コイヲスル



「輝二の髪、綺麗よね」
 話すキッカケなんて、そんなもんだった気がする。
 水浴びを終え、びしょ濡れの髪の毛を乾かそうと周りのヤツらから離れて木の
陰に隠れていたら、見つかった。
 できればこの髪の話に触れて欲しくはないのだが(話をするのが面倒だから)
、話されてしまえばおしまいだ。
「それがどうした」
 だから、向こうが諦めるまで話をするしかなかった。……うんと冷たく接して
やることにする。
「いつも思ってたのよ、綺麗だなぁって」
「あっそう」
「……」
「……」
 会話終了。
 待っていた事態に俺は喜び、あとは泉が俺の傍から離れるのを待つだけだと思
っていた。
 世話焼きというかなんというか、放っておけないから話しかけているんだろう
けど、俺にとっては迷惑この上ないと思っていた。
 ……心の奥底にいる、声をかけられて嬉しい自分を押し殺して。
「ずっと伸ばしてるの?」
 だが、泉は負けじと何か話題を探して俺にそれをぶつけた。
「あぁ、それがどうした」
「うーん……なんでそんな冷たいかなぁ……」
 溜息混じりにそう言われても、俺としては困るわけで……。
「じゃあ何だ? 俺が笑顔で楽しそうに接すればいいってことか?」
 言ってるだけでも気持ち悪いシチュエーションだ。
「うわっ、それ気持ち悪い」
 失礼だが、それが正しい反応だ。
 俺ははぁっと大きく溜息をつくと、髪を一つに結え、泉から離れようと思った

 ここにいても俺としては迷惑だと思ったから。
 ……泉と一緒にいると、調子が狂う。

「待って」

 すると、泉が俺の腕を掴み、引き止めた。
 何故引き止められたのかは分からない。
 だが、その行為に対して嬉しいと思う自分がいた。
 ……もっと泉の傍にいたいってことか?
 俺としてはありえない考えだ。
「なんだ?」
 だから俺は、冷たく接することで自分を保とうと思った。
「もう少し、話さない?」
 苦笑しながらそんなことを口にし、俺の傍に座り込む。
 それだけでも可愛らしくて、俺は思わずドキッとする羽目になった。
 何で俺とそんなに話したがるんだ?
 どうして俺なんだ?
 言いたいことは山ほどあるのに、喉まででかかった言葉を全部飲み込んでしま
う。
「……勝手にしろ」
 溜息交じりでそう言うと、俺はその場に座り込むことにした。
 泉と話すのに、泉が座ってて俺が立ってるんじゃ、少し不自由だと思ったから
……。

「よかった」

 ほっとしたように、泉が言う。
 その意味を俺は知る由もなく、ただ泉の言葉に耳を傾けることしかできなかっ
た。

「あのね、ずっと仲良くしたいなって思ってたの」
 泉が、意外な言葉を口にする。
 あんなにも冷たく接してきたというのに、どうしてそう思うことができるんだ
ろうか?
 俺には理解不能でしかない。
「たまに助けてくれたり、上着貸してくれたりさ、優しいとこ多くって。そりゃ
、冷たくて寂しく思うこともあるけど……基本優しいの、知ったから」
 泉の方を見た時、ものすごく可愛らしい笑顔がそこにあって、俺は驚いた。
 思わず顔を逸らし、ドキドキする自分を抑えようとする。
 何で自分がドキドキしているのかさえ、分からなかった。
「ありがとうね、いつも」
 泉が顔を赤らめるから、自分までも顔が熱くなってきた気がする。
 ああ、これって何て言うんだっけ。
 大事なところを思い出すことができず、もやもやとしてしまう。
 泉と一緒にいて、最初は迷惑だったはずなのに、今じゃこんなにも心地よい。
 何でだろう。迷惑だったのに。
「これからも、話したり助けたり助け合ったり……してくれるかな?」
 泉がそう言うと、俺はこくりと頷く他なかった。
 あまりにも可愛かったので、見とれてしまったせいでもあるんだが……。
 何で見とれていて、思わず頷いてしまったんだろう。
 ……それに気付いた時、俺はもう、何を考えても駄目なんだって気付いた。
 何を思っても、何を考えても、きっと答えは一緒なんだって知った。

「じゃあ、また話そうね。約束」

 そう言って、指きりげんまんと指きりをした後、泉は立ち去る。
 本当は泉の腕を掴みたかったんだろうと思ったけど、伸ばした手は空振り、行
き場をなくしてしまった。

「……くそ」

 だから、嫌だったのだ。
 調子を狂わされるから、こうなってしまいそうな予感がしたから、だから、話
したくなかったのに。
 俺は気付いてしまったのだ。
 それはきっと、ずっと、隠してきた気持ち。


 紅一点の彼女に、恋をしてしまったこと。


***


輝二泉アンソロという素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございます

恋をした輝二のお話を書かせていただきました。
少しでも気に入ってくださると嬉しいです。





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