ラプンツェル
キャベツ中毒に掛かりキャベツしか食べられなくなった母親がある日「魔女が栽培しているキャベツを食べなければ死んでしまう!」なんてついうっかり言ってしまったことが全ての始まりだったのかな?
母親があまりにも連呼するものだから困った父親が魔女にキャベツを分けて貰えないかと相談しに行っちゃったのもいけなかった気がするなぁ。
待ち構えていた魔女は嬉々として『君たちの子供をくれるならいくらでもキャベツあげるよ?』なんて言った。
そんな魔女も魔女だけど、『あ、じゃあ有り難く』なんて言った父親も父親だよね?
ひたすらに母親だけが大事だった父親は、特に子供は要らなかったみたいだからアッサリしてたんだろうけど。
そんなへびぃな過去を持ちながら生まれて来たのが十数年前。
魔女のキャベツと引き換えに魔女の家に来た私はラプンツェルと名付けられた。
(ラプンツェルってキャベツって意味だよね?ナニソレ嫌がらせ?)
魔女の家でそれはそれは大切に――いや、多少大切にされ過ぎながら育てられてきました。
不満と言えばそれくらいで、両親に売られたも同然だとはいっても見たこともない人達に何かを思ってもねぇ?
労力の無駄だと思うんだ。
それより過保護過ぎる魔女に過保護を止めろと言っていた方がまだ有意義だ。
だけれども。
私は見誤っていた。ヤツの過保護っぷりを。
それはある寒い日のこと。
魔女の前でした一つのくしゃみをしたことから始まった。
「くしゅ、」
最近冷えるもんなぁ。
毛布足さなきゃかなぁ。
そんなことを考えていた私の耳に届いた、ぼそぼそとした魔女の不穏な言葉。
「ラプンツェルが下界の汚らしい空気を吸って病気になったらどうしよう。風邪でも心配なのに。いっそこんな空気が悪いところじゃなくて病原菌が届かないくらい高い塔でも作ってそこに住もうかな」
「いや、くしゃみ一つでそこまでしなくても…」
なはは。とその時は笑い飛ばした。
だってまだこの時は冗談だと思ってたんだもん。
だけどヤツは本気だった。
思い立ったが吉日とばかりに馬鹿高い塔をちょちょいと魔法で作り上げ、朝に目覚めたら見知らぬ塔の中に居たのは衝撃的でした。
ついさっきまで魔女の家の寝室で魔女の腕の中で眠っていたから余計に。
「解せぬ」
ラプンツェルが発した小さな声はラプンツェルを抱きかかえてご満悦な魔女には届かなかった。
こうして魔女とラプンツェルの二人暮らし(場所が変わっただけで最初から二人暮らし)は始まった。
ただちょっとばかり完全な二人きりの空間になってしまったせいなのか。
ラプンツェルが思わずドン引きするくらい魔女のラプンツェルに対しての過剰な愛情は加速していったけれども。
【ドン引く愛情はプライスレス】
end...