髪長姫(ラプンツェル)
とあるところに髪が大層長い姫が居た。
その姫は「髪長姫」と呼ばれ、共に暮らす魔女(と言いつつも男であるのだが、便宜上魔女)とそれはそれは穏やかに暮らしておりました。
さて、この姫。
かなりの鈍感さんであった為か、生来の気質故か生涯気付かなかったのですが。
魔女はかなり嫉妬深く、また独占欲の強い男でした。
「僕以外を見たらいけないよ」
「はい魔女さん」
「僕以外に声を掛けたらいけないよ」
「はい魔女さん」
「僕以外に、」
「魔女さん。お仕事に行かなくてはならないのではありませんか?」
魔女の会話を切った姫。
魔女の頬はぶすりと膨れます。
この日は魔女同士の会合があったのです。
だからこそいつもより余計に姫に言い付けをして……あ、いつもこんな感じなのですね。了解です。
ごほん。いつも通りの習慣である言葉を交わして、魔女は名残惜しそうに姫の名の由来である長い髪を手で撫で、唇に寄せて口づけて、ほんっとうにしつこいなお前さんという程に髪を堪能してから、魔女は魔法で作った扉を開けて会合へと向かいました。
え?髪でするすると塔の下へと降りていかないのかって?
いやいや。見てわかった通り、魔女は大層姫を大切にしております。
その中でもお気に入りなのが姫の髪でした。
そう。魔女は所謂『髪フェチ』だったのです。
そんな髪フェチの魔女が髪を痛め付けることなど出来ようもありません。
さて。魔女が出ていって姫は暇になりました。
何せ身の回りの全てを魔女が執り行っているのですから、姫がすることがないのです。
「キミは僕に微笑んでさえ居てくれればいいんだよ」
そう言われれば、姫はそういうものなのかと思うしかありません。
前にも言いましたが、姫はかなりの鈍感さんで、更には魔女を絶対視していたのです。
まあ、当然ですよね。
何せ姫は生まれた時から魔女によってその心の全てを奪われて、いえ、作られていたのですから。
少女を自分好みに仕上げるとか、とんだ変態ですね。
「あら?何かしら?」
ツッコミを入れている間に姫には何か聞こえたようです。
それは魔女と姫が住む家である塔の天辺まで聞こえてくるような大きな声でした。
物語などではきっとひょっこり顔を出すのでしょう。
ですが姫は――
「魔女さんが誰とも話してはいけないし、見てはいけないって言ってたわよね」
フラグクラッシャーでもあったらしい姫は、声の主を見事にスルーしました。
話が進まない?
いえいえ。このお話は、魔女(男)と姫が主役なのです。
「ただいま!寂しくなかったかい?」
そうこうしている間に日が暮れて、魔女が家たる塔に帰ってきました。
「私が、寂しくないと思ったのですか?」
姫は唇を尖らせます。
「ごめんよ。今度からはなるだけ会合にも出ないようにするからね?」
二人だけの世界で、幸せに暮らそうね。
魔女は甘くあま〜く囁きました。
(邪魔者になる異物は排除したしね)
魔女の服に着いたのは、紅いチェリーを磨り潰したような色。
【独占欲の強い魔女と鈍感な髪長姫】