▽ 未来永劫
ずっとずぅっと憎かった。
だって貴方は私を選んではくれなかったのだもの。
私と夫婦になって下さったのに、私以外の女を愛したんですもの。
そんな貴方がずぅっと憎くて。
殺してしまいたかった。
貴方も、貴方が愛した女も。
「でも、思ったんです」
うっそりと笑いながら、貴方を見つめる。
貴方の目は怯えと、そして敵意が込められていた。
「……あいつは、」
「……大丈夫ですわ。貴方が愛されたあの女に、手を出すつもりはありませんもの」
「それは、…本当か?」
「ええ、」
今は、まだ。
とは言わず、にこりと微笑み掛ければあからさまにホッとした顔。
むかつくむかつくむかつく。
あの女が生きていると、害が加えられていないと分かった瞬間。
そんな顔をするだなんて。
本当に、酷い人。
それでも、
「……私、ずっと貴方が好きだったんです」
「何を言って、」
「幼い頃から、ずっと、ずぅっと」
貴方を好きだったんです。
貴方の言葉を遮ってそう言えば、目を丸くする貴方の姿。
それに少しだけ笑ってしまう。
「ふふ。知らなかったんですか?私、本当に貴方が好きなんですよ」
だから。だから、
「許せないんです」
貴方も、あの女も。
「未来永劫、恨んで、憎み続けますわ。貴方もあの女も、苦しめばいいんです」
苦しんで苦しんで、楽になることなんてなければいいんです。
「私はそれを見て、笑っていて差し上げますわ」
「…っ!待て!」
スッと隠し持っていた短剣を振り翳した。
貴方は刺されると思ったのか咄嗟に腕を交差して顔を背ける。
「それまでは、さようなら」
振り翳した短剣を私の胸に突き刺す。
吹き出した血液が貴方に降り掛かるのを、霞む意識の中見ていた。
「ッオイ!」
焦った顔をする貴方。
どうして自分ではないかと、その瞳は言っていたけれど。
(私が貴方を刺せるわけがないですわ)
例え憎くても、それだけは出来なかった。
だから変わりに、自身を。
心臓からはどくりどくりと血液が溢れ出てきて、貴方の身体を濡らす。
私の憎しみの感情が貴方に染み付いていくようで、少しだけ気分が良かった。
(忘れられない程の鮮烈な記憶を、貴方の中に)
そうして。
私の呪いは完成する。
心臓に突き刺した呪いの掛かった短剣と、憎しみが隠った血液を。
貴方の全身に染み渡らせて、貴方があの女へ想いを寄せ続ける限り。
「あなたを、呪いつづけます」
この憎しみが潰える日まで。
好きだったんです。
幼い頃から、貴方だけが好きだったんです。
それをポッと出の女に取られて、私が納得するとでも思いましたか?
悔しくないと、傷付かないと。
笑っていられるとでも思いましたか?
そんなことあるわけ無いじゃないですか。
貴方の側に、私ではない女が居ることなんて許せるわけが無いじゃないですか。
大切で、愛していたからこそ、貴方に裏切られた事実が何よりも辛かった。
だから、貴方も、私から貴方を奪ったあの女も、苦しめばいいんです。
その代わり。
人を呪わば穴二つ。
貴方を呪ったその瞬間から。
私はとうに、穴の中。
未来永劫。
“貴方と”幸せになることはありませんわ。
end...
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