幸佐だけど政宗と幸村の話



「もしまだサンタが願うものをくれたなら、俺は霊感がほしいのだ」
朝晩が寒くなってきた秋の口。それでも日が落ちるまでは少し汗ばむ。
学校近くの歩行者天国で買ったクレープをかじりながら唐突、幸村が言った。
「霊感?んなもん頼んでもサンタには準備できねーよ」
アイスコーヒーを片手に持った政宗は、移行したばかりの合服の袖でこめかみから流れた汗を拭った。
時刻は午後4時を少し過ぎた頃。授業も終わった放課後。
部活は、少し前に引退した。

「それもそうだな」
「なんでまた霊感なんてほしいんだ」
「いや、少し…夢に出てくる者に会うてみたいと思って」
「はあ?夢?」

聞くと最近、断片的に同じ夢を見ることがあるらしい。
幸村はいつも山中でその人間と一緒にいるが、二人ともひどい怪我をしていて、そしていつもその人間が先に死んでしまうそうだ。
そしてその人間の死を嘆いている時に、幸村も敵に見つかり、殺されそうになって目が覚める…ということであった。
「何度も同じものを、中身も違わずに見るために前世の記憶かもしれぬと思うた。もし霊感があれば、それを思い出す手掛かりを見つけれるかもしれないし、あるいはその者に会えるやもと思うたのだ」
「I see.だがもしそうなら、ずいぶん殺伐とした前世だな」
「ああ。もしかしたら戦国の乱戦のような世であったのかもしれぬ。俺は槍を持っていたことがあったし、俺を殺そうとする敵は、いつも刀を持っていた」
「へえ、戦国ねえ」

(そういやここにも戦国の城があるよな。城主は誰だったか)
そう思った政宗の視線の先には城山があって、城山のてっぺんには数年前に改修工事をされてきれいになった天守閣がそびえたっている。
二人が歩いているのは城山のふもとに広がる緑地公園。
中には市営の図書館もあって、広い自習室は、受験を控えた政宗たちのもっぱらの勉強場所になっている。
「まあ守護霊や死んだ昔馴染みに会いたいってのは分からなくもないが、見たいものだけ見えるなんてこたねーから、霊感をもつのはno recommendだな。他をあたった方がいい」
「そうか。政宗殿がいうのならそうなのだろうな」

その時、少し強い風が吹いた。幸村は立ち止まり、後ろを振り返って風が吹き抜けて行った先を見つめた。
どんなことも因果と捉えることで、その先にある見えない何かを捜そう見ようとしているようだった。
政宗はそんな幸村を一瞥、そしてその少し上、風に幸村の髪がそよぐ以外何もないところをじっと穿つように見てから、持っていたアイスコーヒーの残りを飲み干した。

「まあお前がときどき俺の話を聞いてくれるってんなら、お前の前世探しに協力してやらなくもないぜ」
「御免被る。そなたの見えたものの話を聞くと夜寝れなくなる故」
「ha!おばけが怖いあんたには霊感なくて正解だったと思うぜ」

ほら早く図書館行くぞ。席がなくなる。
笑いながら政宗はそう言って歩き出した。
幸村もクレープを食べきったようで、空いた両手を振って後を追う。
そしてさらにその後を追うように幸村の少し後ろを付いてくるのは、この場では政宗だけに見える黒い半透明。

半透明の存在に政宗が気付いたのは最近。初めは遠巻きだったのが、ここ数日は幸村の周りをぴったりつきまとうようになっていた。
害悪の類いかと様子を見ていたが杞憂だったようだ。幸村が夢の話をしていた間だけ影が濃くなって実体を見せていたから、そういうことなのだろう。

(まったく来世のこいつを見つけてついてきちまうとは、こいつもとんでもなくcrazyな奴に執心されてたんだな)
(まあ幸村が前世で信頼して大切にしていたような奴だとしても、俺はこいつは好きになれなさそうだ。)

政宗は、半透明が実体化していた時に自身に一瞬向けられた敵意を思い返しながら、橙に染まり始めた空を見上げた。

緑地公園にあるクスノキから鴉が一羽、その空に向かって飛んでいった。








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