「分かった?だからソコ退いてよ」
「……風紀委員として、見過ごせないようなことが起きると解っていて退くわけがないだろう」
真面目だなぁ。と、思ったのも一瞬。
校舎の一角で群れを作り自分達を誇示するような女共が視界の端にちらついた。
チッ、と小さく舌打ちを打つ。
「良いから退けよ。俺さ、今機嫌悪いの」
今日会った時に見てしまったのだ。
冴島さんの手首から腕に向かって、隠されていてきちんと確認出来たわけではないけれど、青黒い痣が見え隠れしていた。
蹴られたか殴られたか。その両方か。
恐らく制服に隠れた場所はもっと酷いんだろうと容易に想像が付いた。
きっと気が弱いから、されるがままだったのだろう。
まあ、抵抗したら余程じゃない限り酷くなるか、ターゲットを他に移すかだろうから。冴島さんは後者が嫌で大人しく苛められているのだと。
気が弱いくせに、責任感と自己犠牲の精神は人一倍強いから。
そんな面倒くさい性格だって分かっていたから、今までは黙っていてやったけれど。
あんなにもハッキリと何れ俺のもんになる子に手を出されたら、
(さすがに、頭にクるよね?)
「香坂。お前は何故そこまで冴島に固執する?こう言ってはなんだが、冴島は香坂に好意を持っている訳でもない。不毛だろう?」
風紀くんの言葉にふふっ、と笑ってしまった。
「逆に聞くけどさ。冴島さんに好意が無きゃ、俺が助けちゃダメなの?」
「それは、」
「普通はさー。好きな子が苛められてたら助けたいって思うだろ」
「……」
「だから退いてよ風紀くん」
じゃないと。
先ずは君から伸しちゃうぞ。
茶目っ気を滲ませながら、半分以上本気で言えば、風紀くんは重い溜め息を吐いた。
「……なんというか、ノロケられた気分だ」
「んー?まだノロケられるような関係じゃないから、そうなれたら盛大にノロケてあげるよ?」
「それは遠慮したいな」
風紀くんは苦笑しながらそう言うと、身体を横にずらして塞いでいた道を開けた。
話したことなんて無かったけれど。うん、話が通じる相手で良かった。
「あまり目立つ行動はするなよ」
「ああ、それは勿論。一応お礼は言っとくよ。ありがとう」
ひらひらと手を振って、おざなりな礼を述べると風紀くんの横を小走りに通り抜ける。
話しは通じるけれど、良い性格してたせいで時間食っちゃったな。
早くしないと――冴島さんを苛めている女子を、懲らしめられなくなっちゃう。
口角をゆるりと上げると、走るスピードを更に上げた。