『白雪姫』


とあるところに不幸にも継母に住んでいた城から追い出されてしまった白雪姫という少女が居りました。
何でも白雪姫を殺そうと継母が仕向けた猟師の話によると、継母の嫁入り道具である何でも知っている鏡が、白雪姫のことを『継母より美しい』と言ってしまったそうです。憐れ白雪姫。
美には人一倍気を使っていた継母は怒り心頭。
先程も言った通りに猟師を差し向け白雪姫を亡き者にし、世界で一番美しいのは自分だと示そうとしました。
ちなみに鏡は割られかけましたが、その言葉を言わせる為に倉庫に保管されています。危機一髪でしたね。
しかし白雪姫を幼い頃から良く知っていた猟師は白雪姫を憐れに思い、逃がしてあげました。
それから早半年。白雪姫はなんやかんやあって七人の小人(全員175p超え)に囲まれながら城に居た頃よりも自由に、何のしがらみもなく暮らして居ました。
城に居た頃よりも数倍肌が艶やかなのは気のせいではないだろう。やはり継母との関係で少なからずストレスが溜まっていた白雪姫。ああ、可哀想な白雪姫。
そんな白雪姫は今、キッチンで鍋とにらめっこしています。
「小人達に頼まれたのはこれで全部かな?」
小人(何度も言いますが175p超え)とのおやつを作っていた白雪姫は、よしっと嬉しそうにその雪のような白い肌を赤く染める。
早く早く食べて欲しい。そんな気持ちを込めながら皿の上に森で採ってきた木の実と果物のクッキーを綺麗に並べた。
あとは小人達が仕事から帰って来るのを待つのみ。
それまで少し休憩しよう。そんな時だった。
 コンコン。と木の扉が二回ノックされた。
「……どちら様ですか?」
 こんな森の奥深く。小人達は自分の家だからノックなんてせずに帰ってくる。では一体、誰が来て、何の用だろう
白雪姫は小人達以外とは殆ど交流がなかったので、少し緊張しながら声を掛けます。
「果物売りの婆です。良ければ買ってくださいませんか」
 声はおばあさんそのもの。
 白雪姫はそう言えば丁度果物が手に入りにくい時期だったなと思い扉を開けてしまいました。
「おやまあ、可愛らしいお嬢さんだこと」
「いえ、そんな……! あの、ところでどんな果物を売ってくださるんです?」
 白雪姫は手を身体の前で振った後に、訊ねました。
「わたしの一押しはこの林檎。甘くて美味しい林檎ですよ」
 にっこりと果物売りのおばあさんは歯抜けの口を開けて笑いました。
 白雪姫はぼうっとおばあさんを見つめます。
「お嬢さん……?」
 おばあさんが話しかけても返答はありません。
 対面しながら見つめ合うことおよそ十分といったところでしょうか? 随分長い間見つめ合ってましたね。
「……りんご……」
 白雪姫がぼそりと呟きます。
頭から黒いローブを纏ったおばあさんは、林檎の入ったバスケットを見せます。その中には真っ赤に熟れた林檎が沢山入っていました。
 確かに美味しそうです。ストーリーテラーであるわたくしもめちゃくちゃ食べたいです。
そう。ソレが例えば毒入りだったとしても。
 そんな毒入り林檎だとは知らない白雪姫は林檎を見つめます。
 おばあさん。いえ、本来のお話を知っている皆さんには御分りでしょう。
 果物売りの老女に化けた継母が、隠れたフードの中で目を光らせました。
 きっと素直で好奇心旺盛な白雪姫のことだろうからこの林檎を手に取って食べるだろう、と。
 しかし白雪姫はぼうっと虚ろな目をしたまま林檎を眺めています。
 はて? 何かあったのだろうか?
 継母は首を傾げます。
 もしや自分の正体がバレたのでは……?
 その考えに行き着いた継母は白雪姫が何かを言う前に殺してしまおうと、バスケットの中から林檎をひとつ取り出すと白雪姫の目の前に突き出しました。
 白雪姫はその黒曜石のような瞳を限界まで見開き、口を開けました。
そうしてその言葉は吐き出されたのです。
「申し訳ありませんが、私、林檎は大の苦手で……」
「……え。いやいや、え?」
 今度は継母が口をぽかーんとする番でした。
 あれ? 白雪姫って林檎苦手だったっけ?
 記憶から白雪姫の食事風景を思い出しますが、基本的に敵視していたのでぶっちゃけ覚えていませんでした。何たる悲劇。しかし悲劇はこれからです。
「実は見るのも駄目で……すみません」
「いえ、一個くらいは、」
「うっ……すみません……吐きます」
「え? えええええ! ちょっ、大丈夫? だ、誰かぁぁぁ! 白雪姫がリバースを! 誰かぁぁぁぁぁ」
 そんな継母の悲鳴も他所に、白雪姫は見事リバースしたのでした。
 ちなみに悲鳴を聞きつけて飛んできた小人達がこれまた曲者揃いだったのは……次のお話で。


【りんご嫌いな白雪姫】

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