ヘンゼルとグレーテル


目が醒めて、不意に右手に違和感を感じた。
未だ醒めない頭で右手を引っ張る。
すると、どうだろう。
何故か右手が動かない。
この時点になってやっと目を開けて自分の右手を見た。


「はあああああああ!?」


朝っぱらから大絶叫をかましたが、私は悪くないと言い切ろう。
ここは山奥だ。別に近所に家がある訳じゃないので迷惑を掛ける相手も居ない。

だからとりあえず。
こんな事になった原因であろう2人を呼んだ。
勿論大声で。


「ヘンゼル!グレーテル!またアンタ達ねっ!?いい加減手錠掛けるの止めなさいって言ってんでしょっ!!」

「あ、魔女さん起きた?」

「お寝坊さんだね、おはよう魔女さん」


ひょこんとリビングから繋がるドアから顔を出した2人の青年。ヘンゼルとグレーテル。
どうして山奥の、それも魔女の家に居るのか。
それは長くなるので割愛しよう。


「おはよう、じゃないわよ!良いからこの手錠を早く外しなさい!!」


ガシャン、と金属音を立てる手錠を左手の人差し指で差して言う。
ご丁寧に手錠は右手首とベッドを繋いでいて簡単には外れないようになっている。

けれど悲しいかな。
こんなことはもう慣れっこだ。
それでも声を荒げるのは、彼らが何故こんなことをするか分かるから。


「だってぇ、魔女さんったら最近構ってくれないんだもん」

「仕事仕事でもう我慢できなーい」


ほらやっぱり。
怒られているのに2人はにこにこと笑っている。


「だからってねぇ……はあ。もう分かった。分かりました。構ってあげるから手錠外していらっしゃい」

「本当に?」

「嘘じゃない?」

「今嘘ついてどうすんのよ」

「だって魔女さんこの前は外した瞬間に居なくなったし」

「結局帰ってきたの3日後とか、僕達寂しすぎて死ぬかと思ったよ?」

「ついでに魔女さんが帰ってきたらどうお仕置きしてあげようかってヘンゼルと相談したら」

「顔見た瞬間に俺達を家に追いやるし」

「「ねえ?本当に逃げない?」」

「……逃げないから交互に話すのは止めて。頭痛くなるから」

「じゃあいいよ」

「ヘンゼルその前に。魔女さん?おはようのちゅー」

「ああ、そうだったね。魔女さん俺にもちゅーね?」

「はいはい…」


2人が顔を近付けてくるので交互に頬におはようのキスを送れば、2人は当然のように唇にキスを返す。
一先ずそれで満足したのか、右手首の手錠は外され漸く自由になった。


「「魔女さん」」

「…なあに?」

「「大好きだよ!!」」

「はいはい。私もよー」


これが2人が来てからの我が家の日常。
そしてそんな2人に付き合ってしまうのもまた、日常なのだ。


【魔女が大好きなヘンゼルとグレーテル】


end...

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