あの『神子様に毒を盛られましたわ!』事件から数日。
側室以下臣下達は『神子様を国王から守り隊』として一致団結していた。
あの日に起こったことをその場に居た者達で口裏を合わせ、見事に神子を塔に匿うことに成功したのだ。
ちなみにだが、人が住める空間ではなかった塔は神子の力と『神子様を国王から守り隊』の総力によって快適空間へと変貌を遂げた。


よし。これでいつ国王が帰ってきても大丈夫だぞ。
『神子様を国王から守り隊』は円陣を組みながら、各々が国王が帰るその日まで仕事をこなすこと数日。


ついに外交から国王(と書いて変態)が帰ってきた。
しかも誰に聞くでもなく、いち早く城に愛しの神子が居ないことに(犬並みの嗅覚で)気付いた国王は、近くにいた兵士(親衛隊員1)に神子の所在を問い詰めた。
兵士は顔が(笑いで)引きつりそうになるのを必死に押さえ込み、沈痛な面持ちで留守の間に起こった出来事を話す。
国王(と書いて以下略)はわなわなと震えながら兵士の胸ぐらを掴み上げる。


「そんなことを、私の神子がする筈がないだろう…!」


酷く悲しげな声と顔に、神子様が言ったような変態っぷりは見られない。むしろいつもの国王だ。
その姿に本当のことを言おうか言わまいか悩んでいると胸ぐらを掴まれていた手を突然離された。
ケホ、と軽く噎せる兵士を見下ろしながら国王が口を開く。


「そんなことを言いやがった側室を今すぐ呼んでこい!というよりも他に女が居たことをバラした奴はどいつだ!神子がどれだけ俺に平穏をもたらしてくれているか分かっていないのか!クソがッ、生まれてきたことを後悔させてやる…!」


いつもの紳士然とした口調がどこかに消え去った国王。
その姿と言葉の内容を聞いて、聡い兵士は瞬時に悟った。


あ、駄目だ。この人軽くイっちゃってる。
俺の憧れた国王はどこいったんだろうなー、あ、まだ外交から帰ってきてないのか。そうかそうだよなー。


厳しい現実に現実逃避を始めた兵士を余所に国王は舌を打つと、事の次第を聞く為に大臣の部屋まで足を向ける。
そこで大臣も兵士と同じ様に現実逃避を試みようと思ったが、今度は国王がそれを許さず、心臓が縮み上がるような恐怖を味合わされた大臣は「塔に居ます」と、ついうっかり口を滑らせてしまった。
大臣の言葉を聞き漏らさずにその耳に入れた国王は、急ぎ愛しの神子に会いに塔に向かった。


自分には神子だけで神子以外はむしろ女に見えないから、とか。
神子以外に発情するわけがないだろう?とか。
その他、とても言葉に出来ないような変態発言を心の外、つまりは言い触らしながら塔を自慢の脚力で掛け上がる。


その度に泣きそうな顔をしたり、遠くを見つめながら「これは夢だこれは夢だこれは夢だ」と呟きながら、それでも兵士が全力で国王(と書いて危ない人)を止めようとしたが、その一切を振り払い国王(以下略)は突き進んだ。


その結果。
扉一枚を隔てて愛しの神子と対面した。
そのわけなのだが、やっと手に入れた平穏を神子が易々と手放すわけもなく。
冷たく、けれど一応柔らかく言い放った。


「変態行為を行う貴方様は嫌いです。もう少し周りを見て、悟れるくらいの包容力を身に付けてきたなら、お会いするのを考えなくもありません」


普段は温厚で誰よりも優しく暖かい、包容力を具現化したような彼女にそこまで言われれば引き下がるしかない。
と普通ならそうなるだろう。
けれどこの国王、包容力でいえば国一番の神子が限界を迎えるだけの男であった。


「駆け引きなんていつの間に覚えたんだい?私の愛しの神子は。いいよ。君の望みならどんな男にだってなってあげよう」


そんなことを高々と宣言し、その日から「包容力」とやらを見せる為に神子の元に通い夫と化した国王。
王宮では一種の名物にもなっていた。
そんな名物嫌だと王宮に務める誰をもが思ったが、それに真正面から耐えている神子を前にして言える人間は居なかった。


包容力なんてかなぐり捨てたいと思いながらも、国王に対してハッキリと引導を渡せない神子は、あの一件以来波長が合ったのか仲良くなった側室(親衛隊隊長)とお茶を飲むのが、今の一番の楽しみだと遠い目で語った。



end...?

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