私は地味だ。それはもう地味だ。どれくらい地味かと言えば、「あ、居たんだ」とリアクションされるくらい、地味だ。
それにショックを受けた事はない。
ショックなんて受けたって自分の地味さ加減が無くなる訳ではないし、もし万が一無くなったとしても、それは私が化粧なりお洒落なりの努力をした結果付いてくることだろう。
正直、そんな面倒なことはしたくない。
故に自分の地味さ加減を悲観したり、派手だったり目立つ子を羨んだ事はない。
そういうのは努力をして初めてしていい行為だと思っているから。
何の努力もしていない自分が、どうして文句を垂れられるのか。
……っと、話が長くなったな。
今現在進行形として、私は困っている。
困っている、というか、迷惑している、と言った方が正しいのか。
「先輩。オレ、先輩のことが好きなんです」
目の前で頬を赤らめながらも視線だけはしっかりと私を捕らえているイケメンくん。
地味で交遊関係も稀薄な私でも彼が誰だか知っている。
今年入学したばかりのまだピカピカ一年生。久遠昌也くんだ。
何故名前を、それもフルネームを知っているかと言うと、入学式に参加していた上級生の噂により彼の容姿が伝わり、噂を確かめに行った女子軍団により彼の名前と所属している部活、委員会が広められたからだ。
うん。イケメンと聞けば何でも食い付く。そんな肉食系な女子が私は嫌いじゃない。
でだ。そんな女子生徒達から人気が高く、また牽制し合われている久遠くんが、何故かこんな地味で面白味の欠片もない女に告白したか。
そこは別に重要じゃない。
まあ、普通だったら他の女子からの虐めやら牽制やら「調子乗ってんじゃねぇぞ、ブスが!」くらい呼び出された時に言われても可笑しくは無かったのだけれど。
諸事情によりそんな面白可笑しい展開にはならなかった。
「……あの、先輩」
「うん。なんだろう?」
「……へ、返事をっ、頂けませんかっ!」
「へんじ…」
返事と言えば告白の返事の事でOKだろうか?
むしろそれ以外ないよね。あれ?あるのかな?
ちらりと仰ぎ見た久遠くんは、もじもじと指を弄りながら顔を真っ赤に染めていた。
それを見て、これは告白の返事で良いらしいと判断する。
「うーん。申し訳ないんだけど、気持ちに応える事は出来ないかな」
「……あ、そう、ですか。あの、理由を聞いても、」
傷付いた瞳をする久遠くんに私も人の子なので、そこそこ心が痛まなかった訳ではない。
けれど、お付き合いする事は普通に無理だ。というか不可能。
「私さ、地味でしょ」
「そんなことないです!」
「そういうお世辞はいいよ」
「お世辞じゃないです!オレ本気で芳野先輩のこと可愛いって思いますし!」
「うん。ありがとう。それでね?お付き合いが出来ない理由は、私が地味だからってのと、正直君が好みのタイプじゃないってのの2つかな」
お世辞でも可愛いなんて言われて嬉しかったけれど、きっとそれで引き下がるような子ではないと判断してスッパリと無理な理由を言ってしまう。
ピキッと音がしそうなほど固まってしまった久遠くんに、「おーい」なんて声を掛けたけれど無反応。
ポツリと「好みじゃ、ない…」なんて声が聞こえた。
なのでトドメを刺してしまおうと言葉を放つ。
「うん。好みじゃない」
「――っ!」
「私の好みはね、君みたいに細マッチョで顔が整ってる人ではなくて、所謂フツメンのぽっちゃり部門が好きなんだよね」
以前同じように顔の綺麗な先輩に告白されて断った時、その先輩の取り巻きの女子達に「ブスのくせに告白されたからっていい気になってんじゃねぇよ!」と呼び出された事があった。
どうしてこんな平凡を絵に描いたような女に告白するのか全く分からないのと、自分の好みのタイプと真逆なので好きには決してなりませんよー、とリーダー格の先輩にそう言ったらポカンと目を丸くして驚かれた。
そして直ぐ様女子生徒のネットワークに広まったらしい。
久遠くんに気がある女子達はそれを知っていたのか私が久遠くんに呼び出されても何も言ってこなかった。
ストライクゾーンに掠りもしない久遠くんが私に振られる事は決定事項と捉えていたらしい。
傷心の久遠くんを慰めて好感度アップ。あわよくば彼女の座をゲット出来ればいいとでも考えていたのだろう。
それは中々に反抗心が沸き立てられる気がしないでもないけれど、意味のない事をするのは嫌いだ。