刹那の恋だったのだと今なら思う。
誰に何を言われても、万人が違うと答えても。
私だけはソレを、刹那の恋だと称した。
そう言えば、目の前の彼は困ったように眉を下げた。
けれど何処か優しい眼差しを浮かべている。
そんな時は彼女の事を思い出して居るのだと、彼と話した数ヶ月で学んだ。
「……優しい子だったんだ」
ぽつりと落とされた言葉。
私はそれに返事を返すことなく膝の上に置いたメモ帳に今の言葉を走らせる。
「優しくて、お人好しで、困ったように笑う。とても馬鹿な子」
そういう声には慈愛が籠められているように感じた。
「たった数時間だけしか話せなかったけど、でも、」
そこで言葉が途切れる。
紙に走らせたペンを止めて頭を上げれば、彼は目を閉じていた。
閉じられた目から零れた涙が頬に滑る。
「――ああ、食べなきゃ良かったなぁ」
軽い口調なのに、その言葉からは重い後悔が読み取れた。