肉まん求めてコンビニに言ったら、何故か勇者に選ばれました。
――なんて、意味分かんねぇ状況に置かれましたが、俺も意味が分かってません。
つーか理解したくねぇ……!!
「大体な、なんで夫婦喧嘩に巻き込まれなきゃいけねぇの?勝手にしてろよ。ナニ他人巻き込んでんの?」
「言いたいことは分かるが、……諦めろ」
異世界に連れ去られ、勝手に勇者に仕立て上げられ、状況が何も分からない状態で「さ、魔王を倒しに行きましょう!」と見知らぬ女に言われ。
いや、スライムにすら勝てない状況で何言ってんだコイツと言う俺の言葉は華麗に無視され、サラッと魔王城に連れて行かれた原因が夫婦喧嘩って!ホント意味が分からねぇ…!
今までの鬱憤を吐き出すように国王に涙混じりにそう語れば、国王は首を振ってそう言った。
その顔はまるで悟りを開いた僧侶のようだったけど、そんな言葉を俺は求めてなかったし、正直聞きたくもなかった。
「アイツは基本的にマイペースで自分の意見を力技で押し通し続けて今に至る女だ。何を言っても聞かん」
「お前一応この国の王様だよね?」
「魔王にさえ“ああ”な女が、私の意見に耳を貸すと、お前は本気で思っているのか?」
「……なんというか、すまん」
魔王の浮気癖に腹を立てたあの女の感情は全くもって不可思議なものではない。
が、「浮気とか何やってんですかー。よし!殺しちゃいましょう☆」と極論に走った程度には独自の世界で生きている女だ。
あんな人間がこの世界で最も力のある神官とかそんな事実は知りたくなかったけれど、つい先日目の前に居る国王から直接聞きました。正直悪夢かと思ったよ。
何せ俺はあの女の力でこの世界に来ているわけで。力を使い果たした(らしいが本当の所は分からない)あの女は「諦めて面白おかしくこの世界で生きてってください☆」と言いやがった。
つまりもう俺を元の世界に帰す気はないらしい。
ホントふざけんなって話だよ。
「というか、その神官は今どこに居るんだ」
国王がそう言えばと口にした言葉に、俺は全力で溜息を吐きたくなった。
「……絶賛魔王と戦争中だよ」
「……ああ」
戦争、なんて物騒な物言いだが、アレはそうとしか表しようがない。
物が壊れるとか、周りに被害が出るとか。
そう言ってしまえば普通だが、その規模がでかい。
なんというか、結界って便利なんですね。魔王城の魔術師さんホントお疲れ様です。と言いたくなるレベルだ。
「よくもまあ、意味を為さない喧嘩を繰り返す夫婦だな」
傍迷惑だ。と吐き捨てた国王に全面的に同意したい。
かれこれ数ヶ月の付き合いになる国王だが、凄く身近な存在に感じる。
この国で一番偉い人間の筈なのに、神官が絡むと途端に哀愁が漂う姿には涙さえ誘う。
実際国王の側近がハンカチで目元を拭っているのを何度か目にしているし。
「あんなに喧嘩をするくらいなら、早く別れてしまえばいいものを」
「ま、正論っすよねー」
それでも別れないのは、結局のところ好きあっているからなのだろう。
そうでなかったら、毎日の戦争規模の夫婦喧嘩の意味が本気で分からない。
「……だから私にすればいいと言ったのに」
「はい?」
「なんだ」
「いや、今なんか聞きたくない幻聴的な何かが聞こえた気がしたんで」
「そうか。なら、幻聴ではないのか」
「っすよねー!やー、俺疲れてんのかなー」
「そうか。なら、城の治癒師にでも声を掛けておいてやろう」
「あざーっす!」
体育会系の部活の先輩にでも言うかのようにお礼をいい、俺は先程小さく漏らされた国王の言葉を全力で聞かなかったことにした。
(……なんて出来ないよ!?でもあんな憂いた顔でそんなこと言う国王にツッコミなんて出来るわけないじゃん!?)
誰にともなく言い訳をする。
つーか、魔王と国王から好かれるって……あの神官のどこにそんな魅力を感じるのか小一時間ほど聞きたいような、聞いたら後には戻れないような。
なら、やっぱり聞かなかったことが正解だろうと結論付けて。
俺は「城の治癒師かぁ、どんな人なんすか?」と当たり障りない言葉を選び、何事もなかったかのような顔をする国王と話を続けた。
▼ 勇者は面倒事から全力で遠退いた
モドル