花火よりキス



ガヤガヤと楽しそうな声が行き交う河川敷。今日は近所の花火大会で、花火が打ち上げられる時間まであと少し。

彼氏と初めての花火デートだった。今日のために買った浴衣に、珍しく髪もアレンジしちゃってそれを見た彼は似合ってます、って少し顔を赤くしながら言うものだから少し浮かれていたのかもしれない。彼と歩いている途中にたこ焼き屋を見つけた。花火を見ながら食べようと思って赤葦に声を掛けようとすると既に彼の姿は人混みで見えなくなっていた。


「どうしよう、、」


連絡すれば彼はきっとすぐ見つけてくれるだろうけど、肝心な携帯は充電切れ。着付けやヘアアレンジに夢中で充電するのを忘れてしまったことを今になって後悔する。花火が始まるまであと少ししかないのに、となんだか泣きそうになる。


「お!名前じゃん!」

「あれ?1人?赤葦は?」


後ろから声をかけられて振り返ると木兎と木葉が手を振っていた。ホッとして駆け寄り、赤葦とはぐれたのと言うと迷子か!と頭をポンポンとしながら笑う木兎。まさか木兎に子供扱いされる日が来るなんて。


「苗字さん!」


ふいにグイッと腕を引っ張られて、私はその声の持ち主の胸の中におさまった。


「赤葦?」

「っ、探しましたよ」

「ごめん!私たこ焼き買おうか迷ってたら赤葦見失っちゃって、、」

「俺の方こそごめんなさい、怖い思いさせてしまって」

「赤葦も部活以外でこんな必死になるんだなあ」

「そりゃ大事な彼女探すためなら必死にもなりますよ」


え、今さらっと嬉しいこと言われた気がする。顔が火照っていくのが分かる。


「あかーしかっこいーな!」

「はい。だから木兎さん気軽に俺の彼女に触らないでくださいね」


苗字さんのこと見つけてくれてありがとうございました、と木兎たちに頭を下げてから私の手をとり歩き出す。赤葦のこういう所好きだな、と改めて思う。


「よかったです、花火が始まる前に見つけられて」

「ほんとよかった。あ、汗、、」

「あぁ、走りましたからね」

「ありがとう、見つけてくれて」


持っていたハンカチで汗をふきながらお礼をいう。その瞬間、ドーンッという音とともに花火が打ち上げられた。


「わ、始まったね」

「名前さん」


花火を見ているとコツンと彼が私の肩に寄りかかった。そちらに顔を向けると彼の目線はとても熱くドキドキと胸が高鳴り花火の音はもう既に聴こえなくなる。整った彼の顔が近付いてきて目を閉じた。チュ、と彼の唇の感触がとても心地よい。


「赤葦だいすき」

「京治って呼んでくれないんですか?」

「え、」

「そろそろ名前で呼んでほしいんですけど」


だめですか?と彼が可愛い顔をして聞くものだから、ダメなんて言えるわけがない。


「け、けいじっ、、」


その瞬間またキスされて、好きです名前さんと笑う彼。初めての彼氏との花火大会デート。結局ドキドキしっぱなしで花火をしっかり見られなかったけどすごく幸せだったから、また来年も一緒にいこうね。


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「来年もまた一緒に来ましょうね」

「私も!同じこと考えてた!」


花火よりキス