「別れようか?」
疑問系で言われたそのセリフに脳が一瞬、思考停止状態になった。
「……なんで?」
当然の疑問だと思う。
だって俺達は上手くいっていて。
事実さっきまで楽しいデートの真っ最中だった。
それがどうして別れ際にこんなセリフを言われなければいけないのだろう。
「もう疲れた」
「疲れたって…」
「アンタの女癖の悪さ、あと浮気相手からの嫉妬とか。そういうの、もう疲れた」
「……っ」
彼女の言葉に何も言えない。
だってその通りだから。
俺は女が好き。
でも縛られるのは大っ嫌い。
だから恋人何て作る事は滅多に無くて。ほとんど身体だけの関係。
そんなせいか、いつの頃からか俺の周りには遊び感覚の女しか近寄って来なくなった。
もしくは頭が堅くて、無駄に独占欲が強い女。
それでもまぁ、別に?
俺はキモチイイ事が出来ればそれで良かったわけで。
嫉妬に塗れた女が極稀に気紛れで作る“彼女”というボジションに居る子を虐めたりする事には気付いていたけど。見ないフリをしてきた。
理由は簡単。
めんどくさいから。
だって俺は割り切れる子が好きだし。
それでも良いって頷いたのはアッチだ。
なのに特別を作れば嫉妬を剥き出しにして、彼女ですら俺の女という地位に付いた事を自慢して。
正直うんざりだった。
確かに俺は正しい事をしているとは思わない。むしろ真逆だ。
それでも女のドロドロとした部分を何度も見せられれば彼女を作る気は失せていって。
それからは、まあ。
キモチイイ事が出来る女とだけ割り切った付き合いをしてきた。
それは社会に出てからも同じで。
多分俺は一生こんな感じで生きていくんだろうなぁ。とすら思っていた。
そんな所に出会ったのが目の前で俺に別れを切り出している千香だった。
凛と伸びた背に意思の強そうなつり目。長い黒髪をたなびかせる様は格好いい。所謂出来る女。
そんな千香がなんでこんな下半身ゆるゆるな俺なんかと付き合ってくれたのか。
ぶっちゃけ奇跡だ。
千香と付き合ってから千香を更に知っていって。
気付いた時には後に引けないくらい千香に惚れきっていた。
だけど千香と付き合っている癖に、俺は未だに浮気を止めない。
誰よりも千香が好き。
それだけはどうしたって変わらないし、変わるなんてあり得ない。
それと同じくらい、俺は浮気を止められない。
千香を手放したくないなんて思うこと自体、本当は俺が思っちゃいけないことだって分かっては要る。
頭では、だけど。