白雪姫Ver.2


お義母様に嫌われていると自覚していた。
お父様に愛されたかったお義母様は、必死にお父様の気を引こうとしていたのも知っていた。
自尊心が高いお義母様が自分よりも美しいと言われる私を疎んじ、憎んでいた事も知っていた。


それでも私はお義母様が好きだった。


生まれて直ぐに私を産んでくれた母が死んでしまった私にとっては、たった1人のおかあさん。
何をされても、何を言われても、平気だった。
お義母様は私を憎みながら、疎みながらそれでも私の存在を認識し、受け入れてくれていたから。
本当はとても優しい方のだと思っているから。







「一度殺されておいて、それでもまだ姫はあの女が大事なの?」

「何度殺されようとも、私にとっては大切な母親ですから」

「ふぅん、……中々上手くいかないね。姫はどうしたらあの女を気にしなくなるのかな?」


隣に座る隣国の王子はつまらなそうな顔でそう言った。


「……私にとっては大切な母親ですから。気に掛けるなと言われても難しいですね」

「ふぅん。それは姫の命の恩人が頼んでも?」

「王子には助けて頂いて感謝しています。ですが、私は別にあのまま死んでも良かったんです。母の憂いを取り払えるなら、死ぬなんてどうって事ないと思っていましたから」


結果的には、まだ浅ましくも生を望んでしまいましたから、私を助けてくれた貴方には感謝をしていますが。
そう言った私に対して、王子は少しだけ含みのある笑みを浮かべ口を開いた。


「……感謝、ね」


王子は一旦言葉を区切ると私をチラリと横目で見やる。


「それってさ、毒入り林檎を渡したのが俺の仕業だって言っても姫はまだ俺に感謝してるって言ってくれるのかな?」

「…………は、」


まるで脳が機能を停止したかのように、王子の言葉を理解出来ない。
私は間抜けな声を出しながら呆けた顔で王子を見上げる。
すぐ近くにある王子の顔は、万人がうっとりとするような笑みを浮かべているにも関わらず、何故だかゾクリと背筋が寒くなった。
王子は私と視線を交えながら、まるで睦事を囁くように言う。


「姫の視界にはいつだってあの女が居た。それが悔しくて、哀しくて、嫌で嫌で堪らなかった。――だから姫があの女に失望するような展開を作ってやろうと思ったんだ」


俺だけが姫を助けられる魔法を掛けた林檎を魔女に作らせて、あの毒林檎をあの女に密かに渡した。


「あの女はね?姫が思っているような根が優しい女なんかじゃないんだよ。だってあの女は姫が死ぬと解っていながら、それでも林檎を食わせたじゃないか」

「…っ、そ、れは……」


王子はとてもいとおしい者でも見るかのような眼差しを私に向けながら、とても残酷な言葉を吐く。
今まで目を逸らして見ないようにしてきた私を、まるで嘲笑うように。


「傷付いた?ごめんね。でもどうしようもなく姫が好きなんだ。他の誰でもない、姫じゃなくちゃ駄目なんだ。例え姫を苦しめたって手に入れたい。狂おしい程に姫を愛してる」


言い終わるや否や私の腕をソッと取って、そのまま手の甲に口付けを落とす。
まるで懇願でもしているかのようなその行為に、状況も忘れて呆けてしまう。
そしてじわじわと人々から新雪のようだと唄われる肌を林檎のように赤く火照らせる。


「ねえ、白雪姫」


王子はそんな私を見て、とても嬉しそうに笑って言った。


「姫はこんな俺でも、まだ感謝していると言ってくれるの?」


その声が、何故だか濡れているような気がしたのは、私の気のせいだろうか?


【毒入り林檎は王子製】


end...

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