イザシズ!シーズン1 | ナノ


イザシズ!シーズン1

「俺人混み嫌いって言ったよね」
「あ?」

静雄は一際大きな声で返事をした。
気だるげな臨也の声には、聞こえないフリに限る。

「だーかーらー、何も元旦から初詣行かなくても良いんじゃないのって」
「離れたくねーなら手ぇ繋げばいいだろうが?」

ふん、と余裕ぶり、人混みの中頭一つ分突き出た静雄があざ笑った。

「…あーむかつく、元旦早々」

臨也は見上げながら鼻で笑った。

「今年こそ臨也をぶっ殺す目標で行くぜ」
「それ人に言ってたら叶わないよ?まぁ年中言ってるから最初から無理な話だけど」

小さな言い合いを繰り返しつつも、一歩ずつ近づいてくるお賽銭箱。
静雄は小銭を潰さぬよう握り締め、この一イベントに心躍っていた。
だが、新年を祝う客たちで、恐らく年に一番の賑わいを見せる神社も
臨也にとっては最早どうでも良かった。

「早く出たい…」
「てめぇはまたそんな事言って、ロクでもねぇな。新年だぞ?笑えよ」

静雄が嫌味に言うと、臨也は静雄を見上げた。

「人とぶつかるのが嫌なんだよ。観察は好きだけど、俺はそこに入りたくない」
「…わけわかんねーこと言ってんじゃねぇよ。…おら、来いよ」

静雄の長い腕が臨也の背中に回った。
肩を引き寄せると、臨也は何とも思わない表情で、それを当たり前の行動として受け取っていた。


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チャリーン

混み具合に我慢できず、少し遠くから賽銭を放り投げた。
二人して手を合わせる。

「今年こそシズちゃんが死にますように」
「おい、声に出したらかなわねぇぞ?臨也くんよお」

脇腹を小突きながら笑って見下すと、ニヒルに笑う臨也の目とぶつかった。

「どうせ叶わないって判ってるから、声にしたまでだよ」
「…ッ」

そして、何故か静雄は赤面する。


Uターンをして帰り口へ足を向けた。
が、どうしても御籤が引きたいとうるさい静雄に、臨也は彼の手を引いて列に並んだ。
そして『お前も引け』と促されたので仕方なしに筒を振った。

『大凶だ』

声が重なる。
そして、顔を見合わせた。

「ふぅん」
「マジでか…やべぇな、どうする臨也」
「?別に…こんなの偶然だよ。行こう」

何事もなかったかのように御籤をポケットに仕舞う臨也。

「おい!なんで平気なんだよ、大凶だぞ!?」

声を張り上げても周囲の人間たちの笑い声で相殺される。

「俺と一緒に居るんだから、大凶で合ってるんじゃない?」
「あ、そうか」

納得するのかよ、と臨也は半眼になる。

「ケセラセラ、どうにでもなる。大凶だろうが俺とシズちゃんがセックスするのは変わりないんだから」

「!?バカやろうッ!こんなところで何言ってやがる!!」

顔を真っ赤にして後を追ってくる静雄を一瞥してから、臨也はふふん、と笑って前を行った。

「シズちゃん、出店が沢山あるね、面白い。人間が沢山居て本当に楽しい」
「人間なんてどうでもいい、腹が減った、腹!」
「…はいはい。君は結局そこなんだね」

肩を竦めて嫌味を垂らすも、静雄の姿は其処には既になく、
出店前に並んでいたのであった。

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「フランクフルトにから揚げ、イカ焼き、ミルクせんべい、クレープ、焼き鳥、…う、」

臨也は、途中まで言った所で口を塞いだ。
静雄が一瞬のうちに胃袋へ収まった食べ物を読み上げていたのである。
そして今食べているのが、

「おい!ベビーカステラ超うめぇ!コレ見ろ、割って食べたら面白いぜ」
「良かったね」

小さな微笑でその光景を見守る臨也。

「もう帰ろうよ、気は済んだだろ」
「!…まだ嫌だ」

口の中を膨らませながらベビーカステラを頬張る静雄。
首を振って恥ずかしそうにとある出店を指指した。

「…?綿菓子?」

その先には、ヒーロー物や小さな女の子が好きそうなヒロインアニメのデザイン袋に包まれた綿飴が飾られていた。

「食べたいの?」
「…でも、何か大人買ってねぇし、食べ辛いっていうかよ」
「すいませーん、一つください」
「おおおおい」

行動の早い臨也に手を伸ばすが、与えられたのは水色の袋に入った綿菓子だった。

「はい、どうぞ」
「…おう、さんきゅ、戦隊ものの袋とか恥ぃな…」
「つべこべ言わず食べなよ」
「お、おう」

照れ臭そうに中を覗き込む静雄。
白くてふわふわしたものが見えた。

「おお」
「ふふ、可愛い」

(そんなもので喜ぶなんて、簡単な奴)

心底馬鹿にしている臨也だったが、目の前の青年は至極嬉しそうで。

「どうやって喰うんだこれ、でかくねぇか」
「千切って食べるんじゃないの。べとべとするから気をつけ…」

べとお

「…賢いね」
「うわっ…って、口に入れるとめちゃくちゃ小せぇぞ?あ、丸めりゃいいのか」

ふわっ、ころころ めしゃっ

「小っちゃ」
「硬って」

静雄の手力で見事、小さなボール状になった白い塊。
手の平でてらつく綿菓子を、さっきまでの大きなふわふわとした外見からは似ても似つかない状態に変貌してしまった。

「なんか切ねぇ…」
「何でも良いけどそのべとついた手で触らないでよね」
「…」

にやぁ

「臨也、手ぇ繋いで帰ろうぜ」
「わっ、やめて!触らないで!」

この人混みの中、早々走って交わせるものでもなく、臨也は静雄にいとも簡単に捕まった。
お気に入りのコートも砂糖菓子によって質が落ち、臨也のテンションは下がる。

「…後で覚えておきなよ」
「いつでも受けてやるぜ?」
「随分と素直だねぇ」
「だてに十年てめぇと付き合ってねぇ」

しばし静かな時間が流れた。

「…。今年もよろしくね」
「…おう、よろしくな」

憎まれ口を叩きつつも、混んでいるその場所で、
周囲の人間が目にしたのは、べとべとの手で繋ぎあった二人の手だった。


イザシズ!シーズン1



2012/01/06
臨也と静雄の物語はこれからもずっと続いていく!ということでシーズン1。
今年も宜しくお願いいたします!



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