そうすることは呼吸をするよりも自然な事でした。
「ふふっ」
「どうかした?」
突然笑いを溢した私に声を掛けるアナタ。
思い出し笑いをしたのだと言ったら、アナタは呆れを滲ませながら言葉を発する。
「全く。お前は本当に暢気な子だね」
「だって、可笑しいじゃないですか」
「何が?」
「さぁ、何がでしょう?」
「……君は僕を馬鹿にしているのかい?」
「ふふっ。まさか。私がアナタを馬鹿にするだなんて出来ませんよ」
「お前は本当に可笑しな子だね」
クスクスと笑う雰囲気を感じて、そんな風にアナタが笑う事が珍しくて思わずきょとんと目を丸くする。
それが可笑しいのか更に声を上げたアナタ。
あまり感情を表に出す事がないアナタの、そんな姿を知っているのは恐らく私だけ。
だからなのか。
自然と口角が上がってしまう。
「ふふっ。そんなに私は可笑しいですか?」
恐らく、というのは私がどうしたって確かめようがないからで。
もしかしたら誰か他にも居るのかも知れない。
それはそれで胸が痛むけれど、アナタがそれで良いと言うなら従うだけ。
アナタが幸せであるなら構わないと思うのです。
だから、どうしてですか?
「――ああ、とても可笑しいよ。それが君の良いところ何だけどね」
アナタの声は時折掠れていて。
何故掠れているのか、私には分からないし、知る術を持ってはいない。
けれど絞り出すように発される言葉に、無性に泣き出したくなるような切なさを孕んでいて。
今すぐにでもアナタを抱き締めてあげたいのに、私にはそれが出来ない。
「ねぇ。君は君の世界を奪った僕を嫌うかい?」
多分アナタは今、眉間に皺を寄せているのでしょうね。
昔から言い難い事を言う時に出る癖だから。
アナタの言葉にふるふると首を振って否定する。
「私がアナタを嫌う理由が何処にあると言うのです?」
ハッキリとそうアナタに告げる。
けれどアナタは納得が出来ないのか、なら、と言葉を続けた。
「君をこの家に縛り付けて置くような、そんな男の妻になって幸せなのか?」
幸せか?だなんて。
そんな事、聞かれずとも決まっていますよ。