夕方17時48分、クリスマスイブだろうがそんなことは私に全く無関係。年末が近づいてきていることもあって、大量に積み重なった仕事は終了の目処が立たない。そんなことはクラン社のどんな人間だって理解している。しかし12月24日ともなれば、大量の有給を使うエージェントが現れ、特に休む予定もない私のような人間につけが回ってくるというわけである。流石に日付が変わる前には帰宅したい、なんてぼんやりと考えながら仕事を行っていた。ディナータイムに帰宅するほど、私は精神力も強くない。この街トリグラフではカップルはそこらじゅう大量に歩いており、そこを一人で歩くなんて苦行にも程が有るだろう。高層ビルであるクラン社の窓から見える夜景は、それはそれは綺麗に光っていた。ははは、この夜景の一部を作っているのは私なんですよ、言っててなかなか辛い。

「おい、今日の仕事は終わりだ」
「え、いや…私まだ仕事残って」
「上司命令、O.K?」

私の上司ことリドウ室長は、淡々とそう告げたのだった。なんだなんだ、そもそも今私がここで残業してるのはリドウさんのせいなんですけど。社内恋愛だからあからさまなのは避けたいという気持ちもわかるし(リドウさんが隠す様子はないけど)、彼は元々かなりの社畜精神溢れるトップ・エージェントなのだから、クリスマスイブだなんて関係ないのだろうと思っていた。というか今日のこの時間まで特段クリスマスイブの予定についての会話が一切存在しなかったのだ。

「えーっと、リドウさん…?」
「下のエージェントにドレスを用意させた。とっとと着替えて来い」
「へ?…あの、いまいち状況が…」

言われるがまま私は、別フロアの服飾部門へと連れて行かれる。え、ここ普通に今仕事してますから、いくら医療部門のトップ・エージェントでもそれは邪魔です、って聞いてなさそうですねこの人。エレベーターのドアが開かれ、そこには医療や分史対策とは異なった雰囲気のフロアになっていて、リドウさんが足を踏み入れるや否や「お待ちしておりました!」と声が響く。服飾部門こわい。

「それではこちらにお掛けください。まずは髪のセットから行いますね」
「頼んだぜ」
「え…あのー…リドウさーん…?」

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30分ほど経過しただろうか。髪は巻かれ、しっかりした化粧も施され、高級そうなドレスに身を包まされる。普段身につけないようなワインレッドのドレスと黒のボレロからは、これでもかと言わんばかりなリドウさんの趣味を感じた。まあでも、流石というべきなのか。派手すぎず地味すぎず、そんな深みのある色が主張する。

「よくお似合いですよ。ね、リドウさん?」
「まあな、流石俺の見立てだぜ」
「あ、あの!私の話聞いてください、どういうことなんですか…!」

リドウさんは私の手を引き、クラン社のエントランスホールまで降りて行く。丁度通りかかったユリウスさんとルドガーくんにげんなりとした視線をいただきながら、それを楽しそうに見て彼は進む。夜景溢れる街トリグラフ、私の手の先は、リドウさんの細い手首に握られる。

「さあて、今夜は長くなりそうだ」
「も、もしかしてリドウさん…」
「クリスマスに仕事をするほど俺は愚かじゃないからねえ、付き合ってもらうぜ?」
「…ふふ、任せてください!」


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12/25
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