苛立ちのままに突き放してやろうか?
そうは思っても、誰かと触れ合う事の少ない私にとっては、コイツの温もりは暖かくて。
突き放すに放せず、痛みに眉をしかめながらもこの抱擁を享受する。


「マァちゃんは本当に可愛くて仕方ないねぇ。敵が増えないか俺心配」

「むしろ私と貴様が敵だがな」

「今は違うでしょー?……まあ、魔族でも神族でもマァちゃんを傷付けたらそいつぶっ殺してマァちゃん拐って誰にも触れられない場所に閉じ込める気だけどー」

「そう易々と傷つけられるような鍛え方はしとらん」


明らかに神とは思えない発言を聞いた気がするが気にしていたら身が持たないのでそこは触れずに受け流す。
コイツとの付き合いで染み付いた事だ。
お陰で小煩い側近のどんな小言にも耐えられるようになった。
いやはや本当に要らなかったスキルだ。


「そんなことより、良い加減離さんか。洒落で済まん痛みになってきたぞ」

「んー、もうちょい」


ビリビリとした痛みは増していて本当に洒落にならない。
なのに神はにへらと笑うと更に身体を密着させてきた。
この腕を離すのは意図も簡単な事だ。
なのにそれが出来ないのは、


(惚れた弱味か)


誰にも、神にだってこの気持ちを打ち明けるつもりはない。
私が死ぬまで隠し通すと決めた感情。
そんなものを私が神に抱いていると知ったらコイツはどうするのだろうな。
いつものように戯れ言で誤魔化すか。
いっそ戦争になるやも知れん。

例え私とコイツがどうにかなった所で、どうにもならん。
触れ合うだけで傷付け合ってしまう。
そんな関係なのだから。
それが私達に定められた運命なのだから。


ああ。それでも。


「痛いぞ、神」

「うん。俺もイターイ」

「なら離せ」

「ヤダよー」


この温もりを。
例え痛みが伴ったとしても。

手離せない。
手離したくない。

ずっとこのままで居たい等と乙女のような心境にはならないけれど、叶うならばせめて。


(痛みの伴わない抱擁をしてみたかったものだ)


私か神のどちらかが死んだとしても。
それはあり得ない事だと知ってはいるけれど。



end...

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