親指姫


あるところに親指大の小さなお姫様が居ました。
親指姫と呼ばれるお姫様はどの花よりも可憐だという話。
花の国の王子様はその噂に興味を持ち、親指姫に会いに行きました。


花畑より少し外れた川の近く。小さなお姫様は居ました。


「なんて可憐なんだ……っ」


川面を見つめる親指姫の憂い顔に王子様は心を射止められたようです。
早速お近づきになりたいと、王子様は親指姫に近寄りました。
行動力は人一倍ですね。


「やあ、小さなお姫様?こんな所で何をしているんだい?」

「……っふぇ!?あ、あなたは?」

「私は花の国の王子です。あなたの噂を耳にして、是非ともあなたにお会いしたいと思い足を運びました」

「花の国!?」

「? 花の国が何か?」

「い、いえっ。そうなんですか。私に会いに。それは傍迷惑な」

「えっ?」

「いえ、こちらの話です」


傍迷惑と口にした親指姫ですが、その声は押し殺したような小さな声だった為、王子様には聞こえません。
聞き返しても親指姫は首を振るだけです。


「しかし姫?そのような潤んだ瞳をされてどうされたのですか?もし何かお困りのようでしたら私に話して下さい。私に出来る事でしたら何でも聞きますよ?」

「何でも……」


王子様はお姫様に良いところを見せたいと言わんばかりに、花のような笑顔と白い歯を見せて言います。
王子様は自分の見せ方を良く知っていますね。


「……では1つだけ」

「なんでしょう?」


親指姫に頼まれ事をした暁には、とか少しばかりの下心を持って王子様は親指姫を見つめます。
親指姫はそんな王子様に気付かず、小さな唇を震わせながらその言葉を口にしました。


「くしゃみが出そうなので近寄らないで頂けませんか?」

「え?」


くしゃみ?と首を傾げる王子様に親指姫は更に続けて言いました。



「私、花粉症なんです」



花の国とか花粉が凄いでしょう?
だから王子様に近寄られるともう辛くて辛くて。
アレルギーからの涙を溢しながら、ぽかんと口を開いたまま固まっている王子様を置き去りにして。


「じゃあ、あの、そろそろ薬を飲まないと本格的に辛いんで。すみませんが失礼します」


ペコリと頭を下げて、親指姫は去っていきました。


【花粉症の親指姫】


end...

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