赤ずきん2


今、私は大変な危機に頻している。


「……ど、どうしましょう、コレ…」


しょぼんと尻尾を垂れさせて、鏡の前で項垂れる。
鏡に映る狼の、少しだけはだけさせた衣服から覗く真白い首筋には、ポツンと赤い華が一つ咲いていた。


「…猟師さんはどうして私なんかにこんなものを付けたんでしょう」

「それは狼が可愛いからだよ」

「……っえ?」


突然背後から掛かった声にビクリと肩を跳ねさせて、恐る恐る後ろを振り向く。
そうすればそこには赤い綺麗な髪を風に靡かせながら玄関の戸に凭れるように立つ赤ずきんさん。
顔にはニコリと笑みが浮かんでいるが、如何せん怖かった。
何が怖いって、赤ずきんさんの背後に山姥のような悪魔のような、とにかく怖いものが見えたからだ。


「あ、あああ赤ずきんさん!」

「うん。どうしたの狼?そんなに震えて、本当に可愛いなぁ。今すぐ食べちゃいたい」

「え、え?あの、赤ずきんさん?ちょ、ちょっと近すぎじゃありませんか?」

「おや?僕達の間に隙間があること事態が間違いだからこんな距離を近いとは言わないよ」


長い足を軽やかに使い、離れていた距離をあっという間に詰めてしまった赤ずきんさんは、「それよりも狼?」と優しく、けれども何故か背筋が凍るような冷たさを含んだ声で私の耳に囁いた。


「君は僕に言明しなくちゃいけないことがある筈だよね?」


つん、と指先で軽く押された場所は、猟師さんが戯れに着けた痕がある場所。
これを付けられた詳細を言えと赤ずきんさんは言っているのだ。
ぶわわわっと意味もなく顔に熱が溜まる。


「あ、あの、怒りませんか?」

「それは分からないな?今でも充分怒っているし、叶うことなら今すぐにでもあの男の腸を引き裂いて野犬の餌にしてやりたいくらいなんだから」


ふふっ、と笑う赤ずきんさんの言っている言葉が怖すぎて「ひぁっ」と悲鳴が漏れ出た。
そんな私をクスリと笑うと、よしよしと頭を撫でる赤ずきんさん。


「それで、話してくれるよね?」


満面の笑みを浮かべる赤ずきんさんの迫力に負けた私は話さざる終えなかった。
例えこの後に何が待ち受けていたとしても、だ。


私と向かい合うように椅子に座った赤ずきんさんは、時折相槌を打つのみで口を挟んだりはしなかったけれど。
所々で絶対零度のオーラが噴出されていたので、その度にビクつきながら、それでも話すことを止めることはなかった。


止めた瞬間に何かされそうで怖かったからというのが大きな理由だけれど。


赤ずきんさんは私の話を聞き終えると、要領を得ない説明を纏めるように口を開いた。


「――…ふぅん。つまり酔っ払ったあの糞男が突然狼の家に上がり込んできて、散々僕と狼のことに口出しをした挙げ句、僕の狼の白くてキメ細やかな首筋にキスマークを着けて帰っていったと」


コクコクと頭を振れば、赤ずきんさんは「ふぅん」ともう一度だけ言い。
座っていた椅子から立ち上がって私の前に立った。


「あ、赤ずきんさん?」


なんだろうと首を傾げて赤ずきんさんを見やれば、赤ずきんさんはニコリと良い笑顔で私の腕を引いた。
そのまま流れるような動作で抱き上げられると、私の混乱を他所に寝室に連れて行かれる。


「猟師への制裁は一先ず置いておいて。まずは狼の消毒からしようか?」

「しょ、消毒、ですか?」

「うん。だって今、狼にはあの猟師の痕跡が残ってるでしょ?だから、消毒」


――他の男の痕なんて全部消さなきゃね?


そう言って笑った筈の赤ずきんさんの目は全く笑ってなんていなくて、思わず生唾を飲む。
赤ずきんさんは私の来ていた服の裾に手を這わせると、耳元で甘く囁いた。



「さ。狼?今日も僕に食べられようか」


【赤ずきんは今日も美味しく狼を頂いた】


end...

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