シンデレラVer.3


大切な大切な私の主君。
命に代えてもお守りすると決めた、我らが王子。
その王子が、今日結婚する。
他ならぬ僕が見付けてきた町娘、灰かぶりと呼ばれた、あの美しい少女と。


「……シンデレラ」


シンデレラ。
王子に見初められた美しい少女。
――僕のいとしい方。

彼女は僕に会いに魔女に魔法を掛けて貰ったのだと、嫌がる彼女にガラスの靴を履かせた時にそう言った。
とても哀しそうな声で、泣きそうな顔をして。


虚を突かれた。
まさか彼女が僕を好いてくれているだなんて思わなかったから。
まさか彼女が僕と同じ気持ちだなんて思わなかったから。


僕が恋したのは魔法が溶けた後の彼女の姿。
たった一瞬、走り去るその横顔に恋をした。
彼女は僕のことを前から知っていたようだけれど。
生憎とそれが何時かは分からなかった。
ただ、僕と彼女が同じ気持ちだとは思わなくて。


本当は、連れ去ってしまいたかった。
本当は、好きだと告げてしまいたかった。


けれど出来なかったのは、命よりも大切な主君が彼女を見初めてしまったから。
彼女を欲してしまったから。
僕には彼女を連れて城に帰るという選択肢しか、残されてはいなかった。


目の前にはシンデレラを迎えるパーティーの様子。
シンデレラはその美しい顔に少しだけ憂いを宿らせていた。
その憂いを僕が取り払いたい。けれどそれは僕の役目ではない。


王子は一途に貴女を想われています。
王子は必ずや貴女を幸せにしてくれます。
そう言ってシンデレラを王子の元に連れて行った。
シンデレラは――泣いていた。


「私は貴方が好きなんです」


そう言って、泣いていた。
僕はシンデレラのその言葉には何も答えず、「王子が幸せにしてくれます」とだけ答え続けた。
さめざめと泣くシンデレラの向かいで、僕は本当に言いたい言葉が出てこないように、唇を固く引き結んだ。


(愛しています)


貴女がこれから先、王子との間に愛を芽生えさせ、子を産んでも。
僕がこの先、妻を娶り子を設けても。
僕は貴女の良き相談相手として居続けましょう。
卑怯でしょう?
こんな卑怯な僕に早く気付いて、そうして早く王子を愛してしまって下さい。
そうすれば貴女の胸の痛みはきっと消える筈だから。


【シンデレラを愛した従者と従者を愛したシンデレラ】


end...

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