◎派生シリーズ『はじまり!!』
プログラム、スタート。
暗がりの部屋の中、臨也の掛けている眼鏡がパソコンの液晶に反射して光っている。
カタ、カタカタ…
臨也は、光の速さで流れ出た最新の未公開情報を運良く掴み、個人でその情報に色をつけ、開発していた。
結果、プログラムは別枠で生き長らえ未公開が更に闇の中へ。
臨也だけが知るプログラムへと変化した。
これは、ほんの遊び心で始めたもの。
人間を愛する臨也が、生きていないモノをどう扱おうが興味はなかった。
だが、それを使うことで人間を愛せる『道具』になるのだとしたら話は別である。
「出来た。んー」
軋む背中を鳴らし、腕を天井に向けて伸びをした。
「…ふぅ。あとは形だけか。形成されるまで先にプログラムだけ起動させておくかな…」
小さく呟いてから眼鏡を外し、酷使した目を擦る。
そのまま背凭れに身を任せ、次の作業を起こす前に自然と眠りに着いた。
しばらくして、光る液晶から電波が流れ出る。
パシュ
光線のようなものが、一瞬飛び交った。
それは、様々な色が交じり合った虹色のような光。
ジジ… ジ
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そして現在、朝の6時過ぎ。
僅か数時間前に誕生したデータが、まさか『こんなこと』になるとは思いもしていなかった。
それというのも、目を覚ました臨也がぼやける視界の中、ずっしりと重い何かに魘され起きた時から起こっている。
「リアルワールド、初めてだね津軽!」
「フフ、そうだなサイケ。ところで、マスターはまだ寝ぼけているようだ」
「…えっと」
静雄の声で呼ばれた気がしたが、声音も言い方も違う為、夢でも見ているのかと眉を顰めたが、何度目を擦っても結果は同じであった。
信じがたいが、椅子に腰掛けたまま寝ていた臨也の目の前(正しくは股座の上)に、着物を着た静雄が正座で座っており、臨也を見下ろしていたのだ。
「シズちゃん…寝込み襲うなんて、いつの間に入り込んだの…」
「ね、寝込みを襲うだなんて!俺はまだ、段階をちゃんと踏んでからやろうと…だから今日は挨拶だけと思っていましたし、その」
「……え?」
襲う気だったのかよ、と心中でつっ込みを入れたくなったがやめておいた。
「オレはマスターの顔と一緒!えへへー!」
「……え?」
耳を塞ぎながら振り返ると、椅子の背後には白い出で立ちで自分と同じ顔をした者がはしゃいでいた。
きーん、と耳鳴りのする高い声が、自分のものと同じとは思いたくもない。
「…何、これ」
「マスターがつくったプログラム、データ式アンドロイドです」
「それは判ってる。要は何でシズちゃんと俺の顔なのかって話でね」
だが、妖艶でかつ物腰の柔らかい声は、それが平和島静雄ではない事を証明していた。
だが!
「俺は津軽海峡冬景色。お逢い出来て光栄です、マスター」
「話聞いてた?」
臨也の脳内では軽くパニック状態が起きている。
直ぐにパソコンを見やったが、消した覚えはないのに画面は真っ暗であった。
「マスター、愛してます、ずっと逢いたかったです…」
津軽は頬を染めながら臨也の頬に自分の頬を摺り寄せている。
着物を引っ張る臨也と同じ顔をした者がぴーぴーと叫んだ。
「津軽の浮気者!オレというものがありながら」
「お前だってマスターの事愛してるだろう」
「それはそれ、これはこれ」
二人でコントのようなやり取りをしているが、全く持って笑えない。
(シズちゃんの顔でそんな台詞言うなんて)
気持ちが悪いにも程がある。
事実、臨也と静雄は今だ殺し合いをする仲であるのに、身体の関係はあるというグレーゾーンに在った。
愛を囁いた事もなければ、こうして微笑みかけられたこともない。
違和感を通り越して別人である。
「ていうか…何で俺の命令なく具現化してるわけ?しかも名前とか服とかセンス疑うんだけど。それにシズちゃんをイメージして設定したわけじゃないし」
半ば言い訳のようだが、それが事実なので仕方がない。
「オレは?マスター!」
「お前はうるさいよ。よりによって何で俺と同じ顔なの」
「えー、ひどいよマスター」
ぷくーっと頬を膨らませるサイケ。
(そんな顔、俺はしたことない…)
サイケの百面相にがっかりする臨也。
意外に可愛い、でも鬱陶しい。
自分にそんな事を思うなんて幻滅だ。
津軽は首を傾げながら、裾を口に持っていく仕草をして臨也の質問に答える。
「?俺たちは、気付いたらこうして生まれていましたから」
「…、シズ…えっと、津軽?」
「!はい、マスター」
名前を呼ぶと臨也の膝上に正座したまま嬉しそうに再度擦り寄ってくる。
臨也の身体は固まり、抱き締められるがままになっていた。
(意図的でないにしろ、これをシズちゃんが知ったら怒るだろうな…)
想像するだけで気分が悪い。
原因追求は置いておくにしても、何故こうなったのか。
(まさか、プログラムに穴があった…?)
臨也は一人での行動が多いため、どうせ作るなら自分そっくりに作って身代わりにするとか、全く違う女性の姿にして女好きの老人相手に交渉に使うとかそう言ったことを考えていたというのに。
目の前のデータプログラムは、人間と同じ肉体を持ち、静雄の顔で臨也を見て微笑んでいる。
その隣に回りこんで星を飛ばしている白い物体、臨也と同じ顔をしたプログラムも然り。
「オレはサイケデリックドリームスVol.01、よろしくマスター!」
「元気だな…ムカつくぐらい」
自分と同じ顔であるにせよ、この性格では身代わりにはならないだろうな、と心中落胆する。
「…とりあえず、津軽はシズちゃんじゃないってことで安全、なのかな」
「静雄さんの事も良く存じ上げております、いつもこの中から見ていましたから」
「…は?」
“この中”と言って液晶を指差す津軽。
(どういうことだ?)
額に手をつきながら項垂れるが今は頭が回らない。
つくってしまったものは仕方がないが、
だが!
(とうとう、俺自身でも化け物を作ってしまったな)
笑いが込み上げる。
何となくだが、滑稽であり、愉快だった。
「これから宜しくお願いします、マスター」
「わーい、じゃあ三人で今から遊ぶ?」
まぁ、こいつらで何が出来るかわかったものではないが、
今は経過を見る事にしよう。
「マスター、セックスしたい!」
「お前はうるさいよ」
「こら、サイケ、はしたないぞ」
「えー、だってマスターだっていつもシズちゃん抱いてるじゃん」
「!!な、なん…」
(どういうことだ?)
「こら、覗いてたことバレるだろう。やめなさい」
「やだ!津軽がさっき浮気したから言う事聞かないよ」
「お前ら…一体…」
昨夜出来上がったばかりのプログラムが、以前からの記憶を受け継いでいる?
そんな摩訶不思議な事がこの世に存在するのか。
と、思ったが、非日常はごく稀でもなければ身近に化け物もいる。
(あー、もう…)
臨也のキャパシティが裕に越えた。
お手上げである。
「マス…」
「ああもう、頼むから俺の顔ではしゃぐな!津軽も!いい加減膝から下りろ、くっつくな!」
『いや(です)!』
「ちっ、デリートするぞ!言う事聞きなさい!」
その声に急におとなしくなる二人だったが、
後日、あと二組が現れ、更に賑やかになろうとはこの時臨也は思ってもみなかった。
それはまた、別のお話で。
End.
はじまり!!
2012/04/24
次は日々デリ、六月が出ます。
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