▽ この手で奪った証を
※死ネタ・血表現あります。
君を愛していたのだと。
もし僕がそう言ったなら、君は信じてくれるかい?
「…っハ、信じると思う?」
こんな状況下で。
こんなことをされて。
「んー。僕なら信じられないかな」
そう言ったなら、君はだろうねと呟いて力無く地面に頬を付けた。
「もう死ぬのかい?つまらないなぁ」
「……だ、れが、そうしたのかな…っ?」
「はは。僕だね」
僕が幾度も君に切り付けた包丁は、君の腹に突き刺さったまま。
こぷり、音がしそうな血液の珠は君の全身から零れ出ている。
「ねぇ、でも愛していたんだよ」
「ま、…た、それ?」
「ふふ。だって君、今にも死んじゃいそうでしょ?ちゃんと伝えるべき事は伝えておかないとさ」
「できれば、っは、こんな状況で、言われたくはなかった、わ」
「君はこうでもしないと信じてくれなかったでしょ?」
僕の愛を。
僕の本気を。
いつもいつも適当に交わして。
どれだけ僕が傷付いたと思っているの?
「傷付いて、傷付いて、いい加減疲れちゃったんだ」
今でも君を確かに愛しているよ。
君の痛みに歪んだ顔に愉悦すら走る。
どんな君でもいとおしい。
そりゃ、一番は僕に笑い掛けてくれた顔なんだけど。
僕はもう、僕以外にも見せる顔だけじゃ我慢できなくなっちゃったから。
「君を殺したら、君は僕だけのモノになる。幸せだな」
「……ばかね、」
「ふふ。馬鹿だよ」
意味、分かってないでしょ。
そう呟いて、君は微かに目を細めると静かに瞼を閉じた。
「意味なんて分からなくていいよ。だって君はもう僕のモノになったんだから」
君の心は要らない。
だって君は絶対にくれないだろう?
君の身体は要らない。
だってあの世とやらには持っていけないから。
だから君の命を僕に頂戴?
何も手に入らないなら。
確かに奪ったと実感出来る確かなモノを。
end...
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