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 いずみ屋編終幕:別れと希望


無事に話がついて、雨京さんはかぐら屋へと帰ることになった。
私と中岡さんは、門のところまで見送りに出る。


「雨京さん、今までお世話になりました。本当に感謝しています」

「落ち着いた頃にまた、かぐら屋まで顔を見せに来なさい」

「はい!それで、心配なのはかすみさんのことなんですが……」

むた兄やゆきちゃんには、今日から毎日お見舞いに行くと言ってある。
約束をやぶることになれば、きっとまた彼らのことを不安な気持ちにさせてしまうだろう。

「しばらくは、ここで大人しく過ごしなさい。山村さんにもそのあたりのことは伝えておく。かすみが目を覚ました時は、必ず報せをよこすので心配するな」

「……分かりました。その時がきたら、絶対にお見舞いに行きます!」

「ああ。それではな、陸援隊のみなさんにご迷惑をおかけせぬよう、気をつけて生活するのだぞ」

「はい!いい子にしてます!」

大きくうなずいてみせる私の背にそっと手を置き、雨京さんは中岡さんへと語りかけた。


「中岡殿、妹をよろしく頼みます」

「お任せください。私たちが責任を持ってお守りします」

「……それでは、これにて。また後日、螢静堂を経由して文をお送り致します」

「こちらからも逐一ご報告の文を出しましょう。それでは、道中お気をつけて」


最後に向かい合って互いに一礼すると、雨京さんは待たせていた用心棒たちを連れて帰路につく。


(雨京さん。私のこと妹だって言ってくれた……)

わがままを言って困らせてばかりいた、こんな私を。
雨京さんは見捨てることも突き放すこともなく、いつでも気にかけて守ってくれた。
わざわざここまで、話を通しに来てくれた。
かぐら屋の主人という立場上、気軽に足を運べるような場所じゃないはずなのに。

ごめんなさいって、謝りたいことばかりが浮かんでくる。

けれど……今はまっすぐに、ただ感謝の言葉だけを伝えよう。



「雨京さぁん!!本当にありがとうございました!!お世話になったこと、忘れません!!」

こちらを振り返ることなく小さくなっていくその後ろ姿に向かって、声を張り上げる。


――ああ、これで雨京さんや神楽木家ともお別れだ。
当分あの家に帰ることはできない。
そう思うと、言い知れない寂しさや心細さが襲ってくる。

新しい場所で、一からがんばらなきゃ。
雨京さんに心配をかけないように、早くここでの生活に馴染むんだ――。

感傷を塗りつぶすようにして、小さな希望を描きながら。
私は彼の背中が見えなくなるまで、門のそばに立って見送った。



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