たとえこの身が滅んでも | ナノ


たとえこの身が滅んでも




※二人は付き合ってて互いの肉を日々貪り合ってた、そんな淫猥な設定。

「んのおおおおおおおおおおおおおおおお」

新宿は今騒音に支配されている。
人が逃げ惑う音、ぶつかり合う金属たち、とりあえずいろんな物がぶっ壊れる音だ。

この街に住む人間ならその可能性を少しでも脳裏にそれだと掠めるだろう。

騒音+怒号の声
つまりは、平和島静雄という一人の第一級特異点。


事の発端はたった数時間前に起きた―。

最近、臨也から連絡がないと我慢の限界を越えた静雄は、仕事終わりに直接彼のマンションに乗り込んだ。
すると、見られたくなかったのだろう、苦い顔をした自分の恋人が車椅子に座っているではないか。

「…やぁ」
「何だそれ」
「見てわからない?足、折った」
「は?」

だから会いたくなかったんだ、と部屋に通した波江を睨んだ臨也は肩を竦めている。
そんな視線をさらりと受け流し、踵を返して静雄の横を通り過ぎるとそのまま外へ出てしまった。

「なんで言わなかったんだよ」
「なんでって、会ったら俺たちっていつもセックスするだろ」

当然のように告げる臨也に顔を赤くする静雄は今更だ。

「ッお、俺が動けばいいだろが!」
「は?やだよ。俺マグロとか死んでも嫌。知ってるよね?」
「う」

車椅子から上目遣いに『嫌だ』なんて言われても可愛いだけだというのに。
静雄はそれだけで下半身が別人格になるのを目を張る事で耐えた。

だが、今はそんな場合ではない。

拳をバキリと鳴らし、額には血管が浮き出る。

「で?どこのだれだ、テメェの足折ったやつぁよ」
「…言うと思った」
「俺がぶっ飛ばしてやる。…言えよ?」

目をかっぴらいた静雄は最早ヤクザ以上のオーラがあった。

本当にいつもこんな男を抱いていたのか疑いたくなるほど精悍な顔立ちの男、静雄を見上げながら臨也は手の平を額に当てて小さく言った。

「まぁ、不慮の事故だけど…俺の妹だよ」






ドオオオオオオオオオオオン

「んのおおおおおおおおおおおお」

静雄は無我夢中で標識を折っている。

ほら、あれだ。
仕事で腹が立って上司の名前呼びながらゲームセンターにあるパンチングマシーンに殴りかかってるサラリーマンと境遇が似ている。

静雄は街中の標識を引っこ抜いてそれをへし折って叫びながら怒りを解消しているのだ。

「しずおおおおおおおお前何やってんだぁ!?」
「トムさんんんん」

周りが騒ぐ中、駆けつけた田中トムの声にものすごい剣幕で振り返る静雄。

「警察くるって!ここは一旦落ち着け!」

「それが落ち着けねぇんすよぉ…好きな男が足折られてぶっ飛ばそうと思ったらそれ折ったの、妹がなんかよくわかんねーけどごたごたに巻き込まれたってんで助けた弾みでポキッと…そう、こんな風に」

べきっ

「しずお、それ標識」
「ああ…俺の怒りは…どこへ向かうべきなんだ…?ああ…?」

独り言のようにブツブツつぶやく静雄は、口から蒸気でも出るのではないかと思うほどの怒りを繰り返す。
標識を折り、畳みを繰り返している。

「すっげー、標識って折り畳めるんだ」

そして棒読みのトム。

「で、でもよ。お前さんがあの折原…さんってやつと付き合ってるのは知ってたけど、足折っても会えるし一生治らないわけじゃねぇべ?元気出せよ!な?」

べごっ

肩に手を置いた瞬間と静雄が標識を握りつぶした時が重なり、トムの手の平には静雄の肩の筋肉の盛り上がりがしかと感じられた。

「何言ってんすかぁトムさん…」

その低い声に、トムのドレッドから回るように汗が滴り落ちる。


べご ばきっ ×●□
「軸がしっかりしてなきゃ腰振れねぇでしょうが…?」


最後の一言は、標識としての最期を迎える音でほとんどトムには聞こえなかったという。


そして再び、臨也の自宅兼事務所へと静雄は向かっていた。





「で、ここ(新宿)でも暴れたと。うるさいと思った。」
「るせぇな、誰も殴ってねぇよ」

頬を膨らませてぷい、とそっぽを向く。

「ガキだなぁ、俺のわがままで出来ないようなものなのにさ」
「は!?意味わかんね…」
「わかんないならいいよ」

流し目で静雄を軽く睨む臨也。

「う…なんだよ、その目は!」
「そんなんで、もし俺が年老いて勃たなくなったら君のその性欲どうするつもりだよ」
「!!…バイアグラ飲ませでも勃たせてやる…」

半ば本音が漏れた静雄の目じりには涙が浮かんでいる。

「ほー。俺ってそんなに悦いの?」

静雄は彼の皮肉を含んだ呆れ声なんて屁でもない、とこの時思った。


すると不慣れに椅子を操作し、静雄に近づく臨也。
両足が包帯だらけの彼が静雄を真っ直ぐに見詰めた。

「まぁ、たとえこの身が砕け散ろうが滅ぼうが、俺と君との関係は永久に変わらない、だろ?」
「…?変わらないって、何が、だよ…」

回りくどい言い回しが鼻につくが、もう慣れてしまった。
臨也の手が静雄の後頭部に回され、鼻と鼻がくっつくところまで近づくと囁きかけるように甘く言葉を吐いた。



「…治ったら覚悟してねって事だよ」

「  」


『静雄の下半身スペックが【別人格】になった!』



その後、ある意味精神崩壊した静雄が臨也の上を跨り、衝撃に耐え切れず車椅子が壊れて足の治りが一ヶ月伸びた、と新羅がセルティに文句を垂れたという。


…やっぱり愛がなくちゃね。



End.

たとえこの身が滅んでも
『魂ごと』



2013/09/01執筆
静雄のアソコは簡単に3Dになるって事で…。
性欲も化け物並みな静雄が好きです!

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