「貴女も飽きませんね」
「うん? 何が?」
宗三に問われた言葉。
けれどその問いに答える前に、視界に身体にしては大きな傘を背負った青色が入った。
「さっよちゃーん! 今日も可愛いね! 愛してるよ!」
「僕が言いたいのはそれですよ。それ」
「? 宗三もちゃんと好きだよ」
「……そうですか」
(愛してるとは、言ってくれないのですね……)
「弟に嫉妬する日が来るとは……貴方のせいですよ」
「え? なんて? 私いま小夜ちゃんを視界に収めることに忙しいから宗三の相手後で良い?」
「……この主、下剋上でもして差し上げましょうか」
ぴきり、と浮かんだ青筋に、けれど主たる少女は気付かない。
それが余計に怒りを煽るのだと、この主は気付けない。
弟に懸想した人間の女を好きになるなんて。
(報われませんね)
宗三は、はあ、と溜息を吐いた。
**
執務室で仕事をしている最中、ぺたりと突然、背中にナニかが張り付いた。
「どーしましたか? そーざさん?」
「貴女も所詮、僕を籠の鳥にしたかったのですね」
「ちょっと近侍から外しただけでその言い様……」
「寂しいじゃないですか」
「寂しかったんですか?」
「だからここに来たんでしょう?」
ぺたり、張り付いたままのそーざさんをに苦笑して。
「もう少しで仕事が終わりますから、そうしたらお茶にしましょう」
「絶対ですよ?」
「はい」
**
「取りましたよ、誉」
「さいですか……」
誉を取ってきた子に何でもご褒美を与えるという制度を取ってから、宗三は何故か毎回、私の膝枕を要求してくる。
「これ、楽しいの?」
私は足が痺れて辛いのだけども。
「ええ、至極」
「なんか楽しそうだね」
「そう見えているなら良かったですよ」
(困ったように微笑みながら、それでも優しく受け入れてくれる貴女の側は、本当に心地良いですからね)
**
「そーざさん。いい加減引っ付くのやめてくれませんかね?」
「冷たいですね。僕はこんなにも貴女を思っているというのに」
「いや、ただ単にそーざさんは私を暖代わりにしているだけでしょう」
そんなに冬の景趣寒かったですか?
「ええ、寒いです」
「ううん。でも買ったばっかなのでもうちょっと我慢してください」
「貴女が暖になってくださるなら構いませんよ」
「私は動きづらいので、早めに春の景趣にでもしますよ」
「別に構わないと言ったじゃないですか」
貴女に抱き着いていられる理由があれば、何でもいいんですから。
**
「小夜ちゃんを養子にください!」
「は? ついに頭が沸きましたか?」
「わあ! 凄い冷たい目!」
「……どうして僕に言うんですか?」
「いやぁ、ちゃんとお兄さんには挨拶しとかなきゃって思って」
ゆくゆくは家族になるわけだしね!
「……貴女に小夜はあげません。とか言って欲しいんですか?」
「言われるかと思ってたよ」
「僕はどうこう言いませんよ。小夜が決めることですから」
「おや? 以外にあっさり」
「ただそんなことは僕が貴女への恋慕を諦める理由にはなりませんけどね」
「うん? 今のは幻聴かな?」
「現実です。向き合いなさい」
「いつも厭味ったらしい宗三によもやそんなことを言われるとは……」
「照れ隠しです。察しなさい」
「察せなくてごめんね!」
それで、わかりましたか?
問う宗三に、首を傾げる。
「何がでしょう?」
「僕、貴女が好きなんですけど」
「はあ、私は小夜ちゃんが好きです」
「別に諦めませんからいいですよ」
「うわぁ、しつこい」
**
「そーざさん。わたしは確かに昨晩『好きにしてください』って言いました。けど足腰立たなくさせることはないでしょう」
「男にあんなことを言ったんです。そりゃあ、そうなりますよ」
「これじゃあ、何も出来ないじゃないですか」
「僕と一日、布団の中で過ごすという選択肢はないんですか?」
「短刀の教育に宜しくないので」
「つれないですね」
「仕返しですよ」
**
現世に数日赴くことになった。
そう近侍であり恋人の宗三に告げたなら、寂しいというので、構い倒してあげたら何故かどんどん暗い顔をする宗三。
「どしたの?」
「……貴女のせいですよ。こんあに構われたら、貴女の居ない数日間が余計に寂しく感じる」
拗ねたような、寂しそうな顔に、不覚にもときめいた。
「宗三可愛いね」
「五月蠅いですよ。……早く帰ってきてくださいね」
「ちょっぱやで片付けてくるわ」
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