧嘩がしたいわけではない。シャリアータの真意は分からないが、おそらくこの子どもを生かしておくのが得策なのだろう。そうでなければ、あの場でシャリアータがこの子どもを救うように仕向けていないはずだった。

「おれ、……おれ、かみさまといっしょに、いたいです」
「ならぬ」
「なんでっ」
「俺は風を運ばなければならぬ」
「じゃあ、ついていく……!」
「俺の速さでは、おまえは息もできない。息が出来なければおまえは死ぬだろう、人と獣の間の子どもよ」

 神であるアロガーレンの足を掴み、見上げる子どもは肝が据わっているのか恐れを知らぬのか分からない。草原に生える草木よりも鮮やかな色の目は、アロガーレンを縋るように見つめていた。

「おまえが死なぬ速さでは、風を運べぬ。風を齎すことが俺の仕事なのだ」

 子どもはどこか必死な様子で目を彷徨わせていた。行先を答えぬ子どもに、アロガーレンは適当な街へ落としていこうかと考え始めたその時、子どもは再び顔を上げてアロガーレンを見た。

「……どこにも、いかない。おれはここでいい、です。だけど、かみさま……また、あいにきてくれますか」

 アロガーレンの足を握る小さな手は、存外力強い。ただし、アロガーレンからすれば少し足を揺すれば離れる程度の力だった。

「……もしここを駆けることあれば、立ち寄ろう」

 無視することもできたが、そう返してしまったのは、きっと縋り付く緑の目を見てしまったからだった。
 ああ、確かに信仰では腹が膨れない。だが、こうして無垢な瞳で縋られるのも悪い気はしないのだ。
 程度の差はあれど、神は概ね純粋で綺麗なものを好む。アロガーレンも同じだった。


* * *


「神様!」

 びゅうびゅう、ごうごうと吹く風を緩やかなものにして、アロガーレンがそこへ降り立ったと同時に、狼の耳の少年は嬉しそうに駆け寄って来た。
 初めて訪れた時には壊滅状態だった村は、血腥さも焦げ臭さもなく、多くはないが居住者がいるようだった。
 獣の耳と尻尾を持つ子どもはどうやら獣人と呼ばれているらしい。それを教えてくれたのは、海の神が傍に置く人間だった。もう死んでいるのに冥府にて輪廻へと加わらず、海の神の元に留まる奇特な人間だ。
 海を駆け巡る際に数度大津波を起こしてしまい、海の神が文句を言いに顔を出した際に、その人間はついてきていた。獣の耳と尻尾を持った子どもは、その人間と姿かたちは似ていたので、尋ねてみたのだ。
 そうして分かったのが、子どもは獣人と呼ばれる種族だということ。
 そして、人間の中には獣人を劣った生き物として見ている者が少なくないということだった。
 昔、人間の為に戦い、その人間に幾度も裏切られた人間の勇者は、悲しそうな顔で語っていた。

「来てくれたんだ……!俺、ずっと待ってたんです、神様」

 緩やかにしたとは言え、アロガーレンの周囲にはまだ風が吹いている。神や服が風に靡くのも気にせず、獣人の少年はアロガーレンの側に立つ。
 そんな彼らから少しだけ距離を取るようにして、獣人が複数人、大地に膝をつき見守っていた。中には、両手を握りしめ、額に当てている者もいる。神様だ、と誰かの囁き声がした。

「この辺りを駆けることがあれば立ち寄ると言ったはずだ」

 そう言うと、少年は少し逡巡した後、おそるおそる口を開いた。

「……次も、来てくれますか」
「この辺りを駆けることがあれば」

 少年の尾が、嬉しそうに揺れた。


* * *


「神様!」

 風を穏やかなものにしたアロガーレンは、そこへ降り立とうとしてほんの一瞬、迷った。だが、青年の声を聴き、此処で間違いないのだと悟る。
 以前に訪れた際には、復興し始めた村であったのに、そこは今や数百人ほどの獣人が住まう街となっていた。
 そんな街の入り口に降り立った瞬間、駆け寄ってきたのは灰色の狼の耳と尻尾を持つ獣人の青年だった。
 大きなアロガーレンから見ると小さいことに変わりないが、しかし、あの小さな子どもがこれほど大きくなるとは、とアロガーレンは不思議な気持ちだった。
 生まれた瞬間からこの姿だったアロガーレンからすると、神ではない生き物の“成長”は新鮮だった。

 そこかしこで膝まづきぼうっとアロガーレンを見つめる獣人たちの中でも大柄な身体を持つこの青年は、今やどうやらこの群れの“長”のようだ。

 アロガーレンほどではないが、低い男の声で青年はアロガーレンに話しかけた。

「お久しぶりです、神様……アロガーレン様」

 やはり周囲の風は気にならないのか、アロガーレンの側に立った青年はうっとりとアロガーレンを見上げていた。ふさふさの灰色の尻尾はゆらゆらと揺れ、耳はピンと立ってアロガーレンの方を向いている。

「俺の名を知ったのか」
「風の神、アロガーレン。太陽神の息子、雄々しく美しく、気高い獣の王」

 歌うように告げた青年は、アロガーレンの足にそっと身を寄せると、豊かな毛並みの尻尾をそっと巻き付かせてきた。

「アロガーレン様」

 アロガーレンが、神以外と言葉を交わすことは殆ど無い。その為、こうして敬称を付けられ崇められることに慣れていなかった。

「畏まる必要はない」

 そう告げると、青年はぽかんとした後、少し逡巡し、口を開いた。

「……では、アロ様、と呼んでも?」

 所謂愛称、というものだろうが、敬称はつけるらしい。

「構わぬ」
「俺のことは、レギオン、と」
「レギオン」
「っ、はい……!」

 新緑の目を潤ませ、すりすりと足へ擦り寄るレギオンを見下ろしたあと、アロガーレンはそろそろ仕事に戻るべく顔を上げた。
 それをレギオンも悟ったのだろう、眉根を下げると、数度言いよどんだ様子を見せながら言った。

「アロ様……次も、来てくれますか?」
「この辺りを駆けることがあれば」

 青年の尻尾が微かに揺れた。


* * *


「アロガーレン」

 大海原の上を走っていた時のことだ。アロガーレンは、声をかけられすぐに反応することができなかった。
 咎める、とまでは行かずとも、些か呆れの乗った声は、走るアロガーレンのすぐそばから聞こえた。
 それもそうだ、アロガーレンが走っているのは彼の体の上なのだから。

 アロガーレンが駆ける足を緩めると、突風に煽られていた波が抵抗を失って大きく揺れた。
 ざばり、と顔を出したのは海の神だった。青い髪を揺らめかせた男は、アロガーレンを半眼で見つめていた。

「何用だ」
「………」

 普段の快活さを潜ませて、じとりとアロガーレンを見る海の神だったが、しばらくすると溜め息をついてその身体を海から完全に出した。

「流石にそろそろ言わせてもらうけどな、わりと迷惑してるんだぞ」

 そう言って、海の神は岸の方を指差した。つられて見れば高波が岸へと押し寄せていくのが見えた。

「ここ最近、目に見えて津波が多い。特にこの辺りでな。おまえがここらに特に激しい風を持ってくるからだ」

 そう言われて、アロガーレンはたじろいだ。海の神に言われたことに、自覚はあったからだ。

 アロガーレンが運ぶ風の強さは、アロガーレンの走る速さに比例する。
 力強く足を蹴り駆け抜ける際には突風が巻き起こり、緩やかに舞うように走れば穏やかな風がざあざあと吹くのだ。
 だから、さまざまな神からもう少しゆっくり走れ、だとか、むしろ数日に1回は休め、と言われることが多い。言ってくる神は、大体がアロガーレンの突風の被害者だった。

「津波の場所をもっとばらけさせるのなら俺も文句は言わないさ。だが、あまりにここは多すぎる」

 いつもは聞き流す小言だ。普段、アロガーレンが走る速さは気紛れでしかない。その日の気分で早くも遅くも走るのだ。それが平等であるとアロガーレンは思っている。
 ただここ最近は、海の神の言う通り、この辺りではついつい、速く走ってしまっていた。
 それは気持ちが急いているからに他ならない。

 この海を越えたらあの場所に出るのだと思うと、アロガーレンの足はぐんぐんと速くなるのを止められなかった。

「………」

 言い訳すら出て来ず黙り込むと、海の神は苦笑して、アロガーレンの毛並みを撫でた。

「小言が3割、お節介が7割ってとこなんだが。仕事もサボらず、律儀に世界に風を運んでるところは凄いと思うけど、たまには休め」
「……しかし」
「おまえと同じく律儀な夜の神だって、たまに休んでる。そもそも、他の神なんてサボり魔ばっかだ。おまえが休んでも誰も文句は言わないさ。むしろ、休んでくれ!って思ってる奴の方が多いかもな。だから、なあ」

 海の神は、朗らかに笑って言う。

「休んで良いんだ。せっかく会いに行くんだ、すぐに仕事に戻らなくても良いじゃないか。急いで会いに行くくらいなら、そのまま暫くそいつのところに留まれば良い。おまえが7日走り続ければ、10日は風が吹く。20日走り続ければ、30日は風が吹く。風が止まる直前に走り出せば、風は問題なく世界を循環するだろうよ」

 その海の神の言葉は、アロガーレンにとって思いもよらないものだった。今まで一度だって考えたことのないことだった。
 そして、もし以前のアロガーレンであれば、何を馬鹿なと否定し聞き流した提案だった。
 しかし困ったことに、今や、その提案を聞かなかったことにはできそうになかった。今のアロガーレンにとって、海の神の提案は酷く心が惹かれるものだったのだ。

「……ううむ」

 とはいえ、これまで休むことなく風を運び続けてきたアロガーレンにとって、そう簡単に受け入れられるようなことでもない。
 どこか途方に暮れたように唸る風の神に、いつの間にか海の神の隣に立ちその腰を抱いていた元人間の勇者が、ニッと笑う。

「悩む前に、一度その子に会ってみたら良いんじゃねぇか?そしたら、自分がどうしたいか、答えは出てくるかもしれないぜ」

 それもそうか、とアロガーレンは頷いた。今こうして立ち止まっていても、仕方がない。
 アロガーレンが再び走り出そうとしているのに気付いたのだろう、海の神が言う。

「アロガーレン。俺が言うのも何だが、半永久的に在る俺たちの時間の感覚は、俺たち神の間でしか通用しないぞ」

 一鳴きすると、アロガーレンは再び大海原を足で蹴った。
 すぐに仕事に戻らなくても良い。そう考えるだけで、急いていた足は多少緩まった。
 今日はこの辺りで大津波が起きることも無いだろう。



「アロ様」

 アロガーレンが緩やかに降り立ったそこは、立派な王城の庭だった。
 降り立った瞬間に、庭へと小走りでやって来たレギオンは、以前よりも落ち着いた声音でアロガーレンを呼んだ。
 重たそうなマントを羽織り、頭には王冠を乗せた獣人は、今や獣人が住まう国の頂点に立っているようだ。
 つい先日まで、人間に蹂躙され弱っていたというのに、人間同様獣人もまた目まぐるしく変わる生き物らしい。

「レギオン」

 呼べば、レギオンはアロガーレンの側に寄って来て、前足にそっと触れた。

「お久しぶりです」
「うむ」
「また来てくださって、有難うございます」
「……近くを通る時があれば寄ると、言ったはずだ」

 レギオンはほっとしたように笑った。
 それを見て、なるほど、とアロガーレンはようやく気付いた。

 きっと、レギオンはアロガーレンの言葉を、心の底から信じてはいなかったのだろう。

「……以前に俺がここへ来たのは、いつだった」
「10年前です」

 すぐに答えが返って来たのは、毎日きちんと数えていたからに違いない。
 アロガーレンにとって10年などあっという間だ。しかし、この獣人にとってはどうだったのだろう。

「長かったか」

 アロガーレンの問いに、レギオンは一瞬言葉を詰まらせた。それから、目を伏せた後、小さく頷いた。
 アロガーレンはゆっくりとその場に腰を下ろした。唖然とするレギオンと視線の高さが近くなる。
 他の獣人よりも立派な体格のレギオンだからこその、視線の近さだろう。

「……アロ様?」
「休めと言われたのでな。少し、ここで休むことにする」
「はっ、……はい、はい……!」
「何処へ行く」

 こくこくと頷いたレギオンが、慌てて後ろに下がったので声をかければ、レギオンは困惑したように首を傾げた。狼の耳はへなりと垂れて、ふさふさの尾は力なく揺れている。

「俺、いや、私どもがいてはお休みできないでしょう。人払いをさせますので、アロ様はどうかゆっくりと寛いでください」
「人払いは構わんが、おまえはここにいろ」
「……え?」

 何故、と言わんばかりの顔をするレギオンに、アロガーレンは呆れたように溜め息をついて言った。

「おまえがいなくては、俺がかここに来た意味が無いではないか。俺がここに来る理由はおまえしか無いのだから」

 ひゅ、とレギオンが息をのむ。
 それまで固唾をのんで見守っていた周囲の獣人が、ざわりとざわついた。

 暫く固まっていたレギオンだったが、ぎくしゃくと固い動きでアロガーレンの足元にそっと腰を下ろした。周囲の獣人は、アロガーレンに向かって祈りを捧げるように、否、実際祈りをささげる仕草をしてからその場から姿を消した。

 アロガーレンは、寄り添うように腰を下ろしたレギオンを見下ろし、問いかける。

「俺にとって10年は短いが、おまえにとっては長かったようだな」
「はい……俺、いや、私たちの寿命は、150年ほどなので」
「短いな」

 あとこの獣人は何年生きるのだろうと、アロガーレンは考えた。
 きっとアロガーレンにとって瞬きの間に死ぬのだろうと思うと、アロガーレンは、頭上の夜空に向かって無性に吠えたくなった。


 それから3日そこに留まったアロガーレンは、再び走り出すべく体を起こした。
 3日間、ずっとアロガーレンに寄り添っていたレギオンはアロガーレンに問う。

「アロ様、次は、いつ来てくれますか?」
「……1年後だ」

 ゆらり、と獣の王の尻尾が揺れた。


* * *


「アロガーレン」

 太陽神の声を聴いたアロガーレンは顔を上げた。
 シャリアータは、己の息子を面白そうに見降ろした。

「おまえもついに神になったか」
「俺は生まれた時から神だ」
「そうではない。そうではないのだ、息子よ」

 シャリアータは明るく笑って、それから握りしめていた何かをアロガーレンの鼻先に突きつけた。
 それはどうやら紙のようだ。
 それは太陽の色を淡くした獣と、その前で膝まづく獣人が描かれていた。獣人の頭には王冠が乗っている。

 アロガーレンがしげしげとそれを見ていると、シャリアータはくつくつと笑いながら言った。

「これはな、宗教画というものだ。おまえは、獣人の神となったのだ、アロガーレン」

 そう言われても、ピンとこない。首を傾げるアロガーレンに、シャリアータはにやにやと笑みを浮かべたまま続けた。

「アロガーレン。存外、人間同様、獣人も考えることが面白いぞ。ついつい、私もアロガーレンの親として降り立ってしまった。ははは、なに、可愛い息子に私も贈り物がしたくなってなあ。きっと気に入る」

 要領の得ない話を一方的に捲し立てると、シャリアータは身を翻した。そろそろ昼間を齎さねばならぬ時間になったのだろう。
 結局彼女が何を言いたかったのか皆目見当もつかなかったアロガーレンは、元々さほど気にするような質ではないので、再び走り出した。
 そろそろ、約束の1年が来ようとしている。


* * *


 軽やかに国の上空を駆けていたアロガーレンは、目的地である城を真下にして違和感を感じた。
 1年前と同様、その場所に変化は殆ど無い。しかし、何やら騒がしい。
 首を捻りながらも、1年前に降り立った城の庭へと向かおうとしたが、ここへ訪れた本当の目的が視界に入って方向転換した。

 王城のバルコニーに立つ、ひとりの獣人。堂々とそこに立つ男を、城下で獣人たちが見上げている。

 もしアロガーレンが人であったのなら。もしく、獣人、いや。神でなければ、躊躇する、という感情を持ちえただろう。しかし、アロガーレンは神だった。
 常識と言うものをもたないのが神だ。

 アロガーレンは、何の躊躇いもなく、1年前と同様に軽やかに宙を蹴り、獣人の王の目の前に現れた。

 強風とまでは行かないが、びゅう、と不自然な風と共に現れた神の姿に、獣人たちはざわめき、感嘆し、膝をつき、祈りをささげた。
 母であり、父である太陽の光に照らされた巨躯の獣は、彼らにとって至高の神に他ならなかった。

 獣人の王は、目の前に悠然と現れたアロガーレンを嬉しそうに笑って見上げた。アロガーレンは、レギオンを見下ろし疑問を口にした。

「レギオン。その恰好は何だ」

 レギオンはゆったりとした白い衣服を纏っていた。アロガーレンによく似た色の糸で、幾何学的な装飾のなされたそれは、アロガーレンが好む美しい装いであった。
 頭には、以前見た王冠ではなく、赤と青の花冠が乗っている。
 目元には赤色の模様が描かれており、それもまた、アロガーレンの好むものだ。

「アロ様……」

 低く美しい声が、アロガーレンを呼ぶ。その声が、アロガーレンは嫌いではない。
 レギオンは、僅かに頬を染めながら微笑んだ。

「……本日より、私は貴方様の花嫁となりました」

 アロガーレンは不思議でならなかった。経緯がさっぱり分からない。
 だが、アロガーレンは神だった。いくら神の中では真面目だと言われようが、感性も価値観も神でしかない。つまりは、この状況を不思議に思いはしても、あっさりと受け入れたのだった。
 神は美しいものを好む。アロガーレンも例外ではなく、美しく好ましいものが自らを差し出すと言うのであれば、受け取ることにした。

「うむ。そうか。なれば、おまえは今日から俺の嫁だ」

 その言葉に、レギオンはぱっと顔を輝かせた。



 城の中庭に腰を落ち着けたアロガーレンは、寄り添うように座ったレギオンに問いかけた。

「レギオン。シャリアータに何を言われた?」

 はっと息をのむレギオンに、アロガーレンはやはりそうかと、自分の予想が当たっていたことを察した。
 じっと見つめてくるアロガーレンに、レギオンは少し躊躇した後、おずおずと語り出した。

「……1年前、アロ様が去った少し後に、我々は貴方を我々の神として信仰することに決めた。そして、俺、私が神官の長を務めることとなったのですが」
「そう畏まらずとも良い」

 以前に比べればその丁寧語は流暢になってはいるが、それでもたどたどしさが言葉の随所に現れていた。アロガーレンとしては、話しにくかろうと思いそう言ったのだが、レギオンは「しかし」と戸惑い気味に口ごもった。

「おまえが話しやすいように話すが良い」
「……良い、のか?」
「構わぬ」

 ゆったりと頷けば、レギオンは緊張したように顎を引いたが、小さく頷いた。

「話を続けろ」
「分かった。……アロ様が来る今日、アロ様を我が獣人国の国教の主神することを公式に発表しようと、半年前に決めたんだ。それから、いろいろと段取りをつけていたんだが……3か月前、シャリアータ様が降臨されて……その、問われたんだ」

―――大神官という地位につくということは、今まで信仰されたこともないアロガーレンの、一番近しいものになるということ。それはある意味、アロガーレンの、神の嫁になると同義。国の長たるおまえに、それが務まるのか。

 輝かしき光を帯びた太陽神は、獣人国の王にそう問いかけたと言う。

「俺はそれを聞いたとき、絶対に、大神官の座を他の者にやるものかと思った。アロ様の側に立つ地位の為ならば、王の座など他の者にくれてやっても良いとも。……喜ばしいことに、国民は王は俺しかいないと言い、そして貴方の側に立つべきなのも俺であると、言ってくれた」

 幸せそうに笑みを浮かべるレギオンを見下ろし、アロガーレンは不可解な気持ちでいっぱいだった。
 シャリアータの意図が皆目見当がつかないからだ。
 太陽神の気紛れは今に始まったことではないが、その気紛れのどれもが、何かしらの意図がある。目的がある。彼女はいったい、獣人に、レギオンに何がさせたかったのだろうか。

「……そうか」
「貴方は、俺が嫁では不満か?俺はこんななりだしな」

 アロガーレンの反応に何を思ったのか、レギオンは先程の幸せそうな笑みから一転、どこか自嘲気味に口元を歪めた。

「こんななり、という意味は分からんが、特に不満は無い。俺にとって、おまえの姿かたちも声も好ましいものだ。おまえたち獣人は、好ましくないものの顔を何度も見に来るのか」

 そうであるのなら、獣人の思考は奇怪だ、とアロガーレンは眉間にしわを寄せた。
 好ましく無いものをわざわざ見に来る理由など、いったいどんな理由があるのか、アロガーレンには分からなかった。
 アロガーレンに尋ねられたレギオンは、ぽかん、と間の抜けた顔を晒した。それから、じわじわと顔を赤らめるものだから、その様が妙に面白くて、アロガーレンはしげしげとレギオンを見つめていた。

「っ、あ、その……俺も、わざわざ好きじゃないものを見に行かないが……アロ様は俺のことを、好ましいと?」
「先程からそう言っている」

 レギオンの狼の耳が、忙しなく動く。レギオンは自分の顔を両手に埋めたが、その尻尾はぶんぶんと元気に左右に振られていた。
 暫くしてそっと両手から顔をのぞかせたレギオンは、再びぴとりとアロガーレンの身体に擦り寄って来た。

「……俺も、好きだ。ずっと前から、あの時から、貴方しか見てない。貴方だけだ、俺の神様。夢みたいだ、俺が、神様の嫁だなんて」

 そううっとりと囁くように呟いたレギオンに、胸奥でなにかが燃え盛る様に揺れた気がして、アロガーレンはその初めての感覚に一瞬動きを止めた。
 好き、と再び言われて、アロガーレンはますます落ち着かない気分になった。
 そして、なるほど、と思う。
 『信仰なぞ腹の足しにはならんが、気分は良いものだ』と太陽神は言っていた。確かに腹の足しにはならないが、気分は良い。なるほど、なるほど。うむ、と頷く、が、ただ、少しばかり、何かが違うような気もした。
 気分は良い。ただ、それだけではない。その思いを受け取るだけでなく、この巨躯の神に擦り寄る花嫁が何を望んでいるのかが無性に気になった。
 だから、アロガーレンは問いかける。

「レギオン。おまえは何を望む?」
「え?」
「俺は嫁など持ったことが無い。だから、如何すれば良いのか、俺には分からん。だが、おまえの望みは叶えるべきなのだろう。否、叶えてやりたい、のか?」

 疑問となってしまうのは、自分の感情がいまいち掴めないからだ。
 こんなことなら、自分も他の神を見習ってもう少し、色恋沙汰に首を突っ込むべきだったかと思った。レギオンを嫁とする前に、他に嫁がいれば、こういう時何をすべきか分かったかもしれない。
 そんなことを考えながら、アロガーレンは言葉を続けた。

「おまえは王だからな。国の発展か?土地の恵みか?何を欲する?」
「……俺は王だから、それは俺がやり遂げるべきことで、アロ様に頼るべきことじゃない」
「では、俺は何をすれば良いのだ?俺ができることなど、風にまつわることだけだ。それだけだが、しかし、使いようによっては何でもできる」
「……アロ様が側にいてくれれば、それだけで良い」
「それは出来ん……が、そうだな」

 咄嗟に否定すれば、レギオンは眉を下げた。耳もしょんぼりと垂れて、尻尾も力なく地面に落ちるものだから、アロガーレンは顔を上げて、ぐるぐると唸った。
 そんな顔をさせたかったわけではないのだ。
 む、と眉間にしわを寄せたまま晴天を見上げ、思い出す。海の神の言葉を。

「……3日」
「3日?」
「7日走れば、10日は風が吹く。10日の内、3日であれば、おまえのもとへ留まれる。……それ以外、俺に思いつくことが無い」

 そう言ってレギオンの顔を覗き込めば、レギオンは数秒固まった後、「良い!」と声を大きく上げた。

「10日に、3日、3日も!本当に、良いのか?」
「構わんだろう」

 頷いた途端に、レギオンはアロガーレンに飛びついた。もふり、とアロガーレンの毛皮に埋もれたレギオンは、身体全体をアロガーレンに擦り付けてきた。まるで全身で喜びを表現しているようで、その愛らしい仕草にアロガーレンの眉間からもしわが取れる。

「それでは、これから3日はおまえのもとに。4日後には仕事へ戻るが、その7日後には、おまえの元へ再び訪れよう」
「訪れるのではなく、帰って来てくれ」
「何が違う?」
「俺が、貴方の帰る場所であってほしい。行くべき場所ではなく、戻るべき場所として」

 正直に言って、アロガーレンにはその違いは分からない。
 しかし、どうやらレギオンにとってはその違いに意味があるようだ。

「良いだろう。それでは、10日に3日は、おまえの元へ帰るとする」

 その言葉に笑うレギオンを見て、アロガーレンはいつか己も、この違いが分かる日が来ると良いと思った。


* * *


「やあ、私の花嫁」

 とある国の、とある場所。美しき神殿の奥で、美しい人間がこくりと酒を一口飲んだ時、その神は現れた。
 人間は、その神が現れたことにさして驚く様子もなく、ただ、少し困ったように微笑んだ。

「シャリアータ様。今度は何をされたのですか?」
「ふん?私は特に何もしていないさ。ただ、可愛い息子に嫁が出来たら良いと思っただけだ」
「本当の目的があったのでしょう?」

 太陽の神は、にやり、と笑う。

「あれは働き過ぎでな。他の神もいい加減五月蠅くなってきたから、なに、休める口実をあれに与えてやったまで。まさか、10日の内3日も休日にするとは思わなかったが!生真面目なあれの事だから、年に数日と思ったが、どうやら私が思っていた以上に、あれは獣人を気に入ったようだ。やはり嫁を持つのは良いことだ」

 くすくすと笑って、シャリアータは己の信仰者であり花嫁でもある人間の長い髪をそっと掴み、そのまま耳にかけてやる。
 それから、己の輝きをたっぷり吸った一輪の花をどこからか取り出すと、その耳元の髪にそっと差し入れた。

「今日も美しいぞ、私の花嫁」
「……いったい、貴方様は何人にそう言っているのかしら」

 シャリアータは微笑んだ。

「人間はおまえだけさ」

 世界で一番信者が多い太陽神の言葉に、人間はひっそりと溜め息をついた。
 神と人では感性が全く違うと分かってはいるが、その中でも、自分の信仰するこの美しく、雄々しく、凛々しく、尊き太陽はその神の中でも別格なのだ。


END.


アロガーレン:風の神様。太陽神の吹いた息から生まれた息子。大きな狼型の獣の姿をしており、その身には風を纏っている。
仕事は世界中に風を運ぶこと。ワーカーホリック気味で休むことを知らなかったため、他の神様からはたまには休めと文句を言われることも少なくない。
今は獣人の嫁ができたので休むようになった。
ちなみに、7日走って3日嫁の所で休むアロガーレンに習って、獣人の国では7日働き3日休むのが主流。

レギオン:獣人の国の初代王であり、初代大神官。彼を筆頭に獣人はアロガーレンを自分たちの神として信仰している。ちゃっかりアロガーレンの嫁ポジションを獲得した。
後世では獣人国初代王と初代大神官は別人だと伝わっており、「レギオンは初代王、大神官は不明だが女性(神の嫁だから)」とされている。ただし、歴史研究家の中には初代王=大神官だという説を唱える者もいるが少数派。